指令
「武器を持って来るの忘れただぁ!?」
神崎はわざとらしく大声で言う。
今二人は・・・・・いや、二人と二匹か。
彼らは今、できるだけ人にあわないように心がけつつ、街の薬局へと向かっている。もしかしたら、この世界だったらこのポーションや造血剤、もしくはそれらに代わるものがあるかもしれない。それらを求めて歩いている。
「悠介だって!能力っていうものを持っていないじゃない!」
「それはこいつが悪い!」
神崎はアルマをつまみあげる。
「だ、だって、武器を選ぶのに3時間もかけるやついる!?」
「俺だ!」
「うるさいわよ!」
「貴様らうるさい。」
フレイ・・・この上条のパートナーの黒いミニドラゴンが一喝する。ドラゴンの姿をしていてもどこか言葉に威厳がある。
「ちょ、フレイ!私まで!?」
アルマは抗議の声をあげるがフレイは無視する。その様子に少しムッとするアルマ。
「とにかく貴様ら、一緒にいろ。なんでゲームに不利な要素を自ら追加するんだ。」
ハァ・・・とため息をつきながら、フレイは上条の頭に顔をうずめる。ドラゴンの姿の彼の落ち込み方なのだろう。
普段なら活気のある商店街。だが、この世界では物音一つしない。風が吹き、それが物と擦れて高音を生み出してるのを除いて。
やがて、薬局に到着した。薬局というかドラッグストアか。普通のスーパーマーケットのように大きい。全部の商品を回るのに20~30分はかかるだろう。
「・・・・・絶対他の奴らもいるよな。」
「い、いると思うよ。」
上条はやや怯え気味だ。
確かに、殺すことに対する恐怖は感じないようになっているが、それ以外の恐怖は普通に感じる。
例えば、不良に絡まれたり崖から落ちそうになったり・・・そのようなときに感じる恐怖は普通に感じるのだ。
自動ドアは止まっているため、手動でこじ開ける。見たところ中にはまだ人はいなかった。
電気などは止まり、夜だったら何も見えなくなると思えるほど薄暗い。クーラーも止まり暑い。
普段なら飲み物のスペースのは冷房が効いていてほどよくペットボトルジュースを冷やしていてくれているのだが、ここのは温い。
「あ、暑い・・・・・」
神崎は不満を漏らす。すでに汗をかいていた体に上乗せして汗が出る。
ブーブー言っている神崎をよそに、上条は目的のものを見つけていた。
「こっちにポーションとか造血剤とかたくさんあるよー!」
まさか、店の裏のダンボールだらけのところから造血剤だけを探すわけにもいかないだろう。二人はありったけの造血剤とポーションをアイテムとして手に入れた。
「そういえば、アルマ」
「ん?なに?」
(頭の上から声がするの・・・慣れないなぁ・・・)
「お金手に入れてるじゃん?俺とアイツを襲ったやつ合わせて60000円。あれって何に使うんだ?ここでこうしてアイテムが手に入るなら。」
「ああ!ランダムにその腕輪のメニューからショップってのが選べるのよ!そこでは能力開花の液体とか特殊武器とかが買えるの。」
「へぇ・・・」
納得した神崎は躊躇なくアイテムを手に入れ始めた。
「身の安全が保証された時の人間の欲って露骨で醜いわね・・・」
「なんか言ったか?」
「何も!」
そうしてアイテムを手に入れた二人はとっとと薬局を出る。ドラゴン二匹が暑さに弱く、弱っているのと自分たちも体力が削れているような気がしたからだ。それほど暑い。蒸し蒸ししている。
出たようとしたときだ。入口付近の窓に人の姿が見えた。
もちろん、全ての人間が敵とは限らないが無闇に近づいて無駄な戦闘になるのはごめんだ。
「おい!愛梨!こっちだ!」
人間の存在に気付いていなかった愛梨は驚いた顔をしたが、事情を説明すると足早に入口から離れる。
そして、従業員立ち入り禁止のところから、監視室に入った。ここは監視カメラが写す映像をモニターできる部屋だ。予備電源を監視室だけ付ける。
