助太刀
首がなくなった胴体を見ると血液が間欠泉のように吹き出している。
それを見ても神崎はなんとも思わなかった。これはこのゲームの怖いところ。"殺す"ことを恐怖と感じなくなる。そういう風に腕輪が脳に何らかの作用をするのだ。
しかし、プレイヤーにはそのことを知る術はない。
[ピロリロリロリーン]
突如腕輪が鳴る。その音に反応して腕輪を見ると、腕輪から光が照射され、空中にテレビ画面のようなものを生み出していた。
[今回の報酬
・3万円
・ポーション5個
・レーザーガン1つ
・造血剤5つ]
「造血剤!?」
「まあ、RPGで造血剤が出てきたら驚くわよね・・・・・」
少し遠くにおいてきたアルマがパタパタと空を飛んで神崎の肩に着地した。
「一般RPGだと、エーテルとかあるでしょう?魔法とか使うときに消費するMPを回復する薬。あれががこの世界だと造血剤になるわけ。
意外と重要なアイテムよ、しっかり覚えておいてね。」
アイテムのリストは先ほどのように腕輪から発生する画面で確認できる。そして使用するのは頭で思い描けばできる。しかし、そのアイテムを覚えていなければいちいち画面を開いて使用するという極めて無駄な作業になってしまう。
「そうだ!
これってストーリーってどうやって進むんだ!?」
「えっ、詳しいことはわからないけど、全て腕輪から指令が出てきて、それに従っていくとクリア出来るらしい・・・」
「らしいって・・・・・
それなら寄り道していいか!?」
「えっ?・・・・ってもう走ってるじゃないの!!!
答え聞く気ないでしょう!!!」
(当たり前だ。
愛梨は無事だろうか。
考えていてもしょうがない)
今まで逃げ回っていたのに次は助太刀のために全力疾走だ。
(明日は筋肉痛だろうなぁ。
あ、ポーションで治るかなぁ)
ポーションとは飲むだけで傷がみるみる回復する薬だ。
静かな街に少しだけ変わった風が吹き荒れる。
上条は同じ事態に遭遇していた。
走ってベンチに隠れたはいいが、敵の攻撃により、上条のいる位置以外は全て切り裂かれている。
「はははははははは!!!早く死ねぇ!!!」
「嫌!」
敵は能力者。衝撃波を生み出し刃を形成して辺りを切り裂く能力。
上条は神崎と違って突然の状況をうまく飲み込めずに順応しているとはとても言い難い状態だった。
普通の女性だったらこのようなの反応だろう。
「おい!しっかりしろ!」
彼女にもパートナーがついている。黒色のミニドラゴンで女には男がパートナーになるため、男である。
「そんなこと言われても!」
「グダグダ言うな!次来るぞ!」
わけのわからない上条だが、神崎のスポーツをやってたがゆえの切り替えの速さのような救いは、彼女にもあった。
「死・・ね!」
敵が腕を振るとそこに衝撃波が生まれ全てを引き裂く斬撃と化す。
しかし、それが彼女に届くか否やというところで、斬撃は弾け飛んだ。
<<排除>>
彼女の能力。一定空間内の自分に敵意を持つもの全てを跡形もなく消し去る能力である。
しかし、これはかなり強力な部類の能力であるため血液の消耗が激しい。ベンチの裏に来るまでに4回は使った。今ので5回目だ。
ついに上条はベンチ裏で倒れた。ピクリとも動かない。世界がぐるぐると回る。激しい吐き気がこみ上げる。
ベンチの下から、敵が腕を振り上げたのが見えた。次でやられる。ドラゴンが必死に呼びかけるのが聞こえる。
(もう・・・・動けない
悠・・・ちゃん・・・)
ギュッと目をつぶった。
しばらくしても斬撃が飛んでこない。痛み無く死んだかとも思ったがあまりに現状の変化がなさすぎる。
目を開ける力もなく、耳だけを澄ます。
すると誰かがこちらへ来る足音が。殺されると思った。
「大丈夫だよ。」
声がした、耳元で。聞きなれた声。電話越しに、こっちに来る前に最期に聞いた愛しい人の声。
涙が溢れ出る。入らないはずの力がなぜか蘇る。
上条が大好きな人の名前を泣き叫びながら抱きついた。