初心者殺し
ふと気がつくと家の中にいた。
夢かと思ったが、手にはあの刀の柄を握っていた。これが現実だと強く訴えてくる。
「やっと起きた!」
神崎が声がする方を向くとそこには一匹の小さく真っ白な生き物が。ドラゴンの子どものような。
その存在にも疑問はあるが、肝心の少女の姿が見えない。立ち上がるとまた声が聞こえた。
「なんで無視するのー!」
声の方向を向くとやはりドラゴンジュニアの方だ。
「ま、まさか・・・・・」
「そのまさかよ!
私がアルマよ!こっちの世界に来ると何かしらの生き物になっちゃうの!」
神崎は大きくため息をつく。
(ペットの世話もするのか・・・・・)
そのとき、ヴィーヴィーと腕輪が鳴り始めた。いや、実際には振動してその振動が自分にだけ伝わってつけている本人しかわからないような音か。
手首が痺れる。
「なんか腕輪が振動してるんだけど?」
「えぇっ!?」
表情のわかりづらいドラゴンの状態でもわかるようなアルマの反応。
(嫌な予感)
「伏せて!」
「えっ」
脳が言葉を判断する前に、伏せた。するとその瞬間に一筋の光が通ったかと思うと家の上半分がずれて家の側面に落ちた。
(はっ!?)
心臓がバクバクしている。冷や汗どころの騒ぎじゃない。
「初心者殺しってやつよ!まさかあなた、その腕輪が宅配便か何かで送られてきたってことはないでしょうね!?」
「いやぁ、その通りでございますよ!?」
「そんなん罠に決まっているでしょう!このゲームは腕輪をはめたところからスタートするのよ!テキトーなやつになんらかの方法で入手した腕輪を送りつけて開始と同時に殺せばそいつの武器はもらえるわけだし!
なんで気づかないのよこのバカ!」
「気づくわけないだろぅ!?
このゲームの存在自体今さっき知ったばっかじゃ!!!」
ガミガミ言ってる間に、頭上付近から殺気を纏った何かを感じた。
上を見上げるとはっきり見える、レーザー光線が自分の元に降りてきている。
「うおあっ!」
ドラゴンを抱えて横に転がり込むと後ろを光線が擦過する。
「アパートぶっ壊す気か!!!」
半分に切られたアパートが倒壊し、地面が近づいたところで地面へ跳躍し、着地と同時に転がって勢いを殺す。
「逃げて!」
「うん!逃げる!」
攻撃方向とは逆、さらに少し斜め方向へと駆け出した。
幸いなことに後方は、敵自ら倒壊させたアパートの砂煙やら埃が舞うやらで煙幕状態になっているため、的確な攻撃は来ないだろう。
「この世界は一般人はいないわよ!だからどこでも思う存分暴れられる!」
「なんで暴れる前提になってるんだよ!!」
突然の攻撃すぎて絶望感に浸ったりすることがなかったのが神崎の唯一の救いか。
「とりあえず、この武器はなんだよ!お前が勝手に確定にするからテキトーなの選んじまったよ!」
走りながら小脇に抱えたドラゴンに向かって刀の柄のようなものを取り出す。
「!!!
それは"無幻の刀"よ!あなた運が良いわね!
能力開花の液体を取り忘れたバカだと思ったら、変なところに運持ってるのね。」
「いや、関心しながら言ってるけど、能力開花出来なかったのお前のせいだからね!?
それで、運が良いとかそんなんいいから使い方を教えろォオオおおおおおお!!!」
神崎は息切れをしながらそれでも走る。しかし、そろそろ限界が来るのは自分でもわかっていた。
商店街の店の隙間に一旦身を潜める。呼吸を整える。荒い呼吸をしてしまったら真っ二つな未来が待っている。
呼吸を整えている間に武器のことは教わった。アルマが言う通り、かなり当たりな武器なのだ。
神崎は落ち着いて、そっと壁から様子を伺う。
そしてバッチリと目が合ってしまう。
「やべ!見つかった!!!」
敵は手にしていたミニガンのような重火器の銃口をゆっくりと神崎たちの方へ向ける。
そして、トリガーを引くとそこに光が集まっていく。
もう一度トリガーを引くのと神崎が駆け出したのは同時だ。店と店のあいだの通路を、敵とは反対方向へと走る。
「うおっ!後ろの壁に穴があいた!?」
(だけど、わかったぞ、あの武器が)
「ちょ、ちょっと、横薙ぎのレーザー光線が来たら死ぬよ!?」
アルマも必死に訴えている。
「溜めが必要なんだ、レーザーで焼き切る攻撃をするには。
それ以外は普通の銃と同じ、光の弾丸を飛ばすだけ。
ここで、あいつを倒しておこう。少し気がかりなことが出てきた。」
(愛梨は腕輪を知っていた。しかも宅配!
もし、腕輪を嵌めていたら同じように狙われる!
躊躇しているわけにはいかない)
静かな商店街。
レーザー銃を持つ者は殺しが正当化されているこの世界で、初心者を殺して武器を奪っている。
しかし、見たところやつの武器は1つだ。
そうなれば、溜めさせる前に
<<状態変化:ブレード>>
頭の中に思い描くだけでスキルやアイテムは発動する。
そして無幻の刀の能力は、刀身が"元々この柄に存在していた刃の分"変幻自在であること。どんな形にでも変わる。しかし、変化には所有者の血液を少し使用するというもの。
神崎は別の路地から一気に飛び出す。そして間合いを詰める。
「はぁあああああああああああああああああ!!」
すると敵は腰にさしていたのであろう、包丁を手に持って神崎を返り討ちにすべく向き合った。
そしてあろうことか包丁を投げてきた。
遠心力で回転する包丁は、刃の方が当たれば即死しかねないが、卓球部で鍛えた神崎の動体視力では、そんなものを避けるのは簡単すぎることだ。包丁の柄の部分を左手で叩き落とし、右手に持つ刀で敵の首を一閃した。