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道の果ては 作者:花咲リナ
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この世界に残ることをヘルに言うと、意味深な笑みを向けられた。

「まあ、そうなるよね」
「……?」
「何でもないよ。体調が完全に戻るまで……、いや。これからどうするのか決まるまではこの家にいていいからね」
「……ありがとう」

もし早々に追い出されることになったらどうしよう、と考えていたためヘルの言葉に感謝する。

そうなると、今後の最優先事項は体調を戻すことだ。
ベッドの上に投げ出された、包帯だらけの自分の手を握り締めながら、これからの予定を考えていく。


「アキヨ、お風呂どうする?」

ローアルが部屋に入ってきた。
するとヘルがなぜか慌てたように、こちらに駆け寄ってきた。

「練習も兼ねて、自分で入ってみたら?ね?」
「?……入ってもいいなら」

お風呂に入れるのは嬉しいことだ。
気を失ってた間も洗ってくれたみたいだが、やはり自分で洗っておきたい。
しかし、やけに "自分で" を強調されたように感じたが、気のせいだろうか。

ヘルがほっとしたように息を吐く後ろで、なぜかローアルがムスッとした表情で立っていた。

「ヘル」
「もう意識も戻ったんだから、駄目に決まってんだろ!」
「病み上がりだ」
「あのなぁ、赤ちゃんじゃないんだぞ」
「何が言いたい」

「あ、あの」

唐突に始まってしまった険悪なムードに、慌てて口を開く。

「お風呂、貸してもらえますか」
「もちろん。案内するね!」

満面の笑みでヘルが頷くと、パッと立ち上がる。

ベッドの外に足を伸ばし、ゆっくり床に立ってみる。

「アキヨ!」
「大丈夫、です」

少しふらついたが、案外立てるものだ。
咄嗟に背中を支えてくれたローアルに礼を言い、一人で足を踏み出す。

リビングらしき所を横切って案内されたのは、木のいい匂いに囲まれた浴室。

「着替え、後で置いとくから。脱いだ服もこの籠の中入れといて」
「何かあったらすぐに呼んでください」

二人に頷き、脱衣所のドアを閉める。
そして一人になった空間で、小さく息を吐き出した。

自分の体を見下ろす。意識がない間に着替えさせてくれたのか、研究所で着ていたものとは別の物だ。
それを脱ぐと、痣だらけの貧相な身体に、処々包帯が巻かれていた。
一つ一つ丁寧に解きながら、怪我の状態を見ていく。

ほとんどが屋敷で働いていた時に作ったもので、そのまま禄な処置もしていなかったのが悪かったのか、化膿したりしていた。それを治療してくれたのだろう。本当に頭が上がらない。

研究所で怪我をすることはなかったが、注射を何回もされた記憶がある。
そこにも包帯が巻かれていて、見れば結構ひどい状態だった。

そして指に巻かれた包帯。
解いてみて、思わず眉を顰める。
恐らくあの暗闇から抜け出そうと必死だった時、壁を引っ掻いて爪を……。
新しく生えてきてはいるが、復活するにはもう少しかかりそうだと、他人事のように分析する。

一通り確認してから、目をそらすように浴室のドアを開けた。

湯船が一つと、桶と椅子が一つ。
どうやらシャワーはないらしい。

ボトルが置いてあるが、シャンプーなのか何なのか見分けがつかない。
屋敷にいた頃のお風呂は、石鹸しかなかったし、湯船もなく冷水をかぶるだけだった。
この世界にシャンプーとかリンスとかがあるのか分からないが、少なくともボトルが二つあるのを考えると、試してみる価値はありそうだ。

片方のボトルから液を垂らす。
手を擦り合わせると、泡立ち始めた。これはシャンプーだろうか。匂いを嗅いでみると、とてもいい匂いがした。

洗っては流し……を何回か繰り返し、ようやく泡立ちが良くなってきた。やはり相当汚れていたらしい。

次は体を洗おうと、もう一つのボトルの中身を出してみる。
……これは泡立たない。リンスだろうか。
もしかしてこの世界では、シャンプーがないのかもしれない。後で確認しなければ。
ヌルヌルするそれを、とりあえず髪に馴染ませる。

そして先ほど髪を洗ったのと同じもので、体を綺麗にしていく。

そうして全身洗い終えて、湯船に足を入れる。

ほうっと思わず吐息が零れた。
モワモワと上がる湯気をぼんやり見つめる。
じんわり、体が温まる感覚に力が抜ける。

日本にいた頃、お風呂の時間が唯一安心できた。
お風呂に入ってる間は、誰にも怒られることはない。
何の音も入ってこない。誰にも侵されない空間。

……もう日本に戻ることはないんだ。
膝を抱え、目を閉じる。

しかしすぐに目を開け、風呂から出た。
綺麗に畳まれたタオルが置いてあり、ありがたく使わせてもらう。そして置かれていた新しい服を身につける。
脱いだ服や包帯は無くなっていた。

髪を拭きながら脱衣所から出ると、すぐにローアルが駆け寄ってきた。

「アキヨ!体調は?」
「お湯加減は良かった?」
「大丈夫です。お風呂、ありがとう」

二人に返事をしながら、ローアルは心配性だなと思う。
そういう風に心配してくれる人なんて、今までいなかった。
嬉しいが、戸惑いの方が大きい。

「髪、拭かせてください」

手を引かれ、ソファに座らされる。ローアルは後ろにまわり、タオルで優しく髪を拭く。
こんな事をされたのも初めてで、断りきれずにされるがままになる。

「痛いところはありませんか?」
「は、い」
「後で包帯を巻き直しますね」
「……お願いします」

始終されるがままで、気付けば髪を梳き、包帯も巻いてもらって、ベッドに運ばれていた。

「子守唄を歌いましょうか?」
「……」

窓のカーテンを閉めたローアルが、ニコニコとベッド脇の椅子に座り、こちらを覗き込んでくるのを見て、やっと我に返る。

そして思った。
これは早々に何とかしなければならない、と。
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