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夢想屋
作:HERON



Dream5 新たなる世界


「ほぉ。そういう考え方もありましたか」

 今回の客は、30歳くらいの年齢であろう女性。この女性も看板を見て興味を引かれた人間の一人だ。
 しかし、この女性は、自分の思い描いた世界を体験したいから夢想屋に来たのではない。女性には、思い描いた世界とは違う夢の世界を体験したいので夢想屋に来たのだ。

 女性は、自分がしたい体験に関することを雨鏡に質問した。
 その質問に対し、雨鏡は思わず感心してしまったのだ。

「分かりました。一度やってみましょう。それでは、その世界を思い浮かべてください」

 雨鏡が女性にそう言うと、いつものように女性を夢の世界へと誘う。

 夢の世界に着き、女性がパッと目を開けたその場所は、とあるライブハウスの前。

「凄い……まったく同じだわ……」

 女性は、あまりの出来事にライブハウスをジッとみつめながら驚いている。

「へぇ。ここが思い出のライブハウスなんですね」

 女性が見たかった世界。それは過去を見ることができる世界。この世界は、自分が本当に体感した出来事をもう一度見ることができる、過去のリプレイ再生世界なのだ。

「そうなの。私にはロックバンドだった夫がいるの……」

 女性は最近、そのロックバンドの夫と喧嘩し、この先やっていけるか不安になっていた。
 なので、不安を取り除くため、愛の再確認がしたいと思い、過去の自分の思い出を見たいと思っていたのだ。

「あっ! すいません。こっちに来てください!」

 女性が急に大声を上げ、雨鏡にそう言った。

「ど、どうしたんですか急に!」

 重く心境を語っていた女性がいきなり大声を上げたので、真剣に聞いていた雨鏡はとても驚き、思わず飛びはねてしまった。

「すいません……頭がこんがらがるような話なんですけど、昔の夫と昔の私が近くにいたのを発見したのでつい。それに、これはとても思い出深いシーンなんです」

 女性は、今の状況を、映画のワンシーンを教えるような感じで雨鏡に説明する。

「それは確かに驚くのも無理はありませんね」

 雨鏡が納得していると、人気の無い路地裏で、昔の女性が緊張した顔つきで昔の夫に何か話しかけようとしている。

「あっ、ここじゃ昔のお二人の会話が聞こえてしまうので、どこか遠くのほうへ行っていましょうか? せっかくの思い出深い話に、関係ない私がいたら雰囲気も冷めてしまうでしょうし」

 雨鏡は女性に気を遣い、女性にそう尋ねる。

「いえ。気になさらずここにいてください。確かに自分の思い出を人に見られるのは恥ずかしいけど、夫との思い出は、そんなこと気にならないくらい素敵な思い出なんです」

 女性は雨鏡にニコッと微笑んだ。
 この言葉を聞いた雨鏡はホッとした。夫と女性は仲直りすると確信したのだ。

 そして二人は昔の夫と昔の女性の思い出を盗み見する。なんだか不思議な感覚である。

「私、ドジだしすぐに怒っちゃうし家事もそれほど上手じゃない。こんな私でも一生ついてきてくれますか?」

 どうやらプロポーズのシーンらしい。この女性の言葉に、夫は一度深呼吸をし、女性の目をジッと見ながら言葉を返す。

「留美……ありがとな。でも、今は留美に返事を返すことは出来ない」

「今じゃ駄目なの? 私、どんな答えが返ってきても博人を責めたりしないよ。だって、私が博人を好きだっていう事実は変わらないもん」

 留美のこの言葉に、博人は一枚のチケットを留美に渡した。

「今日のライブのチケット。俺は、音楽に命懸けてる男だ。だから、俺は音楽で答えを示すよ。だから今日のライブ絶対に来てくれ。そういや、俺が留美をライブに誘うのは初めてだよな。こんなことでしか答え示せなくてごめんな」

