宿屋酒場の主人、ノーグ・ポゥはかく語りき
※これは『とある冒険者カミィユ・ナーザの話』と同じ世界観です。
気晴らし程度にどうぞ。
よくある話。
特殊な能力を持つ人たちが、世界を救うとか、世界をいじるとか。
「まるで御伽噺みたいだろう? でも、それが本当っぽいから性質悪いよな」
冒険者が集う街、ゼナン。そのとある宿屋酒場のカウンターで、店主ノーグ・ポゥは顔をしかめてそういった。旅人だろう若者に「サービスだ」と言ってお茶を勧めつつ、ノーグは溜息混じりに語り始める。
「この世界のニンゲンてのは、10歳ぐらいまでに2つに別れる。それが『冒険者になれる』奴と『冒険者になれない』奴だ。ってーのも、だ。『冒険者になれる』奴は10歳ぐらいまでに異能力を持つっていうんだからなー」
ヤオヨロズ教の神官たち曰く、神々が試練を与えたニンゲンの証で、それ故に力を持たないニンゲンのために奉仕せよ、という事なのだ、と付け加えながら、相槌を打つ旅人に「こいつも食え」とサンドウィッチを勧めた。客がその人しかいないのか、暇なのだろう。
ノーグは少し顔をしかめつつ、顎で部屋の隅を指した。ちょっと焦げた跡のあるそこはピカピカに床が磨かれ、真新しいテーブルが置かれている。おまけに何故か『私闘お断り』という張り紙がしてあった。ノーグはふん、と鼻を鳴らす。
「あそこ、焦げてるだろ? 生き物以外を燃やす炎でやっちまったもんだ。先日、バカな連中が厄介なのを敵に回してよぉ、派手にしちまったんだわ」
そういうと、ノーグはカウンターから出、どっかりと旅人の傍にあった椅子に腰掛けた。
「ああ、話がそれちまったな。お詫びにオレの能力をみせてやるよ。こうみえても、こいつが生身の時は『冒険者』やってたからな」
そう言って右足を叩けば、こんこん、と乾いた音がした。どうやら、義足らしい。
ノーグは苦笑すると旅人の汚れた外套に軽く触れて念じた。するとどうだろう。あっという間に綺麗になってしまった。そのことに旅人が驚いていると、ノーグの表情が少し明るくなる。
「オレの能力は『瞬間洗濯』といってな。触れた衣服をあっという間に綺麗にするものだ。『冒険者』時代はお陰で快適な生活が出来たし、今もサービスに生かせているよ」
そう笑うノーグであったが、ふと、遠い眼になる。
「けどな。この異能力ってのはピンキリ、玉石混合な訳だ。オレの能力は人の役に立ってはいる。けど、中には役に立つか否か解らないのもあるわけだ。その所為で、『冒険者』の中ではいつの間にかカーストのような物が出来上がっている。『冒険に役に立つ』とか『かっこいい』能力は大抵上。『かっこわるい』とか『役に立たない』のは下って訳だ」
ノーグには、心当たりがあるのか、表情を曇らせている。旅人が不思議そうに見ていると、ノーグがぽつり、とこう言った。
「なんか可笑しいよな。『冒険者』は力なき者に奉仕するべく力を授かった、筈なのによ?」
ノーグが肩をすくめていると、カラン、とドアベルがなる。開かれた扉から入ってきたのは、包帯を彼方此方に巻き、松葉杖を付く者、足を引きずって歩く者などボロボロな男たちだった。
「怪我が治るまで待っててやるから、早く治せ。治ったらここでこき使ってやるぞ。お前らを蘇生してくれた神官たちへの支払いもあるんだからよ」
男たちはうるさいだのなんだの言いながら、ぞろぞろ奥のほうへ消えていく。その最後を歩く男は酷くやつれ、ふらふらしていた。
「あいつら、珍しい『再生能力』を持つ冒険者を囮にしてな。本人から報復されたんだ。いい気味だよ。ご丁寧に『蘇生』できる神官つれて来た上で『1回死んでみればわかるよ』って奪った剣でばっさばっさ、だよ」
淡々と語るノーグに、旅人はぽかん、とする。
「さっきの話はこれに繋がる。報復に来た相手を追い返そうと炎を使ったみたいだけど、火事になるからやめろっつーたのにな。まぁ、仲間の魔法使いがそれを直ぐ消してくれたからよかったけど」
そこまで言うと、ノーグはカウンターに戻り、旅人に言った。
「『冒険者』に仕事を頼むなら、選んだほうがいいぞ。能力云々じゃなくて、信頼できるか、とか腕とかでな?」
* * * * *
異能力者のみが『冒険者』になれる世界。
八百万の神々に見守られ、試練と使命を与えられた『冒険者』達は今日も世界をめぐる。
冒険者が集まる街、ゼナンの片隅にて。今後も時間を見つけてこの街を舞台とした悲喜交々を書こうと思っています。