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3.第三王女に懐かれました

セリフ前後の空行を消してみました。どちらが良いでしょうか? ご意見を頂戴できれば嬉しいです。

 最強の軍隊の定義はいくつかある。

 この世界には魔法があるため地球のそれとは少々異なり一騎当千を文字通りに実現する個人が現れる可能性はゼロではない。が、それは私というイチがあるためにゼロではないというだけのこと。実質的にゼロだ。大体の能力は横並びなのである。

 ゆえに、軍の構成員の数を保つ能力に優れること――これがひとつの最強といえるわけだ。

 で、

「ねえ、リンゴ。ポチさんにあげた治療薬を大量生産できないかしら? 差し当たり十万本」

「レシピのレの字も差し上げません。察して」

 私は世界をごっそりひっくり返す超軍隊の創設に携わる気など皆無なのです。

「……お前、たった半日でニルウィ姫様とずいぶん仲良くなったんだな」

「ハゲさん助けて。この娘、怖い。助けないと半裸で表に走り出て『市長に襲われそうになった』って叫ぶ」

「鬼かお前は!?」

「そのセリフはジャムのビンのフタが開けられない人から聞いたよ」

「あん?」

 息子のこととは露知らず疑問符を浮かべるハゲさん市長の前では、意匠を凝らした高そうな湯呑みが三つ、同じように湯気をあげていた。

 本人にとっては建前であろうとも、王家の人間はそれだけでは動かせない。ガーナ市まで足を運ばせたからにはお仕事がある。

 では、この場合のお姫様の仕事とは何か? 答えは『名所巡り』。

 街の名所を見て回り、特産品に手を触れて、名士たちとおいしいものを食べて歓談するだけである――一日十八時間ほどぶっ続けで。

 完全に日が暮れて、日をまたいでようやく最後の会合である。

 護衛役だから私は暇かというとそんなことはなく、『有名冒険者と王家と市長と街の名士』の仲の良さを示す政治的なパフォーマンスなので私も賓客なのだ。もうやだ帰りたい。

 疲れの色ひとつ見せず姫君と市長らしくある二人をかなり見直しました。だから帰らせて。

 そんな背景はさておき。

「ニル、そろそろ私を降ろして欲しいんですが」

 とある館で名士を待つ間、私はイスに座るニルウィ姫――ニルの膝の上に座らされていた。

 何があったかといえば、市庁舎か館側の不手際で、私のことをただの護衛と通達されていたらしくイスの数が足りなかった。それに気付いたニルがひょいと私を抱き上げて「これで構いませんわ」と言ったのだ。

 子供扱いは少々気になるが目くじらを立てるほどのことでもない、と私はニルの好意を受け取った。とまあ、そのような理由。

「降ろす、ですの?」

 ニルさん、なんで首を傾げますか。

「どうしてかしら?」

「私のイス用意されたし」

「嫌」

 何を言ってるんだ、お前は?

「おーう、使用人方。コイツはイスは要らんらしい。片付けてやってくれ」

「ハゲさんまで何言ってんですか、ちょっと!?」

「そうね。片付けなさい。邪魔だわ」

「あー、待って! 待って待って、片付けないで片付けないでー!」

 手振足振りじたばたするも、抱きつかれていては降りることもできない。

「ふふふー、可愛いわ。無駄な抵抗をするリンゴって何かそそられるものがあるのよね」

「ぎゃあ、この娘Sっ気もあるぅー!?」

 結局、姫君と市長の命が優先され、片付けられてしまう。

「わたくしのふとした思い付きが、このようなすばらしい結果を招くとは……ええ、ええ、最高ですわ!」

 あかん、この娘何かに目覚めとる。

「も、もう、私イス要らないから降ろしてぇ……護衛らしく立ってるからぁ……」

「ダメよ。王家とリンゴの仲が良いことをたっぷり示さなくちゃ♪」

 と、口ではまともなことを言いながら、いい笑顔でかいぐりかいぐり頭を撫でてくる。

「そこのあなた。わたくしの荷物からブラシとリボンを用意してくれるかしら? あと、フリルの付いた――」

「ちょっとちょっとちょっと! 何する気!? 私、お人形さんじゃないんだよ!?」

「大丈夫ですわ。天井の木目の終端を探す合間に終わりますから」

「やめてその表現やめて。あと鼻息荒い。怖い。この娘怖い。本気で怖い!」

「ふふ……安心して、リンゴ。私、優しくできるから……ぐふ、ぐふふ……ぐふっ……!」

「笑い方! 笑い方が全然姫君じゃない! あと、優しく何する気なのさ!?」

「あ。わたくし、もう我慢ができそうに」

「して!? 我慢して!? 何をかはわからないけど、理性を手放さないで!」

「……リンゴ。吸うのと揉むのとどちらなら許されるかしら?」

「どこを!? いや、どこでもダメだけどさ!?」

「あー……俺は席を外した方がいいか?」

「行かないでハゲさん! ハゲさんが居なくなったらその瞬間終わっちゃいそうだから!」

「リンゴ。終わるのではないわ。――始まるのよ!」

「何がっ!?」




 ぐったり。

 と、そう表現するよりないくらい疲れ果てた。

「おう、お前……大丈夫か?」

 ああ、ハゲさんが真顔で心配するくらいひどい顔してるんだなぁ、私。

「……おんな、こわい」

「そうか……でも、お前も女だからな?」

「……こわい」

 その後、なんとか貞操に関わる事態に発展する前に名士がやってきてくれたおかげで助かるも、精神的疲労はえらいことになっている。

 別に女性に好かれるのが嫌になったわけではない。未だに私の性認識は男性寄りであり、見目麗しく抱きつかれると背中にぷにょぷにょした重量物が当たるニルには、ごちそうさまと言いたいものがある。

