殺すということ
目的地は隣の県であった。今、神奈川県にいるが目的地は東京都。この世界ではやはり静かなのだろう。
大きな建物が建ち並ぶ大都会。日本の首都だ。静かな東京なんて人間が存在している間に拝めるだろうか。
そんな奇跡の東京の姿に上条はワクワクし、その話を長々とされていた神崎はどーでもよさそうに手を頭の後ろに組みながら歩いていた。
「愛梨ー」
「ん?」
「今アイテム何持ってる?」
「えーっとねー・・・
ポーション6個に造血剤16個かなー。」
「なんでお前の方が多いんだ!?
ポーション6に造血剤10だぞ!?こっちは!あとレーザーガン」
「あー、それ私も気になったー
なんでー?フレイー」
目線を上に向けながら上条は尋ねる。しかし、返答がない。
「フレイ?」
「あー、それは私とあなたにしかわからないと思うわよ・・・?フレイはわかってると思うけど、私とあなたを気にして言わないでいてくれるのよ、こいつがいる前ではね!」
「いででででで!?
なんで髪の毛を引っ張る!?」
神崎が喚くとアルマは髪を引っ張るのをやめた。上条はなんだかわからない顔をしていたが、ついにフレイが上条の耳元へと飛んでいって何かをつぶやく。
その途端、上条は顔を真っ赤にしてフレイを数度叩いて墜落させた。
「ちょ、愛梨ちゃん!落ち着いて!」
「ハァ・・・ハァ・・・・・」
「なぜ私を殴る・・・」
ヘロヘロになりながらフレイは上条の頭の上に戻る。
あまり人に会いたくない2人は最短で目的地につくことを目的としていた。
歩いていくと高速道路のICが見えた。神崎たちはそちらに向かって歩んでいった。
普段は徒歩での侵入は滅多にしないが今は車の走行音もせず、しかもこっちは目的地までの大幅な短縮コースになるだろう。
「うわぁ・・・・・!」
上条は高速道路の高いところから街を見下ろしている。そして感嘆の声をあげる。
「ほら、行くぞー」
「あ、待ってよー!」
神崎に急かされて、走って後を追う。
その時だった。
急かす目的のために、静かな街を、上条が追いつく前に前を向いて歩き出した。
しかし、突如後方から大きなエンジン音が鳴り響いてきた。
気付いた瞬間に後ろを振り向くと、スポーツカーが一台、明らかに神崎たちを轢くコースを走ってきていた。明白な殺意を持っていることがわかるほどに。
おまけに上条は追いつくのに必死で音に気付いていない。
「愛梨!力を使え!」
「へ?」
必死の剣幕で神崎は叫ぶが、上条は事態を理解していない。
「クソッ!」
<<状態変化:壁>>
神崎は走りながら無幻の刀を取り出し、上条の横で振り下ろす。
それと同時に神崎の血液を消費し、柄から巨大な壁が出現した。
無幻の刀が出現させる柄の先は、大きさ分の質量を持つ。質量は大体鉄と同じだが強度、硬度は鉄のはるか上の性能を持つ。そのため、通常、攻撃時にあまりにも大きいものに状態変化させると神崎自身でも持ち上げられないという非常事態が発生する。だからそういうものには変化させない。
だが、今のような場合は関係ない。持っているわけではないからだ。
「くぅぅううううううううっ!!!」
車から男の声が聞こえたかと思うと男は車から跳躍して壁を超えて2人の後ろへ。
着地するか否かで壁に車が激突し爆発する。
「ちょああああああああああああああああああああああああああ!!!」
神崎が振り向く。そいつはピンクのリーゼントと変にチャラチャラした服とアクセサリーで身を固めている、いわゆるチャラ男ってやつである。
そいつが叫びながら地面と平行に飛んできた。
「愛梨!」
まだキョトンとしている愛梨の服を引っ張り、飛んでくる攻撃の軌道から回避した。
「おい貴様、しっかりせんか」
フレイの喝により愛梨は状況を理解する。
「能力者だ!気をつけろ!」
「わ、わかった」
リーゼントは手に鉤爪をつけている。引っ掻かれたら猫に引っかかれるなんて優しい被害で収まるとは思えない。首と胴を分離させることなんて造作もないだろう。
「<<発条>>ゥゥウウウウウウイヤアッハァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
変な発狂の仕方をしながら敵が水平に飛んでくる。刀を抜こうとしたときに愛梨が前に出た。
<<排除>>
愛梨の力は、道路が真っ赤に染まるとか、人間の肉片とかが辺りに飛び散るようなグロテスクな能力ではない。
敵意を持つ、一定範囲の万物を排除する能力。
死の瞬間を敵が認識することもない。一瞬。
神崎がまばたきをする前と後で、敵の姿は消えていた。
ゴオゴオと燃える廃車からの音以外は辺りに何もない。
これが愛梨の能力だ。
直後に2人の腕輪が鳴る。
[許容殺人人数:残り1人]