戦慄の奏
『頭がとても痛い…』
なぜこんな固い寝台で寝ているのだろうかと彼は思った。
寝台が脈打つように動いている…
まわりか幾人もの怒号と悲痛な叫び声が聞こえてくる…
彼の目の前には銀色の人の形をしたものが激しくぶつかり合い凄まじい音をたてていた。
『貴様そこでなにをしいる』
そんな音のなかハッキリと私の頭に届いたこの声のおかげで私は今どんな状況なのかを理解することができた。
いや正確には半分も理解できていなかったが、戦士としての私の本能が鞘から大剣を引き抜いて騎乗した彼と向き合っていた。
馬上から声がふってきた
『貴様テルプシュコの者か?それともその見た事のない鎧と大剣は彼方の国からきた者か?』
どう生き延びるかしか考えていなかった彼は咄嗟に答えることができなかった。
どうにか口を開きかけた時に遠くでドラの音が鳴り響いて彼にまた沈黙をあたえた。
四つの蹄の音とともに一人の兵士がやってくる
『クリュサル将軍!敵が撤退していくようです!』
『深追いはせずゆっくりと後退せよと伝えよ』
頷いた兵士は馬首をひるがえすと、高らかと角笛をならしてクリュサル将軍と呼ばれた者の影に隠れるように消えていった…
そして私は捕虜にされるでもなく、むしろ客人としてクリュサル将軍の陣営のテントに招かれた!
そこには肌の色が白から黒まで色々な格好の者が10名ほどいた。
そして私は様々なことを問われ、逆に問い返した。
結果として私はなぜこのようなよい待遇を受けているのかを知ることになる…絶望と一緒に…
内容はこんなものだった
ここがヒュペリオンという名の大陸であり、五つの国が存在する。
私が今いるのはバイストスという国であり、先ほど戦っていたのは隣国のテルプシュコという国であること、そして私のいた世界とはここはまったくの異世界という絶望的な内容だった。
『そんな訳があるはずがない!海を渡っていけば着くんじゃないのか?言葉だって通じるし…だってそうだろ?いったいあんた達はなにを言ってるんだ?』
私の反論は虚しく終わった…バイストスは海と隣接しているが私が今いるところは内陸であり、まわりは見たことのない大地が広がっているからだ…
そしてそこで不思議なことに気がつく事になる。
ここが今まで居た世界とは確かに違う、でも前に居た世界がどんな世界で、どんな暮らしをしていたか思い出せないのだ。
思い出せるのは自分の名前と戦士だったという事だけだった!
沈黙という名の旋律が流れている…そこにクリュサル将軍の渋い声が一緒にながれはじめる。
『今は何がなんだかわからないだろう!私もそうだ、むしろここにいる者は皆そうだ!お主も昔の記憶がないのであろう?覚えているのは名前だけではないのか?』
私はドキっとした。
『このバイストスは別の名を彼方の国ともよぶ!その由縁は皆違う世界から来た者の集まりだからな!すぐになれるさ!まずはお主の唯一の記憶からきこうではないか!』
クリュサル将軍は大柄で短いヒゲがはえ大体60歳ほどであろう、そんな者の口から御伽話をされているようで私はとても変な気持ちで口を数秒閉ざしてしまったがすぐに声を発した!
『わたしの名前は ディーンといいます』
そしてその場にいた者が皆祝杯を天にかざして数秒の沈黙の後すべてをのみほした!
のちにこれが歓迎の儀だと私がしるのはまだ先のことである!