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奇跡の巡り会い
作:浅見 希



3-麻耶の生い立ち、そして、今


麻耶は小さいときから、祖母に育てられてきた。殆ど両親の顔など覚えていない。
育った場所は北海道の稚内、まさしく北の果て。
冬は、肌を刺すような吹雪と氷雪の世界、そして外国船が頻繁に出入りする。
町中、あちらこちらで頻繁に北欧の言葉が飛び交う、まして漁港近くでは特にあちこちで行き交う。
果たして、ここは日本なのかと勘違いしそうだ。麻耶は何故か、その言葉をいつの間にか、日常会話程度なら理解出来る様になっていた。
主にロシア船籍、たまに、ノルウエーや北欧の国籍の人間が、ロシア船に乗り込んでくる場合が多々ある。

祖母の仕事は蟹の買い付けと、日本の車やその他の機械類の売買に、関係する仕事を手伝って、麻耶を育てて来た。
麻耶の両親の事、特に父親の事を祖母は話すのを極端に嫌う。
そのため、麻耶も父親の事は禁句と、心に決めている。
一度幼いころ、およそ6歳で、小学校の入学式の日に、
「私のお父さんは、何処にいるの?」
その何気ない一言の後、祖母は不機嫌になり、子供ながらに鮮明に覚えている、それ以後、父親の話はした事がない。
そんな祖母を記憶の中にしっかりと残している、麻耶だった。
母親の事は、病気で死んだと言われ、その事の質問は普通だった。
そんな、麻耶、頭脳明晰で、高校は普通の学校だったが、何故か、ロシア語と、
ノルウエー語を、高校在学中にかなりなレベルまで、マスターしてしまったのだ。

そして、その語学力で、稚内に居た頃いつの間にか、祖母以上に北欧人達と、
上手に話せるので、彼らと日本人の間での、商売の手助けをした。
それで、かなりなお金を貯金していた。
主に彼らはオホーツクの海で採れたカニを納めて、日本の車を買い付けていく。
中には高度精密機器、主に軍事用に転用可能な精密機器を上手く仕入れて行く。
麻耶の仕事は、お互いの話を聞いて、スムーズに契約が成立する事に、重点が置かれた。
裏のさまざまな話はまるで、無頓着だった。

麻耶の心の中に、ある時から東京への憧れが日に日に増してきて、
祖母の説得を振り切って、東京へ出て来てしまったのだ。
頭脳明晰な麻耶、背は中学3年位から伸びて、体つきもモデル並みの体型で、
なおかつ小顔そして、目鼻立ちは整っている。

麻耶は雑誌での知識で、やはり、東京に出て来てすぐ、原宿、渋谷を、
興味津々で歩き回った。
そこで、当然原宿の竹下通りでは、たった、50分の間に、スカウトの人が15回も声をかけた様な有様だった。
かなり、危ない誘惑もあったが、そんな時ロシア語でまくし立てたり、ノルウエー語で、返事したりして、如何わしいスカウトマンを、煙に巻いてしまった。
そんな状況を、ある気品ある淑女、その時は着物を、着ていたので淑女と言うべきなのか。
上品な料亭の女将といった女性に、ロシア語で、どうしたのか、何でここにいるのか聞かれた。
今度は麻耶がビックリする番だ。口をぽかんと開けて、今日北海道からやって来て、仕事を探している事を話した。

その淑女が、今のサパークラブのママだったのだ。
 そのママの親切な行為で、今のサパークラブのバイト、そして、昼のきちんとした仕事を紹介してもらった。
 いきなり北海道から上京して来た、見ず知らずの人を、そんなに簡単に名の知れた会社に就職など出来るはずが無い。
これには、目に見えぬ大きな力が働いているのだろ。クラブのママとの出会いも決して偶然ではない事が後に分かる。

