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道の果ては 作者:花咲リナ
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2


降りて一番最初に目に付いたのは、大きなドーム型の古い建物だった。
止まった馬車はすぐに回れ右をして来た道を戻って行く。
建物は森の中に隠れるように立っていた。敷地面積は広いようだが、生い茂る木々が邪魔をして奥行きは見えない。

「失礼します」

辺りを見回していると、突然視界が真っ暗になり、少なからず驚く。細長い布を目元に巻かれたようだ。
続けて腕の中に抱えていた服も取られ、手首足首を縛り上げられる。最後に口に何かを噛まされ、地面に転がった。

「北棟の地下へ。部屋はどこでも構いません」

馬車の中で一緒だった男の声が頭上でする。誰かに指示を出しているようだ。目を塞がれる前は誰もいなかったし、今も男以外の人の気配を感じられなかったが……。

不意に体が持ち上げられる。誰かに担ぎ上げられたようだ。
そのままどこかへ移動するような振動が伝わってきたが、抵抗する気も起きずされるがままだ。
しかしこうして拘束されると、競売に出された時を思い出す。あの時もこうして自由を奪われて運ばれたのだ。
もしかしたら、また競売にかけられるのだろうか。またあの群衆が待ち構えているのかもしれない。


暫くして前置きもなく落とされた体は、硬い地面に打ち付けられ、衝撃に息を呑む。
そのまま目隠しを取られ、手足、最後に口の拘束を解かれる。
目を瞬かせている間に、ガシャン、と鋭い音が響き、そちらを見ると格子越しに人影が見えたが、すぐに扉の向こうに消えていった。
バタン、と閉まった扉。辺りはとても静かだ。

ゆっくり起き上がり、目の前の光景をぼんやり眺める。どうやら大きな檻の中に入れられているようだ。
寝転がっても余りある程大きな檻は、金属らしき物でてきており、ひんやりと冷たい。
格子の向こう側に見えるのは、乱雑に並べられた棚と、隅の方に押しやられるように置いてある机と椅子。出入口は真ん前に見える木製の扉だ。
あの眼鏡の男が地下室、と言っていたから、恐らくここがその地下室なのだろう。しかし部屋の中に、これだけ大きな檻を置く理由は何だろうか。
自分はここでどうなるのだろう。どうも競売用の商品を置いておくための檻、という訳でもなさそうだ。だとしたら、また何処ぞの物好きの鑑賞用か。

――ああ、また分からないことが増えた。

痛む体を冷たい檻に預けるように座り、小さく息を吐く。すると思っていた以上に疲れていたのか、意識が薄くなっていき、それに逆らうことなく目を閉じた。



╋ ╋ ╋ ╋ ╋ ╋



ガシャンッ

金属の擦れる音で意識が浮上する。
ぼんやりと目を開けると、檻の出入口が閉められるところだった。
檻を閉めた人影は、そのまま部屋を出ることなく、格子越しにこちらを伺っている。

ふと、檻の中に何か置いてあることに気付く。目の前に、茶色の固形物が乗った皿と、透明な液体が入った器が置かれている。
そこでやっと自分が何処にいるのか、思い出した。

もう一度格子の外を見遣り、こちらを見つめている人影を確認する。
白衣を着ていたので、あの眼鏡の男かと思ったが違った。見知らぬ若い男だ。
凡庸な顔立ちには何の表情も浮かんでおらず、無感動にただこちらを凝視している。手にはバインダーのような板を持っている。

皿を置いたのはこの青年だろう。目の前に置かれた物に目を戻し、四角い固形物を見る。液体の方は透明なので水だろうか。
得体の知れない物をどうすれば良いか分からないため、とりあえず放置することにした。
青年は何の言葉も発さず、ただこちらを見ているだけだ。何か指示があったら従えばいい。

膝を抱えると、そこに顔を埋める。暫くそうしていると、青年が動く気配がした。
微かに顔を上げると、バタン、と扉が閉まる音が響く。どうやら部屋を出て行ったらしい。それを確認して、また膝に顔を戻す。

意識が沈んだり浮上したりを繰り返す。
その間に何回か、部屋の扉が開いて白衣を着た人が入っては出て行った。
窓もなく、時計もないため時間感覚が狂っていく。ここに来てどのくらい経ったのだろう。一時間……いやもしかしたら一日、かもしれない。

この部屋に来る人は皆、白衣を来ている。時間により交代しているのか、頻繁に人が出入りするが、部屋に入ってくるのは一人だけだ。入れ替わる時は、必ず部屋に誰もいない状態で次の人がやってくる。

彼等は何をするでもなく、無表情にこちらを見ている。
最初は監視するためだろうか、と思っていたが、すぐに違う考えが浮かんできた。

――もしかして、この人達……。

あの眼鏡の男も、この部屋を訪れる者達も、瞳に感情を映さない。
それは人間ではなく……、そう、例えるならば部屋の隅にいる羽虫の動きを眺めるような……、そんな無感動な瞳。

しかし、無関心ではない。こちらを見つめる視線は真っ直ぐだ。
時々持っている板に何かを書き込んでいるが、視線が逸れるのはその時くらいだろう。

部屋に入って来た人数が、百を超えた頃。疑惑は段々、確信へと変わる。
白衣の人影は一言も喋らない。しかし言われなくても、察することはできる。

ここに連れて来られたのは、恐らく鑑賞用でも競売用でもない。


――……観察用だ。

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