37-波乱の予感?
龍太郎に教えられた店に、麻耶とアナスタシアはタクシーを拾い、築地の鮨清に向かった。
龍太郎の名前を店の主に告げると、特別の個室に案内された。
目の前のショウケースには、各地から取り寄せられた最高級の鮨ネタが、
最高の状態で並べられていた。それを見てアナスタシアは思わず叫んだ。
「わぁーすばらしい!」「綺麗・・・!」
「美味しそう、最高・・・!」
二人は目の前のネタに、感嘆の言葉が止まらない。そんな二人を鮨職人は穏やかな瞳で見入っていた。
そして一言
「何を・・握りますか?」
麻耶は言葉を失った。いったい何から・・アナスタシアは麻耶を見つめる。
そこで、職人が、
「お任せ頂けますか? 私に!!」
「はい、・・・お任せします! ねぇ・・・!」
麻耶は、アナスタシアの方を見つめて頷き合った。黙ってプロの職人に任すのが一
番良い事を二人は感じ取った。
職人は二人の食べるペースと、好みを感じ取り絶妙のタイミングで、
握りを手元に置いて行った。
二人は只々“美味しい”の一言が精一杯の様子で、もう満腹である事を、
職人に合図した。
アナスタシアが妊娠中で、酸味を好むのは当たり前だが、何故か麻耶も酸味に、
興味というか、好んで食した。
それも鮨職人が麻耶の前におくネタにカボスの絞り方が幾分多い。
それを大変美味しく食す。もしや・・・
「麻耶さん、私こんなにお鮨が美味しいなんて・・・本当に最高・・です!!」
「そうでしょうね、所詮ロシアの鮨職人はまだまだですね!」
「何と言っても、このお店・・・世界中のグルメたちが絶賛するお店ですもの!!」
「そうでしょうね! 鮨が一つ一つ芸術品と言っても言い過ぎではないわ!」
「ネタの切り口、シャリとのバランス、口に含んだときのバランス感・・・」
「もう、他のすし屋さんでは食べられなくなるわ!」
鮨職人が照れくさそうに頭を掻きながら・・・、
「お褒めに預かりまして光栄です!」
「ところで、大友様は・・・?」
「はい、彼は今ロシアにおります。向こうで少し残務整理が残っていると・・・」
「そうでしたか? それは残念ですね!」
「大友は、良くここへ・・来るのですか?」
「はい、大友様も大変ご贔屓にして頂いております。」
「でしょうね! 彼はグルメですものね!!」
アナスタシアは、お腹が一杯になったせいか、少しまぶたが・・・眠いのだろう。
当然だ、まだ日本に来て間もないのだ。
その事を察した麻耶、鮨清でタクシーを呼んでもらい、龍太郎のマンションに向かった。
「アナスタシア、御免なさいね!」
「えっ、どうして?」
「あなた、眠いでしょう?」
「そうね、でも・・こんなに美味しい本場のお鮨に有り付けたのですもの!」
「眠気なんて・・・でも本当に美味しかったです。」
その言葉を言いながら、アナスタシアは突然泣き出した。
おそらく昔の事、夫の事を思い出したのだろう。
ロシアの鮨屋で家族と・・、夫と食べた事を思い出したに違いない。
そして食べたすしが・・・自分がこんな縁で本場の鮨を・・・
自分が一番、最初に・・・涙が・・・アナスタシア、麻耶の前で、今の自分の気持ち分ってくれるのだろうか・・・
そして、これからこの日本の地でうまく暮らして行けるのかどうか・・不安が一杯だろう。
そんな事を考えていると、龍太郎のマンションに着いた。
タクシーを降りて、麻耶はいつもの様に、慣れた手つきでエレベーターに乗り込み、龍太郎の部屋に入っていった。
当然アナスタシアも一緒だ。しかし、何故か先ほどと何かが微かに違うのが、
麻耶には感じられた。
それが何なのか麻耶は気づく事が出来なかった。気のせいなのだろうか?
「さあ、寝ましょう!」
「そうね、少し疲れが・・!」
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