 が、お人形さん扱い女の子扱いでハァハァされるのはちょっと違う気がする。挟持が、ちくちく痛むのです。『きれいなお姉さんは好きだけど、子供扱いされるのは嫌』な感覚に似ているかもしれない。我ながらややこしい。

「リンゴー♪」

「ええい、寄るな触るな近付くな半径五〇ヤーグ以内に入るな」

「ああん♪」

 抱き着いて、冗談交じりにちゅーっと唇を突き出してじゃれつくニルを、どうにかこうにか引き剥がす。

「おう、お前も元気になったみたいだし、一件落着だな」

「ハゲさん、その一言で済まさないで。大分これ政治問題だよ?」

「いいじゃねぇか、女同士。減るもんでなし」

「減らないけど何か減るんです」

 正気度とかマジックポイントとかが。この世界そういう便利ステータスないけどさ。

「うふ……ふ……」

 きゅう、とニルもテーブルに突っ伏す。

「わたくしも疲れましたわ……」

 どうやら先ほどのどたばたが最後の空元気だったらしい。

「ニル。そんなにつらいなら無理しないで三日間の日程で組めば――」

「いーやーでーすーのー! せっかくここまで来て『冒険者リンゴ』を目にできないでは、一生悔いが残りますわ!」

 ニルはスケジュールの間隙を縫うようにしてかなり強引にガーナ市訪問をねじ込んでいる。

 なので、滞在期間は三日間。これは変えられない。

 しかし、ニルは冒険者をしている私がどうしても見たいということで、三日間のお仕事を強引に二日間にまとめる予定を組み立てた。

 結果、この世界では戦時中ですら見られないような分刻みの超過密日程となったのである。

「わかったわかった。じゃあ、私も付き合うよ。でも、無理はダメだからね? いいかい?」

「はいですの」

「それは言葉として合って……いや何も言うまい」

「?」

 姫君口調に慣れすぎて逆に普通の言葉遣いが怪しくなってる不憫なニルさんです。

「それでは、リンゴにハリランダ市長、悪いですけれど先に休ませてもらいますわ」

「うん、また明日。ああ、そうだニル。明日からは私の家を訪ねてきちゃダメだからね?」

「……ダメですの?」

「捨てられた子犬みたいな顔をしてもダメです。明日からは私がニルを訪ねるんだから」

「遊びに来てくださいますの!?」

「護衛という名目で、ね。そんなに時間は取れないだろうけれど、ひとつふたつなら冒険の思い出も語れるんじゃないかな?」

 曇り顔をぱっと晴れにして、ニルは喜んだ。

「ああ、明日が楽しみですわ♪ おやすみなさい、リンゴ」

「うん、おやすみ。ニル」

 ニルは笑顔で手を振って、護衛に連れられて名残惜しそうに部屋を出た。

「――ハゲさん。私、これからニルが宿に着くまで隠れて見守るから、このまま待ってて」

「おう……要るもんはあるか?」

「ない。じゃあね」

「お前に言うことじゃねぇが、気ぃ付けろよ」

「ありがと」

 こういうときのハゲさんは本当に話が早い。説明なしに緊張を感じ取ってくれるから助かる。




 ハゲさんとの間だけに通じるリズムで私はドアをノックした。

「おう、お帰り。今、ズラすからちっと待ってろ」

「わかった。私は慌てないからゆっくりどうぞ」

 時間にして二十分弱。ニルたちをこっそり見送って、私は戻ってきた。

 ハゲさんは抜かりなくドアの前に物を積んで耐えられる状況を作っていたようだ。

「よう、待たせたな」

「いやいや。ツーカーで通じるハゲさんが市長で良かったよ」

 ひょいと肩をすくめて部屋に入る。一応、カギもする。

「で、何があった?」

「朝方、変な人影があった。人数は二人。遠巻きに私とニルを眺められる距離をしばらく維持していた。さり気なく視線を向けても全然姿が捉えられなかったから、どう考えてもカタギじゃないね」

「相変わらずお前はわけわからんな。どうして見えもしない相手の監視に気付けるんだか……」

「魔法だよ魔法。私自身はハゲさんよりよっぽど鈍いよ」

 あはは、と笑う。

「ニルウィ姫様の護衛の可能性は?」

「ないね。その人影を感知したのは朝方を含め散発的に三度。いずれも移動中で、私が目を向けたらそのたびに遠くに引っ込んだ」

「なるほどな、確かに護衛の行動じゃねーわ」

「相手の狙いは私かニルだと思うけれど、一応ハゲさんも警戒して。この街や伯爵家がターゲットだったらハゲさんを暗殺することでも十分な混乱を呼べる。狙われて不思議じゃない」

「厄介だな……。お前の魔法で奴らを追うことはできんのか?」

「追えるは追えるけど、こっちを監視していた二人が相手の全員とは限らないからねぇ」

 捨て駒を掴まされて隙を見せてしまってはたまらない。

「とにかく、私はこれから四六時中ニルにくっついてるのでよろしく」

「ってぇなると……敵さんの本命は三日目になるか」

 三日目。予定通りニルが頑張りきったならば、私が冒険者をする姿を視察する日。

「ハゲさん。万一のことを考えて、腕の立つ冒険者をもうひとり用意して欲しい。お金や人質で転ばないと信用できる人。難しいだろうけどどうにかして」

「わかった。任せろ」

 さて、蛇が出るか鬼が出るか。

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