12-夜明けの歩道
「どうかしたの・・・? 龍さん、あなたがこんなに・・・」
瞳は、龍太郎の変貌振りに驚くばかり、
「いきなりやって来て!」
「悪いな・・・!!」
「いいわよ!」「うれしいわ!」
「だって、私がどんなに誘っても・・・・」
「悪いな!」
「いいえ、こんなあなた・・・」
「始めて見る・・・わ・・・」
「悪い・・・!」
「うん・・・もう・・!!!」
「あなた・・・さっきから・・・!!」
「“悪いな・・・!”“悪いな!”“悪い・・・!”だけ・・」
「悪・・・い」
「また・・・・、“悪い”もういいわ!」
「もう何も言わなくて!」
「すまん!」
「えっ! 今度は・・・」「もう・・・!」
瞳は、龍太郎の唇を自分の唇で押さえて、もうそれ以上何も言わせないようにした。
龍太郎は、川村瞳のマンションにいきなりやって来て、チャイムを押し続けた。
瞳は寝入ったばかりを起こされたのだ。
瞳は何度も何度も、龍太郎に迫っていたのだが、
決してうんとは言わなかった。
そして、完全にあきらめていた。
もう彼に迫るのはよそうと・・・
あの誕生日プレゼントのメッセージカードに、
“もうあきらめました”とメッセージを送ったばかりだったのに・・・
瞳は今、龍太郎の腕の中にいて、心は困惑して・・・いる。
うれし、うれしいけれど、何故・・・何があったの・・・
さすがにママも、龍太郎の心の内が読めない。
瞳自身も折角吹っ切れた・・・・、吹っ切った所だったのに・・・
でも・・・・、うれしい、今龍太郎は私の隣に・・・彼の腕の中に・・・
幸せを噛みしめるように彼を・・・彼自身を左手で・・・掴んで・・・
そう想って、夢の中・・・だと想っていたら・・・
龍太郎、何やらゆっくりと、瞳の腕を気づかれない様に放し・・・、
そして、起き上がり浴室のドアを開ける姿が・・・
瞳は、暫くそのまま様子を伺っていると、
龍太郎は脱いだ服を着始めた。
下着、ワイシャツ、ネクタイ・・・・
ネクタイを結び終えて、瞳がハンガーに掛けたスーツのスラックス、
そして、スーツを・・・、音をなるべく立てないように、着ている所だった。
瞳の大きな瞳に涙が・・・・声にならない声で、どうして・・・私は・・・
しかし、そこは、そんじょ、そこらのママではない。
いつのまにか、スーツを着るのを手伝っていた。
何も言わずに・・・
「すまん・・な!!」
「ほら、・・・・また・・」
「龍さんらしくありませんわ!!」
「ありがとう・・、すまん!」
「また言って、しまったな・・・!」と、龍太郎弁解するが・・・
その弁解する唇を、また瞳は塞いだ。背伸びして、抱きつきながら、唇で・・・
「いって、らっしゃい!!」必死で涙をこらえる瞳
「うん、行ってくる!!」龍太郎、答えるように・・・
しかし、この2人の会話果たして・・・どんな意味で・・・
外は、もう日が昇りかけて、新聞配達の自転車が行き過ぎていった。
龍太郎は、あえて、運転手も呼ばずに、空車の通り過ぎるタクシーに手を上げずに、
ひたすら、歩き続けていた。
その姿は、何故か、いつもの龍太郎と比べると、相当小さく見える。
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