ドアをこじ開けて中に入ってくる。そいつらも造血剤やポーションを目当てにしているのだろうか。
「おい!造血剤ねえぞ!誰かに先越されやがった!!!」
野太い男の怒声に愛梨がビクリとして声を出しそうになったが神崎が慌てて口を塞ぎ事なきを得る。
声を向けた方を見ると仲間が何人かぞろぞろと入ってくる。10人ほどだろうか。じっくりと観察してみて神崎は一言。
「絶対敵だ。」
「まあ、そりゃそうでしょうね!」
「バカ!静かにしろ!」
なんせ入ってきたのは俗に言う"DQN"である。鼻や頬や耳には当然のようにピアスをつけ、ズボンは半ケツ状態。なにより汚そうなイメージである。
「糞が。どこの輩だ。俺様の必要なものを先にとってくなんざ、死に値するわ!」
その時だった。
ピピピピピ
突然腕輪が鳴り出す。
神崎と上条は焦る。高い音で強い単音。遠くまで響き渡るような音。潜伏中にそんな音を漏らすなんて、見つけてくださいと言っているようなもんだ。
慌てて腕輪を押さえると、多少は音が小さくなった。しかし、今更そんなことしてもあとの祭りだ。
「なんだぁ?」
ヤバイ!
二人は冷や汗を書きながら動向を見守り、それと同時に非常口の位置も確認した。
しかし、見つかるという心配は杞憂だった。
「お頭!なんか指令ってやつが来てますぜぃ!」
「ン?」
DQNの頭は腕輪のメニューを表示させて指令を出す。それは神崎たちのところからは見えない。だが、それを見たDQNたちはドラッグストアを出てどこかへ行った。
「ふう・・・・」
監視室では安堵のため息が出た。二人とも肩の力が抜けきっている。
「絶対見つかってたら総攻撃喰らってたよ・・・あぶねー・・・」
監視室には予備電源を入れたため、クーラーが効いている。それでも嫌な汗で二人はびっちょり濡れていて今は少し寒そうだ。慌てて上条がクーラーを消した。
その間に神崎は腕輪のメニューを開いて、指令の欄を選ぶ。そこには以下のことが書いてあった。
[今から指定するところに24時間以内に行くこと。それぞれの位置は我々運営で把握しているので、それを踏まえての場所を選出している。
縛りルール:殺していいのは1人につき2人まで。ただし、グループで移動している場合、その人数×2を誰が殺しても構わない。つまり、3人グループならその3人のうち誰が6人殺してもいいということだ。
健闘を祈る。]
と、書いてある。
「へぇ。見ろよ愛梨ー」
そう言われて、冷房を消していた愛梨が神崎の腕輪から発生している画面を見る。
「うわー大変そう。この縛りルールってのは・・・たぶん犯したらゲームオーバーなのね。」
愛梨の言葉でドラゴンたちが頷いている。
「ってことは・・・俺らはあと2人しか殺してはいけないってことか?これは厄介なルールを作ったもんだな。まだ、何人以上殺してからたどり着くこと、の方が簡単だったかもしれない。」
再びため息が漏れる。
「でも、私にとってはいいかな!殺すまでが怖いもん。痛いの嫌だし。」
「確かになー・・・けど、敵が強いと勢い余って殺しかねないし、俺もむやみに殺したりするのはやめよう。」
恋人愛梨の存在が神崎から迷いなどを消し去っていた。あるのは恋人を守る、それだけだ。
「目的地はまあ遠いけど6時間くらいで着くかな。」
愛梨がそう言う。神崎は場所は知らないし地図の読み方も、イマイチなのだ。
「そうか。じゃあ、行くか!
また暑くなってきたし、そろそろ出ないとこいつらがくたばっちまう。」
神崎が両手でドラゴン二匹をつまみあげる。二匹ともジタバタするが、力は弱くすぐにおとなしくなった。
先ほどのような大集団に見つかったら殺さずに逃げるのは難しい、そう考えたことから、用心して裏口から外に出て行った。