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5月25日から 年齢限定かけました。
奇跡の巡り会い
作:浅見 希



1-出逢い


ひっそりと静まり返った、22時の青山高層ビル46階のサパークラブ。
そこに、英国製の生地を、完璧に仕立てたスーツをスマート着こなし、どっから見ても決して非のうち何処の無い、ロマンスグレーの紳士。
その紳士の名は大友龍太郎。 いかにも高級そうな、すっぽりと腰全体を包み込むようなソファーに、腰掛けている。
優雅に35年間熟成された、余市のモルト竹鶴のロックを片手に、窓に広がるパノラマ映像のごとくに投影される景色を見つめる目が、いかにも激動の過去を創造させる眼だ。
眼下に広がる光の軌跡を、ゆっくりと追う。時折見せる鋭い眼差しは、かつての栄光が偲ばれる。
そして、その背中姿からは、十分過ぎるほどの苦難を乗り越え、数々の熾烈な企業戦士としての、栄光を掴んできた様子が伺え知れる。
その彼にも、ひたひたと定年の影が忍び寄る。ある時期を除いて、一つ一つ着実に物事をこなし、多くの部下から、確固たる信頼を得ている。

今日は彼にとって人生節目の日、そう彼の50数回目の誕生日。カウンターで、最近日課になったこの場所でくつろぐ。
そして本当のアルコールの素晴らしさに、陶酔するように、ゆっくりとロックグラスを傾ける。
一人で人生を噛みしめるように、芳醇な香りと共に、最近の出来事を思い浮かべている。

そこに、ママが同じロックグラスを手に持ち、その紳士の隣に少しの空間を持たせてゆっくりと座る。
まるで、何年も連れ添った古女房のように、いつもと同じ事を、当たり前の様に行った。
「お邪魔します、龍さん!」
「おう、ママ!」
「お誕生日、おめでとうございます。」
深々と頭を下げて、そっと龍太郎に、何か小さな包みを手渡した。
「おう、すまないねぇ、もう誕生日って柄じゃ無いのに・・」
龍太郎、軽く頭を下げる。

ママ、後ろを振り向き、手招きするようにして、
「どうです? 若い娘でも呼びます?」
「別に・・・いぃ・・」
と、言いながら振り返ると、そこにどこか憂いを感じさせる、まさしく8頭身そのものキュートな麗女が、すくっと、立っていた。
「麻耶です、初めまして!」はにかみながら、かなり深めに頭を下げる。
 「龍さん、たまには若返りも必要よ!」
そう言って半ば押し付けるように麻耶を置いてママは行ってしまった。

この場面で龍太郎、自分が話さないと彼女、気まずくなりそうなので、頑張って
「大友龍太郎です!」とまるでレセプションの自己紹介の様な一言。
すると、麻耶クスッと・・・
 「ごめんなさい、大友さんまるで会社に居るみたい!」少しどきりとする。
「おう、そうだな!」「ごめん!」
 「ごめんだなんて!」「そんなつもりじゃ・・・」
麻耶はまるで気づいていない。以前に会った事があることを。
「最近、君みたいな若い娘に話す事、ないので!」
 「そうなんですか?」

いつの間にか会話が少しずつ、繋がっているようだ。今時珍しい華麗な雰囲気を持った娘が、龍太郎のソファーにちょこんと座って、前面のパノラマの夜景を見ている。
かなり会話も弾んでいるようだ。

麻耶は日本人離れした体のバランスで、背も高いが脚も長く、すらっとして綺麗。
彼女はまさに、自分の脚を知り尽くした、ミニスカートのサイズとデザインだ。
彼女がフロアーを歩くと、薄暗い店内に桜の花が満開に咲いたような、雰囲気になる。
生半可のファッションデザイナーでは、かないそうもない衣装を着こなしている。
この店のハイセンス、モダン、エレガントさを上回った着こなしだ。

彼女はアルバイトとして週に2〜.3日。気の向いた時にやってくる。
そんな働き方は決して許されるものではないが、なぜか彼女は別格、訳があるのだろう。

翌週の同じ曜日、サパークラブに大友龍太郎は、ほぼ同じ時間にやって来た。
するとママが、いつもの場所に案内する。
そして、麻耶が同じお酒を持ってやって来る。今夜、ロックグラスは2つ、麻耶もほんの少しだけお付き合いするつもりで・・・。

彼女がその彼の隣に座ると、ほのぼのとしたような雰囲気が漂ってくる。
カップルの後ろ姿は、充分親子と見間違えられるような年齢差だ。
龍太郎は今夜もじっくりと、年の過ぎゆくのをかみしめながら、余市のモルト竹鶴のロックグラスを傾ける。
 麻耶は始めて隣についた日、ほとんど会話は初めだけ、しかし龍太郎にとって、それが良かったのだ。
麻耶はどうして良いのか、不安だらけだったが、ママは“大友様はそれが良いのよ”と龍太郎が帰った後教えてくれた。
そして“麻耶の事気に入ったみたいだって。”そう教えてくれたのである。
今夜も同じように、遠くのすっかり変わってしまった景色を見ながら、思いにふける龍太郎。
 目をつぶると、どちらかというと楽しいことばかりが、蘇ってくる。
しかし、あの大きな傷跡だけは、自分にとって、人生最大の汚点であった。
 その思い出の時に、ロックグラスから、喉に注ぎこまれる。

優雅に35年間熟成された、モルトウイスキーは、焦げるような暑さを感じで、
体が震える。
高層ビルからの、キラキラの夜景をまぶしそうに目を細め、瞳の残照を楽しんでいる。
ゆっくり、ゆっくりと、そして、今までの人生を振り返りながら、時おりロックグラススを口に運んでは余韻にひたっている。
口の中に広がる透明でブルーな世界、悲哀も、愛情、恋慕もすべて押し込んで。
麻耶、タイミングをうかがいながら龍太郎に黙って小さな箱を手渡す。
その箱にはピンクのリボンが掛けられていた。
「なんだい、これ?」不思議そうに龍太郎首を傾げる。
 「これ、私からの誕生日プレゼント!」
「えっ、僕に?」
 「はい、1週間遅れですが!」
「それは・・でも!」
 その雰囲気を察してママがやって来て、
「麻耶の、気持ち受け取ってあげて下さい、な!」
「そうか、それじゃー有難く頂いておこう」
「麻耶さん、ありがとう、お礼に食事でもご馳走しましょう。」
 「えっ、本当ですか?」
チラッとママを見上げると、ママは、“良いわ”というように頷く。
頷きながらママは、別のテーブルに行ってしまった。

龍太郎のそばにちょこんと、麻耶はソファー腰掛けている。今回もお互い話が弾まない、龍太郎は、麻耶がそばに居てくれるだけでいいのだ。
中途半端な、おべっかや、聞きかじりの政治経済の話など無用。たわいも無い話が時折話せるだけで十分なのだ。
無理して話に合わせて来るホステス等、龍太郎にとって、かえって鬱陶しいのだ。












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