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道の果ては 作者:花咲リナ
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それから女は、時々顔を出すようになった。
女が来た時は必ず何か食べ物を持ってきてくれる。好き嫌いが多いらしい。
女はいつも椅子に座り、様々なことを教えてくれた。



「はぁい、調子はいかが?私は今日も傀儡のような部下達に囲まれて辟易しているわ」

その日も、こちらに丸い形状のパンを投げ入れてきた女は、椅子に座って溜息をつく。

「何か面白いこと、ないかしら」

椅子の背もたれに頭を預け、体の力を抜いた状態で首だけ回し、こちらを見遣る女。

「ねえ、何か面白いお話、聞かせてちょうだい」
「……」
「ああ、そうだわ!――あなた、お国はどこなの?ここの出身ではないわよね?」
「……日本」
「――ニホン?それ国の名前?頭の悪い魚のようね」

女の言っていることは、時々よく分からない。

「どんな国か、教えてくださる?」
「――島国」
「ふぅん。……その国の方達は、皆あなたみたいに小さいのかしら?」
「……」
「あなた、そう言えば年齢は幾つなの?」

訊かれて答えに窮する。
この檻の中で、どのくらいの時を過ごしたのか分からなかったからだ。

「……」
「ちなみに……、あなたがここに来て、半年が過ぎてるわよ」
「はん、とし」

別に驚きはしなかった。それ程長い間、この檻で生活していた自覚はある。
しかしそうなると自分の歳は……、逆算して――。

「十六」
「ふぅん、十六ね――。……十六?」

女がこちらを二度見する。何故か目を見開き、口を半開きにして手で抑える。

「やだ。成人していたの?」
「?……してな、い」
「してるわよ。……ああ、そうね。国が違うと年齢も変わるわね。この国で女性の成人は齢十六よ」
「……」
「それにしても、本当にあなたには驚かされるわ。うふふっ、それが面白いのだけれど」

椅子の背もたれにゆったりと腰掛け、足を組みながら笑を浮かべる女は、瞳を好奇心で煌めかせる。

「あなた、生誕日はいつなのかしら?」
「……十二の月、……二十四日目」
「あら、結構前ね。そうだわ!あなたの母国――ニホンではどのように生誕日を祝うの?」

尋ねられ思い出すのは、テレビで見たCM。皆に見守られながら蝋燭の火を吹き消す子供達と、誕生日を祝う歌。

「――ケーキを、食べる」
「ケーキ!ううっ、聞いただけで胸焼けがするわ……」
「……」
「なぜあの物体を食べたいと思うのか、理解できないわ。調合物より余程、食欲を失くす見た目ではなくて?」
「……ちょう、ごう?」
「調合物。あなたが普段口にしている物のことよ」

最近口にした蛍光ピンクの粉を思い出す。彼女にとって、ケーキよりピンク色の粉末の方が美味しそうに見えるらしい。

「あらいけない。もうこんな時間だわ」
ふと首にぶら下げているペンダントを見て、女は椅子から立ち上がる。

「……他人より博識のつもりでしたけれど、世界は広いわね。まだ知られていない国があるだなんて」

そう呟く女の表情は、いつもと少し違うように思えたが、それも一瞬だった。

「それではご機嫌よう。少しでも長生きできることを祈ってますわ」

くるりと白衣を翻し、カツカツとヒールを鳴らして、女は部屋を出て行った。



漸く、女が投げ入れたパンを拾い上げてみると、既に乾燥して固くなっている。
それを小さく千切り、口に含んだ。

「――はんとし」

小さく落とされた呟きは、誰に聞かれることなく、ひんやりとした檻の中に溶けて、消えていった。

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