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マジェンタの瞳  作者: よろず
第一章生誕祭
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生誕祭五日目

 五日目の朝は騒然とした幕開けとなった。

 城から使者がやって来て、シルヴァン王の前での公演を依頼されたのだ。一座の準備が出来て都合の良い時で良いとの事だったが、団長のバーンズも、一座の面々も、広場での公演を急遽取り止めて王城での公演の準備に追われる事となった。

 他国でも王族の前での公演は経験した事があった為、そこまで大きな混乱も無く準備を終えた一座は昼頃には王城に向かう為に野営地を発った。


「ヴィーが残るの、ライ関係かな?」


 ミアの隣を歩くネスがぽつりと零す。

 ヴィーは使者の訪れの前にふらりと姿を消して、いつの間にか戻って来て準備を手伝い、出発する時に留守番を申し出たのだ。

 団長とミア達の両親も不思議そうにしていた様子から、三人はライの事を詳しく知らないのだなとミアとネスは察した。

 これまでの他国での公演ではヴィーは必ず護衛として皆の側にいた。それなのにライアでの公演では度々留守番を申し出たり、持ち場を離れたりしている。この街はヴィーの過去に関わりがある場所なのだと、一座の誰もが気付いていた。

 昨日の昼間のヴィーの言葉を思い出して、ミアは顔を曇らせる。


「なんだか、お城行くの怖いな。」

「俺もだ。なんかありそう。」

「でも、ヴィーが来ないって事は危険はないって事だよね?」

「だと思う。危険なら止めるか、絶対一緒に来るだろ。」

「だよね。早くヴィーの所、帰りたいな。」

「まだ城に着いてすらねぇよ。バーンズ一座一の踊り子様が頑張んねぇでどうすんだ。」

「だね!頑張ってから、さっさとヴィーの所に帰ろう!」

「おう!」


 不安を抱えた姉弟は、お互いを奮い立たせながら王城へと向かった。

 正面の門から招き入れらた王城内は今まで行ったどの国の物よりも広く、大きく、華やかだった。豪華絢爛ではなく質素な美しさのある建物で、調度品も質は良さそうだが嫌味がない。

 一座は広い庭へと通されて、そこを使うよう案内してくれた騎士に告げられた。

 王族の前では踊り子の舞と剣舞を披露するのが常だ。その為に楽器を配置して簡単な飾り付けをするだけで準備は整う。

 準備が整った事を伝えると王はすぐに来ると告げられて、皆緊張しながら王の訪れを待った。

 護衛としてネスは踊り子の衣装を着たミアの側に控え、片膝を地面に付いて頭を下げた状態で高貴な人々が中庭に出て来て席に着くのを待つ。


「急な申し出に対応して頂き感謝する。どうか顔を上げてくれ。」


 今声を発する事が出来る唯一は王だ。シルヴァン王の声に一座は耳を疑い、恐る恐る顔を上げる。

 そこには、プラチナブロンドの長い髪を右側で一つに緩く結い、ゆったりとした服を纏った碧い瞳の男。宝石のような瞳が、じっと一座の面々の顔を観察するように見ている。そしてその隣には、いつもの簡素な服ではなく、貴族らしい衣装を纏ったライがいた。

 招いてくれた礼を団長が述べるのを聞きながら、ネスもミアも、ヴィーが留守番をしたのはやはりライの所為かとぼんやり考える。

 音楽に合わせてミア達踊り子が舞い、剣舞を披露し、イルネスの貴族や王達の拍手に包まれて再び一座は膝を付いて頭を下げた。


「素晴らしい舞であった。して、このライオネルが世話になっていると聞いたが、驚かせてしまっただろうか?」


 シルヴァン王が団長に問い掛け、団長は否定の言葉を口にする。

 ライの本当の名を聞いたネスは、驚いてるに決まっていると内心で呟いた。ネスの視線に気が付いたライは苦笑を浮かべている。もしまた野営地に来たら根掘り葉掘り聞いてやろうと、ネスは心に決めた。


「余がそなたらを呼んだ本題なのだが、まず、皆は余の声に聞き覚えがあるようだな?」


 全員冷静を装ってはいるが、内心では冷や汗を掻いていた。顔を見て聞く分には分からないが、頭を下げた状態で聞いたシルヴァン王の第一声がヴィーそのものだったのだ。

 碧い瞳にじっと見据えられ、誰も何も声を発しない。


「団長殿とそこの赤毛の女と護衛の男、そなたらは余の姿に見覚えがあるのではないか?」


 王が言う男と女とは、ビアッカとロイドだった。団長と二人は青褪めた顔を見合わせた。


「怯える必要は無い。人を探しているのだ。余とそっくりな顔をしたマジェンタの瞳の女。彼女は今何処にいる?」

「お、恐れながら陛下。陛下が仰る女性を探している理由をお聞かせ願えますか?」


 団長が震える声で問うと、王は苦く笑う。


「大切な人だ。怯えさせて悪かった。褒美を受け取って、ゆっくり休むと良い。そなたらの舞、大いに楽しませてもらった。」


 優しく笑って穏やかな声で告げるとシルヴァン王は立ち上がる。急いで頭を下げた一座を残して、観客達は王に続いて城へと戻って行く。


「ネス、顔を上げて下さい。」


 頭を下げているネスにライが近寄って声を掛けた。顔を上げたネスが不機嫌に顔を顰めているのを見て、ライは苦く笑う。


「驚かせてすみません。」

「説明、してくれんの?」

「どうでしょう?全てが終わったら、ですかね。」

「秘密ばっかだな。」


 眉を顰めて唇を尖らせたネスの赤毛をライが片手でくしゃりと撫でた。また、と言葉を残してライも城の中へと消える。

 誰も何も言わずにテキパキと片付け、逃げるように城を後にした。

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