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大変申し訳ございませんでした。
奇跡の巡り会い
作:浅見 希



2-麻耶、龍太郎に憧れる


龍太郎と、麻耶がサパークラブでママに紹介される前、実は、通勤時間に会っていたのだ。
朝の通勤時間、高層ビルに一人の女性がかなり急いで飛び込んで来た。
かなり急いでいる様子で、8機並ぶエレベーターは殆ど上昇中、しかし一番右のエレベーターが1階を指していた。
その前に紳士がボタン操作を行い、ドアーが開いた。待ってましたと、彼女はその紳士の後について乗り込んだ。
しかし何かがおかしい事に気づいた時にはもう遅い、最上階しかとまらない専用のエレベーターに飛び乗ってしまったからだ。
それは、55階の高層ビル、ドアーが閉まってしまい、グングン上昇して目的の階はあっという間に過ぎてしまった。

麻耶が「あっ・・」と叫ぶ。なんとこのエレベーターの中は、麻耶と紳士の二人だけ。
どうしようと考える間もなく、エレベーターは最上階に止まった。
麻耶はかなりパニクッリで、まともにその紳士を見る事もなく、おろおろするばかりだった。
が、なんと、そこに乗っていた紳士は大友龍太郎だったのだ。
しかしこの初体面二人はまるで意識などする由も無い。

この二人が後に会う事になるなんて。

麻耶の方は、数秒後また、「あっ・・」と叫んだ。
 紳士の顔を確認して、気恥ずかしくなり、また驚いてしまった。
自然に頭を下げて挨拶、しかし、龍太郎はにっこりと微笑んでくれた。
 麻耶の頭の中は何故か複雑、少しの安心と、大きな不思議、
“えっ、どうして・・・”
 記憶を戻しながら、暫し頭脳をフル回転。そう、その紳士が乗る時、確か指を昇降指示器の隣のプレートにかざしていたような記憶が蘇った。
そうだ、一般人はこのエレベーターは乗れないのだ。
 困った顔をしていると、龍太郎は、
「やあ、おはよう! お嬢さん・!」
「どこに行きたいのですか?」と、麻耶に聞いて来た。
「あっ・・、はい 31階です。」かなりうろたえて・・・・
「急いでいたもので、あなたの後について、すぐに飛び乗ってしまいました。」
「すいません、このエレベーターは、専用なのですね!!」
 何故か緊張の連続、どんな偉い人なのだろう?
もしや、私たちのはるかかなたの人・・・・。
 やさしく、「別に、気にしないで!」と本当に安定感のある紳士・・
 何故か見とれてしまう、ボーっとしていると。
「では、あちらを使ったら良いでしょう。」
と、麻耶に廊下の右端のエレベーターを示してくれた。
 麻耶は、「あのー!」と小さな声で・・・
しかし、もう龍太郎はそこにはいなかった。
麻耶は、何故か恥ずかしさと、小さな疑問を残し、指示されたエレベーターに向かった。
 そのエレベーターの前でボタンを押して待っていると、暫らくしてエレベーターのドアーが開いた。そこのエレベーターは内装が違った。
 よく考えてみると、先ほどのエレベーターの内装も違っていることが思い出された。
エレベーターの中に入って見ると、その中にボタンは4箇所しかなかった。
その階数1階、31階、そして54階55階のボタンだけだった。
 怪訝そうな顔でエレベーターから出てくると、同僚の上原とばったり会った。
上原は不思議そうな顔をして、「おい麻耶、どうしてそこから…」
 その言葉に、耳を傾けずに早足で自分のテーブルに向かった。
 
 麻耶自身、どうして、あの最上階からこの階に降りて来れたのか、
またどうして、あの階とこの階が直通エレベーターで繋がっているのか、
 今まで、そんなこと誰からも聞かされた事なかったのに・・・。
で、あの人は・・・誰、どんな関係が・・、
 いくらなんでも、麻耶は社長の顔は覚えているし、あの人ではない。
 疑問がいくつか残ったまま、パソコンの電源を入れ、仕事を続けていると、
目の前の電話が鳴り、相手からおしかりの電話をもらい、処理の夢中。
 その処理を済ませているうちに、いつの間にか先ほどの事は忘れてしまっていた。
 
 麻耶は、今自分の大きな目標に向かって、この昼間の仕事の他に、
夜知り合いのママさんのところで週に2、3回ほど、手伝いとして、ホステスをしている。

 大友龍太郎は、六本木ヒルの高速エレベーターの前で、暗証番号を入力して
開いたエレベーターに乗り込もうとしていた、その時突然女性が走り込んで来た。
 あのエレベーターの出会いがあってから、龍太郎は、麻耶と遭遇することになったのだ。
龍太郎はすぐに気づいたが、あえて彼女が口にするまで、黙っている事にした。

 しかし、なぜか大友はアレ以来、麻耶のことがかなり気になるようになった。
そのためか、あのサパークラブに行く回数が増えた。
 それで、さほど好きでなかったウイスキーを、来店の数が増え、自然に飲む事が増えた。

