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道の果ては 作者:花咲リナ
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部屋に入って来た白衣の人影を確認し、相変わらず目の前に置いたままの、四角い固形物を見遣る。器に入った透明な液体の方は、多少量が減ったように見える。

まずは固形物に手を伸ばす。ザラザラとした感触がして、匂いを嗅いでみると、屋敷で嗅いだことのある薬草に近い匂いがした。
力を入れると案外簡単に割れたので、片方の欠片を口に入れる。途端、強い苦味が口内に広がったが、時間をかけて咀嚼し、一気に呑み込んだ。しかしあまり上手く喉を通らない。
……そう言えば、何かを口にするのは久し振りな気がする。

喉を潤そうと、液体の入った器を持ち上げる。最初より量が減っているのは、飲んだからではなく、蒸発したからだ。
鼻に近づけて匂いを嗅ぐが、こちらは無臭だ。口に含むと、味もなく、これは本当にただの水らしい。

顔を上げると、こちらを凝視したまま、手に持っている板に忙しなく何かを書き込む姿が見えた。

ああ、やはり。これが正解だったのだ。




╋ ╋ ╋ ╋ ╋ ╋




皿が空になれば、次の皿が差し出される。その上に乗った、得体の知れない物を口にする日々が続いた。

皿に乗って出てくる物は様々だ。
最初に口にしたような、四角いキューブ状の物、ドロッとしたゼリー状の物、粉状の物……。
形だけではなく、色も様々だった。
緑、赤、紫、白、黒、それらが混ざり合ったような色から透明な物まで、多種多様だ。

そしてそれらは、必ずしも安全な物だとは限らない。
――否。寧ろ、食べて何もない方が珍しい、と言っても過言ではない。
食べてすぐ高熱が出たりするのは定番で、時には嘔吐したり、湿疹が出たり、息が苦しくなったり、内蔵が焼けるように痛くなったり――……。

そうなった時は症状が治まるまで放置されるか、又は苦味の強い何か――、恐らく薬と思われる物を投与される。
そして治れば、再び毒々しい色の物体を差し出される。
ひたすらにこの繰り返しだ。

日に日に弱っていく自分の体を自覚しながら、差し出される物を拒むことはしなかった。

そんな日々がどれだけ続いただろうか。時間感覚など、とっくに狂っている。
ここに来てどのくらい経つのか、検討もつかない。
しかし、ここに来た時は顎くらいの長さだった髪が、いつの間にか肩に付いてしまう程伸びていることを考えると、確実に数日は経っている。

伸びきった前髪の隙間から、冷たい檻の向こう側を見つめる。
白衣の人影が一つ、飽きることなくこちらを凝視している。
もうこれが、「日常」となりつつあるのだから、人間の順応力は侮れないと思う。

そうしていつしか言葉を発さなくなり、さらにまた随分経った頃だった。


その人が、現れたのは。
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