 博人は、留美にそう言うとライブの時間が迫っているのでライブハウスへ向かった。
 留美は、博人にもらったライブのチケットをジッと眺めていた。

「大丈夫ですか留美さん。はい。ハンカチです」

「ありがどう……」

 雨鏡が、博人との思い出のシーンを見て号泣している留美に慌ててハンカチを渡した。
 その後も留美は泣き続け、落ち着くのに二時間程かかった。

 そして二人はライブハウスへと足を進める。
 普通、ライブといえばチケットが無ければ入れないのだが、ここは過去のリプレイ世界なので、過去の世界の住人には二人の姿は見えていない。なので、なんの問題も無くライブハウスに入れるのだ。そう考えると、留美の思い出のシーンも盗み見する必要はまったくなかった。

 ライブハウスに入った二人。

 そこには、昔の自分がいて、昔の夫がいて、今の自分がいて、たくさんのファンがいて……熱気に包まれながら今、ライブがスタートした。

 たくさんのファンの声援に包まれながら進行される大迫力のライブ。いつもは長く感じる時間も、ここにいるとあっという間に流れていく。そしていよいよ最後の曲。そう、留美のプロポーズに対して音楽で答えを示すといった曲である。

 さっきまでノリノリだった博人も、静かに緊張した顔つきで言葉を発する。

「rumi can you hear me?」

 博人が英語でそう言うと、一度深呼吸をおいて、また言葉を発する。

「ごめんな留美。俺は音楽やってるときしか自分の言いたい事すら言えねえ大馬鹿野郎で臆病野郎だ。でも、なんでだろうな音楽やってるときはなんかこう抑えらんねえ。さっきまで伝えたいことずっと伝えられずにいたのに、今は言いたい。物凄い言いたい。駄目だ。抑えらんねえ。留美。俺も留美が大好きだ。世界で一番大好きだ。例え、次元より遠くの世界からジッと留美を見ていることになっても、ずっと留美を愛し続けてる自信がある。結婚してくれ。俺も、ずっと留美に言いたかった」

 この博人の言葉に、ライブハウスでは、大きな歓声と共に大きな拍手が送られていた。昔の留美はこの言葉に涙を流している。今の留美は、ジッと昔の博人を見ている。

「俺は留美が大好きだ。だから留美に俺からの気持ちを歌にして贈る。でも、歌詞なんて作ってない。作っているのはメロディだけ。留美に対して歌詞なんて作れない。俺の留美に対する気持ち自体が既に歌詞なんだから作りようがないんだ。じゃあ、俺の気持ちをそのまま歌詞にして留美に伝えます。ここに来てる馬鹿野郎達も一緒にソウルを感じてくれ。そして留美。こんな俺を選んでくれてありがとな……じゃあ、行くぜ!」

 激しいメロディと共に、純粋で、真っ直ぐで、気持ちのこもった歌がライブハウス全体に届けられる。

 それを聞いた留美は泣いた。昔の留美も泣いた。博人達のファンも泣いた。留美とも博人のロックバンドとも関係の無いはずの雨鏡も、博人の気持ちがこもった歌に涙が流れた。

 そして、声援で包まれ、涙で包まれ、愛で包まれたライブは幕を閉じた。

 愛を再確認した留美は、満足気な顔で元の世界へ戻った。

「本当にありがとうございました。やっぱり私には夫が必要みたいです。だって、昔の思い出を見て、こんなに嬉しくてこんなに泣けるんですもの」

 留美は、さっきまでの不安が嘘のようにニコニコしながら雨鏡にそう語る。

「ええ。きっと博人さんも留美さんと同じ気持ちになってると思いますよ。博人さんも、留美さんとの思い出を思い出して泣いてる頃じゃないでしょうか」

 雨鏡もニコッと微笑み言葉を返す。

「そうだといいんですけどね。じゃあ、私はそろそろ家へ帰ろうと思います。この店に出会えなかったら、こんな気持ちになれなかったかもしれない。本当ありがとね」

 留美は、そう言うとお代を置いて店を去った。

 雨鏡は、留美が店を去った後、留美に気持ちを伝えた歌を思い出しながら、その世界に酔いしれた。







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