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マジェンタの瞳  作者: よろず
第一章生誕祭
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生誕祭一日目2

 野営地から街へと出る前に、ヴィーは男の腕から降ろされた。降ろされはしたが、すぐに男の左手がヴィーの手首を掴む。フード越しに見上げた男はにっこりと微笑み、逃がさないと瞳が語っていた。


「ヴィー、私の事はライと呼んで下さい。」

「ライ、ね。」

「ヴィーは何が好きですか?私はこの街の人間ではないので店などわかりませんが…」

「……街を、歩きたい。」

「ではそうしましょう。」


 ライはヴィーの手首を掴んだままで歩き出す。まるで罪人だとヴィーは溜息を吐いたが、文句は飲み込んだ。文句を口にしてもライは取り合ってはくれないだろうと諦めたのだ。


「ご存知ですか?街を彩る三色はシルヴァン王のお好きな色だとか。」

「……そうらしいな。」

「この甘い香りも、シルヴァン王の好物の菓子らしいです。ヴィーはもう召し上がりましたか?」

「食べた。」

「あれは紅茶とよく合う。ヴィー、紅茶は好きですか?」

「あまり飲まない。」


 くだらない話を続けるライには適当に返事をして、ヴィーは昨日よりも豪華になった街をキョロキョロと見回す。ネスとミアが共にいない為守る人間のいない街歩きは気楽だが、やはり寂しい物だなとヴィーは思った。


「ヴィー、フード邪魔ではないですか?」

「邪魔ではない。」

「この手袋、外しても良いですか?」

「駄目だ。」

「きっと手も美しいのでしょうね。何故、そんな格好をしているんです?」


 本題に入ったのかとヴィーは隣を歩くライの顔を見上げる。微笑んでいるライの表情からは考えが読み取れない。じっと見上げるヴィーのフードが微かにずらされ、ヴィーはまた慌てて止める。ライの動きは気配がない。油断ならない男だなと、ヴィーは溜息を一つ吐き出した。


「やはり美しい。美しい故に、隠しているんですか?」


 フードが後ろに少しずらされた為に、ヴィーの視界にははっきりとライの顔が見える。碧の瞳がうっとりとヴィーを見下ろして、頬を微かに染めている。そんな風に男に見られた事のないヴィーは内心酷く焦る。急いでフードを深く被り直して、視界を遮った。


「顔を隠してしまうのなら、手袋を外しても良いですか?」

「駄目だ。」

「何故です?」

「得体の知れない男に肌は見せん。」

「国の風習ですか?」

「そうやって人に根掘り葉掘り質問するのは、お前の国の風習か?」


 ヴィーの嫌味に、ライはくすくすと静かに笑う。


「失礼しました。こんなに他人に興味を持ったのは初めてで、距離感がわからない。」


 ふんとヴィーが鼻を鳴らしたのを最後に、二人は黙って人混みを歩いた。

 生誕祭一日目の街はあらゆる所で酒や食べ物が提供されている。昨日ネスとミアと一緒に宣伝をした噴水の広場には机と椅子が並べられ、人々はそこで酒や食事を楽しんでいた。皆笑顔で、心から祭りを楽しんでいるようだ。

 噴水広場を抜けると今度は工芸品を扱う店舗がひしめく通りに出る。そこに並べられる宝飾品は民が手に取り易い金額の物が多く。色はやはり、赤や青、赤紫の三色が多かった。


「ヴィーは何色が好きですか?」

「……赤。青も好きだ。」


 ぽつりとヴィーは答え、ライはにっこりと微笑んで掴んだままのヴィーの手を引いて宝飾品が並ぶ机に近付いた。


「どちらの色も似合いそうだ。髪は、何色ですか?」


 伸ばされた手を、今度はヴィーは払った。流石に三度も不意打ちをくらうものかとフード越しにライを睨む。


「残念。髪色が分かれば髪飾りを選べるのですが…首飾りはいかがです?」

「何も買う気はない。」

「私が、あなたに買いたいのです。」

「いらん。」


 ヴィーは棚から離れて歩き出そうとするがライに手首を掴まれている為に進めない。力で敵わない事にイラついて、ヴィーは歯がみする。

 そうこうする内にライは何かを購入してしまい、目の前にぶら下げられた。


「ガラス玉のようですが、青の中に赤がある。綺麗な色だと思いませんか?差し上げます。」

「いらん。」

「受け取って下さらないなら、ここでフードを剥いで無理矢理首に掛けますよ。」

「お、前は…何がしたいんだ?」


 がっくりと肩を落として、ヴィーは掴まれているのとは逆の手を差し出して受け取った。それを満足気に見やり、ライは更なる要求を口に出す。


「付けて下さい。」


 大きな溜息を吐き出して、ヴィーは要求に応えてそれを首に掛けた。別に変な細工がある訳でもない。受け取った以上はヴィーの物だ。


「嬉しいです。そろそろ戻りましょうか?」


 本当に嬉しそうに緩んだ顔をライがするものだから、ヴィーは黙り込む。

 変な男に会ってしまったという脱力感に襲われ、戻った後でネス達になんて説明すれば良いのだろうと頭を悩ませる。掴まれた手首をじっと眺め、そのままぼんやりと、ヴィーは身を任せて歩いた。



 ライはヴィーを野営地の入り口まで送ると、あっさり解放してくれた。また来ますと背を向けたライを、ヴィーは呼び止める。

 首を傾げて振り向いたライを見上げ、ヴィーは距離を詰めて内緒話の為に耳を貸せと肩の服を引っ張った。素直に従ったライが体を傾け、ヴィーは耳元に口を寄せる。


「女だと伏せている。口外しないでくれるか?」

「それは…男として生きていると?」


 こくんと促いたヴィーを見下ろしたライは驚いた顔になる。じっとヴィーの姿を観察して、顎に手を添えた。


「その姿はその為ですか。」


 こくんと促いたヴィーに、ライは笑い掛ける。


「また、会いに来ても良いですか?」

「断っても来そうだな。」

「はい。また来ます。」


 踵を返し、ライは去って行く。マントのフードを被った後ろ姿を見送りながら、口外しないとは約束しなかったなと、ヴィーは小さく溜息を吐いて野営地へと入って行った。

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