 そして、麻耶は以前に龍太郎に会った事を思い出した。
それは、ゆっくりと、サパークラブの中に入って来たとき、あのエレベーターの情景を思い出したのだった。
 たまたまその時案内するママが席をはずしており、麻耶が龍太郎を案内する事になった。
「いらっしゃいませ!」
「大友様!」腕をからませながら、
「やあ、麻耶君か!」
その返事ももどかしそうに「先生(大友様)、ズルイです!」
 「えっ、どう言う事かな?」
「先生、麻耶と初対面ではないでしょ?」以前、エレベーターの前で・・・
 「あぁ、そうだったね!」
「先生、どうして・・・・、言って下さらなかったのですか?」
 「おい、先生は止めてくれ!」「僕は、先生などと、偉い人間ではないから!」
「分かりました、では、大友様」「どうして、ですか?」
 「それは、あのような場所と、このような場所、いろいろと・・・」
「いろいろと、何ですか?」
 「それは、君の立場を考えて・・・」
「立場って?」
 「多くのこのような仕事をしている人は、色々な事情が・・・」
「あ、なるほど、隠したい人が多いって事ですね!」
 「そうだと思って、・・・」
「ご心配くださって、大変ありがとうございます。」
 「でも、私はぜんぜん、大丈夫です。」
「そうでしたか、それは、スイマセン!」
 「いいえ・・・、そんな先生のお気配り、大変うれしいです。」

 打ち解けた感じで二人はいつもの場所に移動した。
そしていつものウイスキーとロックガラスが麻耶の手によって用意された。
 何故か今夜は2人の意気が会いそうでお酒が進みそう。
 麻耶がグラスにウイスキーを注ぎ「乾杯」とグラスを重ね合わせた。

なんとなく照れくさそうに、麻耶は話し出した。
「あの時はごめんなさい。」
「何のことかな?」
「お忘れですか?」
「エレベーターを私が間違えた事です!」
「お忘れですか・・・・やはり」
「・・・・」
「いや、覚えているよ」
 大友はしっかり覚えていたが、なぜかその話に触れる事を避けた。
なぜか、理由は分からないが、彼女に近づくことはまずいような気がしていた。
 なのに、なぜか勝手に足がここに向いてしまう。
 大友はアレ以来、5回もこのサパークラブに顔を出している。
 大友にとって、年甲斐も無く、自分の理性をコントロール出来ていない事が、
自分自身ふがいなく思っている。

「あなたは私どもの会社に関係のある方なのでしょうか?」
「・・・まあそうだな・・」と大友は言葉を濁してその先を意識的にとめた。
「あなたこそ、31階で降りたようですが・・・・」
「あそこで働いているのではないのですか?」
「はいあそこで働いております」
「・・で・・ここでは・・・?」
「ここは、こちらのママに頼まれて、お手伝いしているだけです。」
「しかし僕は来たときに、あなたはいつも、おられるようですが?」
「あなたは来られるのは、いつも火曜日ではございませんか?」
「私がここに手伝いにくるのは、火曜日と金曜日なのです」
「そうでしたか・・・」
「てっきり私はあなたがここで・・・」
「いやですわ…」「ここはお手伝いだけです」
「やはりそうでしたか・・・」
「気になっていたのですが、なかなか・・・」
大友は納得した様子で、ひとりでうなずいていた。
少しほっとしたような気持ちで・・・
「ではあの会社で、どんな仕事されているんでしょうか?」
「申し訳ございません。詳しいことは申しあげられません。」
 と言ってみたものの、彼はおそらく私のことなど、調べればすぐに、
分かるだろうということは、
 想像できたが、あえて口に出さなかった。
ただ、麻耶にとって、大友は特別な人になってしまっていた。
 まるで父親のような、暖かさだったり、麻耶の周りでチヤホヤする、
男どもとは全然違った、一ランクも2ランクも上の精神力の強さを感じ、
恋心さえも抱いている。
 というよりもすでに彼にハマってしまっている感じだ。

 麻耶の心の中ではいつかきっと彼の胸の中に・・・。
と思うことが、日に日に増してきている自分に気づく。
特に、1日が終わって、ベッドの中に入ったときに感じていた。
おそらく、あのエレベーターの中での出会いが、
彼女に異変をもたらしてしまった。
”巷でいう恋心”でも、おそらく私より二十歳以上離れているかもしれない。
 なぜか麻耶の目線は、いつも年上に向いてしまう。
 ある時、友達から
「麻耶、あなたはファーザーコンプレックスが、あるんじゃないの?」
その言葉に否定はしてみたものの、納得できる自分がいる。

「どうしました、急にしんみりとした顔をして・・・?」
大友は優しい瞳で、麻耶に話しかける。
我に返った摩耶は「あ・・、ごめんなさい・・・」
「何でもありません」と少し顔を赤らめながら、ハニカンで大友を見つめる。
大友は見つめられた瞳にどきっとするものを感じた。
 まじまじと見て、大友はあまりの美しさについ、目線を下げてしまった。
これは何なんだ、こんな感覚しばらく忘れてしまっていた。
 少し大友は狼狽してしまう。
”自分の歳を考えろ”と心の中で、自分を戒める。
 大友は急に今日は帰ると、麻耶にそっけなくいってしまった。
まるっきり自分の意志とは反対に。摩耶は少し寂しそうに、
「わかりました、ではまたきてくださいね。」

 なぜか大友は、席を立って、ママに挨拶もせずにサパークラブを後にした。
ぼーっとしている。












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