準備
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
突然景色が変わったら誰でも驚くだろう。
神崎は部屋にいた。ドアはない。ぼんやりとした七色の壁に囲まれた、言ってしまえば箱の中にいた。
「ここは・・・」
「はーい!!!」
ビクゥッ
突然の大声に驚いていた。
「びっくりした!!
な、なんなんだよ!」
「初対面の女の子に向かってなんだよってー!ひっどーい!」
だったら驚かすなと言いたい。
「隣にさっきまでいませんでしたよね・・・・?
一体・・・・・」
神崎はあまりの動揺になれない敬語を使い出している。
少女はまあまあ、と手で制止をかけた。
「落ち着きなさいって。
これから君はゲームをするの。感覚とかは現実にいるときと同じでね。
そのための準備室がここよ。」
「げ、ゲーム?
いや、俺勉強しないと・・・」
「え、何を言っているの?」
「いや、俺今受験期でさ・・・・・」
「そういうことじゃなくて」
「え?」
彼女はいたって真面目な顔で顔を覗き込んでくる。
神崎の顔は少し赤くなった。
「ここに来たってことはクリアしないと出れないのよ?聞かされてなかったの?」
「ええっ!?困る!受験死ぬ!俺のジリ貧生活が幕を開けてしまうううううううう!!!」
「いや、ここで過ごした時間はほとんど現実では反映されないのよ。
でも私が言ってるのはそういうことじゃないの。」
「ふう・・・・ならよかった・・・
え、じゃあ、どういうことなの?」
顔は赤いまま少し安堵した表情に変わる。
「このゲームをクリアせずに死ぬってことは、現実でも"死ぬ"ってことなのよ?」
「・・・・・・・・・・」
赤みを帯びた顔が一瞬で青ざめる。あまりに現実離れしたことに脳の理解が追いつかない。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」
小さい部屋で絶叫が響き渡った。
「あれ?もしもーし?」
愛梨は数回呼びかけたが返答はない。
電話が切れたわけでもなく、突然声がしなくなり、電話越しにも少しわかる人がいるという雰囲気も消えた。
「どうしたんだろう・・・・」
少し心配になりながら電話を切る。
そしてふとあることを思い出す。
「そういえば、この腕輪のことかな?なんか言おうとしてたような・・・・
心配だな・・・・」
愛梨は手首に着けた腕輪をさすりながら、不安が延々と脳裏をよぎっていた。
「し、死ぬ!?」
「そうよ。」
「いやいやいや、そうよ、じゃないよ。」
突然のクリア出来なかったら"死ぬ"宣告。冷静な方がおかしい。
「あれ、そういえばあなたはどちらさんですか?」
「私はあなたのパートナーとなってしまった、ゲーム内の住人よ。」
なぜか顔が曇る。あまり触れて欲しくなかったのだろうか。
「わかった。わかった。ゲームクリア出来なかったら死ぬなら、死なないように案内してくれよ。」
「そ、それもできないの。私たちにはどう進んだらどうなるかはインプットされないの。」
「そうか。じゃあ、えーっと・・・アルマ?」
「あれ、なんで私の名前を?」
それは神崎自身も驚いている。脳に事前に一つの記憶として書き込まれていたようだ。
「なんか知ってた。
ところでアルマ。君はここで準備を進めるんだろう?何をするの?」
「そうだ!忘れてた!」
生死がかかっている出来事で「忘れてた!」とか洒落になってない。
「ここで武器を1つ、手に入れることができるんだよ!」
アルマがパチンと指を鳴らすと、全ての壁から引き出しが出てきた。その中には様々な種類の武器が入っている。
「武器を1つ手にとって、ここにある液体を1つ選べるよ。この液体は飲むと体に様々な作用を引き起こして超能力のようなものが使えるようになるのよ。けど、使用するときはその力の大きさに応じて"血液"を使用するから使いすぎるとその後の行動に支障が出るから気をつけてね!
そして、能力はこの世界に同じものは一つとしてないし、ストーリー中にこの液体を見つけて飲んだら能力が単純に増えるから、よかったら探してね!」
「ず、随分と奇っ怪な液体だな・・・
でも、超能力とはRPGみたいになってきた。」
生死のことなんてもうほとんど忘れているのか。スポーツをやっているおかげで突然の状況においても咄嗟の切り替えができるのだろう。
神崎は様々な棚を散策している。かれこれ一時間。
「まーだ!?おそっ」
「いやいや、慎重にもなるだろう!ちょっと待て!」
ガサゴソとあさっていると何かを見つけた。
「これなに?剣の柄しかないけど・・・」
「ああ、これ?もうこれね!決まり!」
「いやいやいやいや、まてまてまてまて」
「じゃあ、出発!!」
「まだ液体選んでないし!!!うわぁあああああああああああああああああ」
まばゆい光に包まれ、アルマと神崎はその部屋から消えた。
アルマ&神崎ペア、ゲームスタート