彼女麻耶の生い立ちや、両親の事、かなり、なぞのベールに包まれている。
また、彼女の頭脳明晰な事、ロシア語、ノルウエー語の学習能力の高さは、おそらく誰かの素質を受け継いでいるのに違いない。
彼女自身の目標は、まだ決して他人に話したことはない。
しかし、お金をためる事、技術を身につけ、何かのスペシャリストになりたい事は、彼女の生活や仕事ぶりを見れば、おのずと知れてくる事になる。
昼夜を問わず働いているそれも、何かの目標があるからだろう。

しかし、彼女(麻耶)のどうしても表に出てしまう、欠点とも言うべきか、
甘えは、両親を早くに亡くした事。それは、
特に父親の事で、死んでしまったのか、はたまた何処かで、生きているという事を小さな時に誰かに知らされたが、父親の事は話に出す事は、タブーとされていた。
そのため、麻耶にとって、父親に対する憧れ、すなわちファザー、コンプレックスが大きな欠点といえば欠点だろう。 


「おい麻耶、今日のプレゼン完璧か?」
「はい、勿論!」
「まあ、お前に任して置けば心配は無いだろうが、な!」
と、上司である井上の、モーニングジャブだ。特に麻耶に対して期待をかけている事が、伺える。
 「井上部長、今日のプレゼンの相手ですが、通訳は付くのですか?」
「・・な、訳、ねえだろ!」
 「では、・・・?」
「お前で、十分じゃねえ、のか・・?」
 「はい、分かりました。」
「お前が、ロシア語堪能な事、それ以外にもな!」
「とにかく、君は特別さ、何でも・・・」

何故か、井上部長、麻耶の特別待遇に少し、嫉妬している気配が見受けられる。
麻耶が入社するのも特別、配属も特別、そして仕事も。
しかし、この仕事に関しては、誰もかなう者がいないのが現状で、麻耶におんぶに抱っこ、と言った有様だ。
なにせ、ロシア語、ノルウエー語、それに英語も堪能、これだけでも、もう太刀打ちできる相手などいないのだ、社内には。
それだけではなく、プレゼンのセンス、外国人の心を引きつける感性も抜群、
殆ど、麻耶の言うなりに相手方は契約書にサインをしてしまう。
 この部署は、麻耶なしでは成り立たない様になってしまっている。
麻耶が入社して半年ぐらいで、めきめきと頭角を現し、今では完全に部長は麻耶を信頼しきっている。
それで、何億と言う契約を相手の会社と、難なく交わしてしまう。
 
井上部長も、初め麻耶に、お茶汲みやお茶だしをやらしていた。
ある時、契約に関する話し合いで、話をしている場所にお茶を出しに行った時、何故か話がこじれていた。
その場の雰囲気は、なんとなくやばい感じが、ありありと伺えた。
そして、麻耶が、状況を判断して、何か訳の分からない言葉で話し出した。
すると、相手が、ビックリしてしまい、それからは麻耶に相手がべらべらロシア語、ノルウエー語で話出した。
会社の通訳はそれなりに話せるのだが、方言の混じったロシア語にかなり苦戦していた。
まして、ノルウエー語などが入ると、完全にお手上げ状態。
結局、麻耶がその場を取り仕切る事になり、契約も無事出来た。
その会話の内容がとにかくすごい、相手の会社と、自社の部長たちの間に、
完全に中に入り、麻耶様様の状態。
そして、締結の詳細は麻耶無しでは完全にお手上げ、相手も麻耶で無ければ、契約は出来ないことになってしまった。
相手の会社の人間が帰るときも、麻耶に挨拶をしてから帰る始末だ。

まったく、顔のつぶれた通訳はそれ以降姿を見せなくなった。
そんな一件があってからは、麻耶は完全にこの会社に無くてはならない、
重要な人物になってしまった。
そして、井上部長の直属の部下になった。それも若干20数歳で。
しかし、麻耶は、あのママのサパークラブにはきちんと通っている今も。












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