挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
道の果ては 作者:花咲リナ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

14/21

4

やっとメインキャラ登場です……。


ばさばさと、騒がしい羽音に顔を上げる。

はやっと、驚いたようにヘルが呟いたのと同時に、部屋のドアが勢い良く開いた。

「――っ」

息を呑んだのは誰だったのか。
入って来た人影と目が合った瞬間、記憶が蘇る。

あの暗闇から抜け出し、意識を失う寸前、見えたのは淡い金色と、冬の夜空。

「あーっと。彼が、君をここに連れてきた奴だよ」

お互い見つめ合ったまま動かないのを見兼ねてか、ヘルが苦笑混じりに紹介する。

途端にハッとしたように、ぎこちなく動き出した男は、こちらにゆっくり歩いてくる。
そしてベッドの側まで来ると、こちらの目線に合わせるように跪く。

サラリと、微かに揺れる白金の髪は輝き、こちらを真っ直ぐ見つめる瞳は、澄んだ冬の夜空のような色。

「助けてくれて、ありがとう」

彼が何か言う前に、気付けば言葉が零れ落ちていた。

男は虚をつかれたように一瞬固まったが、すぐにくしゃりと、泣きそうな表情で笑った。

「よかった……」

とても柔らかい低音が、吐息のように零れる。

そのまま、何ともなしにお互い見つめ合っていると、ゴホンと咳払いが聞こえた。


「気持ちは分かるけど、自己紹介くらい自分でしてよ」

ひどく呆れたように、男に視線を向けるヘル。
男はまたハッとしたように背筋を伸ばし、片手を左胸に添えた。

「申し遅れました。スクリム侯爵家嫡男、ローアル・スクリムであります。以後お見知りおきを」

「……よろしく、お願いします」

畏まって挨拶をされ、少し反応が遅れる。
ふわりと微笑まれ、反応に困った。

「貴女の名前を、お伺いしても?」

名前。
そんなことを聞かれるのは、いつぶりだろうか。
……少なくとも、この世界に来てからは初めてのことだ。

「私の、名前は――」

目の前の男、ローアルを見つめる。



「あきよ、です」

「アキヨ……」



自分の名前が呼ばれ、不思議な感覚がした。くすぐったいような、温かいような……。

片膝をついた状態のまま、ローアルは俯き、微かに震えていたかと思うと、勢い良く顔を上げる。
目が合ったローアルの目は、驚く程真っ直ぐで逸らせない。


「アキヨ」
「……は、い」

徐に手を握られ、突然のことに瞬きを繰り返す。


「命にかえても、己の大切なモノを守ることが、我々騎士の誇りであり、何よりの幸せです」
「……」

「ですから、騎士である私が、貴女の傍で、許される限りの時を共に過ごし、貴女の御身をお守りすることを、許して頂けますか」

「……」

真っ直ぐこちらを見つめ、手を握ったまま離す気のないローアルに戸惑いながら、思考を巡らす。

……つまり。

『自分は騎士で、騎士とは何かを守ることが仕事で、今回は貴女を守ることが仕事だから傍にいてもいいですか――』

ということだろうか。

何から守るのかは知らないが、こちらは助けられたばかりの身だ。
そこまでしてもらうのも申し訳ないと思うが、それが彼の仕事であるなら、寧ろこちらからお願いするべきだろう。

「お願いします」

了承の意を伝え、頭を下げる。
するとローアルの真剣な表情が崩れ、代わりに満面の笑みが浮かぶ。

「ありがとう」

す、と伏せられた瞳。頭を下げたローアルの口元が、手の甲に触れた。

「ローアル・スクリムは、アキヨに絶対の忠誠を誓います」


「あーあ……。ちゃっかりしてるなあ」

ぽつりと、呟かれた声に、我に返る。
顔を上げると、退屈そうに頬杖をつき、半目でこちらを見ているヘルがいた。

「胸焼けがする。なにこの空気」
「ヘル、しばらくこっちに泊まる」
「今更だよね?」

別にいいけどさ、と不満そうに足を揺らすヘルは、こちらに苦笑を向けた。

「アキヨちゃんも、面倒なのに捕まったね」
「ヘル」
「はーいはい」

ヘルの言葉の意味が分からず首を傾げていると、ローアルに手を握り直され、そちらに目を向ける。

「何か食べられそうですか?お腹は空いてます?」

そう言われるが、空いているという感覚はない。
寝たきりだったため、その間何も食べていないはずだが、ここ暫くの生活で胃袋が縮んでしまったのかもしれない。
ゆっくり首を横に振ると、心配そうにこちらを覗き込むローアル。

「少しでも何か食べた方が良いですよ。消化に良い物を作りますから」

そこまで言われて断る理由もない。今度は一つ頷く。
するとローアルは安心したように頬を緩ませ、手を離し立ち上がった。

「すぐ戻ってきます」

無駄のない動きで部屋を出て行ったローアルに、やはり申し訳ない気持ちが湧く。

ここまでしてもらう理由がない。
助けてくれて、意識を取り戻すまで置いてくれた。
それだけでも充分なのに……。


怖い、と思う。


「アキヨちゃん」

呼ばれて顔を上げる。
ヘルがその容姿に似合わない、大人びた笑みを浮かべ、こちらを見つめていた。

「余計なことは考えなくていいよ」
「……」
「元の世界に帰りたいのか、この世界に残るのか。その答えを出すことが、最優先だよ」

ヘルもだ。
元の世界に帰りたいのなら、方法を探すと言ってくれた。
なぜ、そこまでしてくれるのか分からない。


だけど、言葉は出てこない。
ただ、頷くことしかできなくて。



ただ、初めて触れる優しさに、
戸惑うことしかできなかった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