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道の果ては 作者:花咲リナ
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序章

長編になるかと思いますが、完結まで頑張りたいと思います!よろしくお願いします。


――この世界に来て一年が経つ。

「クロカミ!!」
「はい」

大声で吐き出されたのは自分の呼称。返事をして、掃除をしていた部屋から廊下へ出ると、三つの人影が立ちはだかっていた。
険しい表情の女が仁王立ちする、その背後に口元を歪ませた少年と、眉間に皺を刻んだ老年の男が見える。

「あれはお前が割った物だろう」

女が指差す先には、無残にも割れて粉々になった陶磁器が散らばっていた。

――身に覚えがないのは、いつものこと。

「黙ってんじゃないよ!どうなんだってきいてるんだ」

いつも不思議に思う。なぜ毎回同じことを問うのだろうか。

「……申し訳ございません」
「っ謝れば済むと思っているのかい!?」

グイッと襟首を掴まれ、勢い良く引っ張られる。投げられるように突き飛ばされた先は、あの陶磁器の破片の上だった。
転がった拍子に皮膚が切れたのか、鈍くなった痛覚が刺激される。しかしその痛みに慣れる前に、次は背中を何かで強く打たれ、体は意図も容易く吹っ飛ぶ。
せり上がって来る空気に噎せながら、咄嗟に頭を庇う様に腕を伸ばす。

「こんの役立たずがっ!!」
「――ッ!」

尖った靴底で腕を蹴られ、感覚がなくなる。続けて腹を蹴られ、余りの痛みに声さえ出ずに蹲る。

「早くくたばれば良いものを……。生に執着する卑しい奴め」

女が吐き捨てた言葉に目を閉じる。続いて嗄れた男の声が降ってきた。

「……片付けておきなさい。この事はご主人様に報告させていただきます」

朦朧とする意識の中、去って行く足音と微かな嘲笑が聞こえた。



╋ ╋ ╋ ╋ ╋ ╋




一年前。気付けば見知らぬ土地で倒れていた。見回しても木ばかりで明かりはなく、とても暗かったのを憶えている。
目を覚まして早々、通りかかった男達に見つかり、抵抗する間もなく両手両足を縛られ馬車に放り込まれた。馬車の中には同じように自由を奪われた人々が押し込められていて、一様に暗い表情で俯いていた。
馬車に揺られ運ばれた先で、人間は競売にかけられていた。テレビで見たことがあるマグロの競り売りの様に、壇上の男が数字を叫び、それに怒声を上げて応える群衆。恐らく自分もこれから競売にかけられ、そして誰かに買われるのだろうと理解する。
そしていよいよ壇上に踏み出した商品を見て、群衆は難色を示した。あちらこちらから聞こえる呟き。

――なんだあの色は。
――黒髪……。おい、目も黒だぞ。
――信じられないな。どうせ偽物だろう。

結果、手を挙げたのはたったの一人だった。
伯爵、と呼ばれたその男に買われ、連れて来られたのは大きな屋敷。
伯爵は『お前は鑑賞用だ』と言った。『お前の様に髪も瞳も黒い人間など見たことがない』とも。
伯爵は変わり者で有名で、各地の"珍妙な物"を屋敷に飾って楽しむような人だと、何時だったか屋敷に訪れた客人が噂しているのを聞いた事がある。確かに、屋敷の廊下には見たことのない生き物の剥製が置いてあったり、自分と同じように外からやってくる者の中には、獣の尾が付いていたり、魚の鱗のような肌を持った者などがいた。
恐らく彼等も自分も、"珍妙なモノ"として伯爵のコレクションに加えられた、ということなのだ。
屋敷に来た当初は何かと伯爵に呼び出されては、執務室の隅にある椅子に座らされ、人形よろしく飾られていたが、暫くしてそういった事はなくなった。使用人が言うには『飽きられた』らしい。
同じく『飽きられた』コレクション達は、この屋敷から姿を消した。消息は不明だが、窓の外から馬車に乗せられて行くのを見たことがある。
いつかは自分もそうなるのかと思っていた時期もあったが、それから半年経っても未だにこの屋敷にいるのだから、不思議なものだ。
この一年間、屋敷から出たことはない。このままこの屋敷で死ぬまで働き続けるのだろうか。それとも――……。

まあ何にせよ、自分は今生きている。だったら死ぬまで生きるだけだ。

血の滲んだ肌を指でなぞり、陶磁器の破片が散らばる床を眺めながら、行き着いた結論に一人納得し、ゆっくりと立ち上がる。

――さて、まずは目先の仕事を片付けなければ。

何の代わり映えもなく過ぎて行く日々。
そんな日常がもうすぐ崩れようとしているなど、誰が予想できただろうか。

少なくとも、この時の自分は想像すらしていなかったのだ。


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