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Prologue 星の欠片、空の欠片

この作品はフィクションであり、実在の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。

****年*月*日

南太平洋*********

*********************

side ****


 私はそれを見下ろしていた。

 円筒部分は紺色で塗られ、所々に星をイメージした黄色い点がちりばめられている。

 先端には白色のフェアリングが取り付けられたそれは、だれがどう見ても明らかにロケットだ。

 あの宇宙船は、まもなく地球を離脱し、遙か遠くの惑星へと旅へ出る。

 人類の未来への夢と希望が詰まった、大きな大きな宇宙船。

 銀河の名を冠するそれは青く透き通ったこの空を突き抜け、胴体と同じ色をした宇宙へと飛び出すのだ。


 ……あのチームには、もう戻れない。

 そう実感すると、ひどく胸焼けした時と同種の痛みに襲われる。

 この痛みが現実のものか、仮想のものかという区別はついに出来なかった。

 眼下に見るロケットの下部から橙色の閃光が迸り、『ギャラクシーⅠ、リフトオフ』という聞こえるはずのない言葉が鼓膜を震わせた。


 ロケットは鉄骨で出来た無骨でそっけない発射台を離れ、紺碧の空へ向かって伸び上がっていく。

 ついに私も見下ろす側から見下ろされる側へと移り、炎……酸素と水素の奔流をただ目で追った。


 視界の隅で赤い光がちかりと輝いた。

 言いようのない不安を感じて、私は目を発射台のほうに向ける。

 光は発射台や、その周辺に由来するものではなかった。


 海だ。

 全面がダークグレーで塗り込められ、ブリッジの後方から巨大なレーダーを生やした船から白煙を噴き上げながら空を進む物体が打ち上げられたのだ。


「あれは、ミサイル……か」


 声帯から勝手に発せられたその言葉は、現状確認として確かな意味を持っていた。


 あの色、あの形の船とは明らかに軍用艦であり、この状況でそれから発射されるものがミサイルでしかあり得ないことは明白だ。


 ミサイルは恐ろしいスピードで空を駆け上がり、ロケットとの距離を確実に詰めてくる。


 逃げろ。

 逃げ切れ。

 あんな一本の悪意で散るほどお前の使命は軽くない。


 違った。

 次の瞬間には、ロケットを追うミサイルの数は10に増えていた。

 一つの悪意が集合し増幅して憎悪を形成するように、ミサイルはその数を増やしていく。


 憎悪の塊がなんだ、お前が救うべきものはただ一つの悪意ある勢力によって消されるようなちっぽけなものでは決してない。


 ミサイルの群れは、自分たちが墜とすべきものは最初からただ一つに定まっていると言わんばかりにギャラクシーⅠへ接近する。

 橙の炎に白い鉛筆が灼かれる。


「行け!」


 我を忘れて叫ぶと、一瞬だけ炎が増幅したように見えた。

 ロケットは、ギャラクシーⅠは更に増速し、ミサイルたちは少しずつ引き離されていく。

 ついに群れから脱落するものも出始め、最早ギャラクシーⅠに追いつけるものなどいなかった。


「詰みだ、愚か者ども」


 ギャラクシーⅠはだんだんと地平線の向こうへと遠ざかっていき、最後にストロボのような光を残して姿を消した。

 最後の光は、星のようにも見えた。


 ギャラクシーⅠが空に残した雲も、もうすぐに消えてしまうのだろう。


 ふぅ、と息をついて私はシートをリクライニングさせた。

 あとは星の導き次第だ。

 寝ても大丈夫だろうさ。


次回更新日時は未定です

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