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逆ハーエンドのその後は

作者:黒湖クロコ
「……なんで?」

 現在、私は良く分からない状況に立たされている。
「何でじゃないだろ、ローズ・ロセット。お前が、アンズを苛めたからに決まっているだろうが?!」
 茶髪のちょっとチャラそうな男に怒鳴られるが、まったくもって記憶にない。そもそも――。
「アンズって誰?」
「しらばっくれるのもいい加減にした方がいいんじゃないか? お前がアンズを階段から突き落したり、靴を隠したなどの証言は得ているんだ」
 黒髪、眼鏡男にそう言われるが、身に覚えがなさ過ぎて、良く分からない。
 何が、どうして、こうなった?
「えっと……本当に良く分からないんですけど」
 男5人と女の子1人に囲まれながら、私は半泣きだ。
 突然放送で生徒会室に呼びだされたと思えば、いきなり生徒会の役員にぐるりと囲まれた。そして良く分からない事で責められるのだ。
 正直私が今苛められていると思う。

「先輩。それぐらいにしてあげて下さい。私は大丈夫ですから」
「ええっ。アンズ先輩、優しすぎますよ。自分が苛められたのに、庇うなんて。こういう奴って、また同じことしますって」
「俺はアンズが傷つくところを見たくない」
 たぶん1年生と思われるちょっと可愛らしい外見の男と、武道か何かしてますか? と聞きたくなるような体格のいい少し色黒の男が、アンズと思われる黒髪黒目小柄な少女の言葉に文句を言う。
 彼女は私のクラスメイトだ。あまり仲良くないので名前は知らなかったけれど、ミドリカワさんという名字と顔は知っている。高校では珍しい異国の転校生だったので、名字だけは覚えていた。
「こんな女、退学にするべきじゃないですか? ねー、アズール先輩」
 アズール先輩と呼ばれた人は、生徒会長だ。確か私と同級生。流石にそれぐらいは知っている。
 生徒会長に、退学にするとかの権限があるかどうか分からないけれど、今の空気なら本当にそうなってしまいそうで私は青ざめる。
 身に覚えのない苛めで退学処分。
 保身に走って悪いけれど、この先一体どうしたらいいのだろう。
 私が通っている学校は、この国でエリートコースまっしぐらな魔法学校。他の学校がないわけではないけれど、一流の魔法使いを目指すならここしかない。
 不安でガタガタと私は震えた。そもそも、男友達もほとんどいない私が、男の人に睨まれ一方的に喋られて怖くないはずがない。

「うぅっ」
「女って、困ったら泣けばいいと思ってるよな」
 チャラ男が追い打ちをかけるけれど、分からないのだ。怖くて怖くて仕方がない。
 泣いても責められる。かといって、私の話を誰か聞いてくれそうもないし、退学処分とか言われるし。どうしていいのか分からなくて、涙だけが出た。
「泣いたって、同情しないよ。アンズ先輩の方が傷ついてるんだから」
 同情して欲しいわけじゃない。どちらかというと悔し涙だ。
 真面目に毎日学校に通って勉強してきたのに、どうして私は話も聞いてもらえず一方的に責められなければいけないのだろう。
「もう二度と、私に対して嫌な事をしないなら、別に退学まではいいですから」
 その言葉で、私の胸はギュッと締め付けられた。アンズの一言で私の処分が決まるというのか。
 こんなの酷い。あんまりだ。
「もう嫌だ。そんなに言うなら、こっちから辞めてやる!!」
 ブチッ。
 私の堪忍袋の緒がその瞬間切れた。
 私はすばやく魔法を展開すると、そのまま自宅まで転移する。まだ午後の授業が残っているけれど、そんなの知らない。
 こんな状況で授業なんて聞いていられなかった。

「お、お嬢様?! どうなさいました?!」
 私が突然家に帰ってきた事で、メイドのミレーヌ慌てて私に声をかけた。
 べそべそ涙を流していた事も、彼女の心配を助長させたのだろう。でも、もう限界だった。
 私はその場で、ミレーヌに抱き付きわんわん泣いた。
 自分で辞めると言ってしまった事など、もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。そもそも、どうしてこんな風に周りから言われなければいけないのかも分からなくて、悔しさの逃がし場所が分からず、ひたすら泣いた。



◇◆◇◆◇◆



 もちろんあんなことがあったのだ。
 私は次の日から、登校拒否となった。
 折角のエリートコースもパーだ。学校に通わせてくれた両親にも申し訳なさ過ぎて泣けてきたが、事情を知ってか知らずか、親は特に登校拒否について何も言わなかった。
 メイドたちも主人に右ならえで、学校については何も言わない。
 逆にそれはそれで居心地が悪いのだけれど、それでもありがたくもあった。やっぱり、苛められて登校できないと自分から言うのは恥ずかしい。
「折角いい線いっていたのに」
 時折倒れてしまうぐらい猛勉強していたので、成績はかなり良かった方だ。魔力も両親に似て結構高い。ただどうしても小心者な為、教師から生徒会をやらないかと進められては居たけれど断っていた。
 でもあんな人たちが生徒会をやるぐらいなら、もう少し頑張ってみても良かったかもと思う。もう後の祭りだけれど。そもそも、私が生徒会の役員になった所であの話が通じない人達と意思疎通を図らなければならないなんて無理である。
 もう少し自分に社交性があればと思うけれど、そんなものがあったらこんな状態になってはいないだろう。

「そもそも、どうして私が、苛めの主犯だと思われてしまったんだろう」
 落ち着いて状況を整理してみたけれど、あの時はアンズ・ミドリカワの苛めを私がしていたという事で、生徒会のメンバーに断罪をされたという事しか分からない。
 でも、何で生徒会なのか。
 生徒会は、成績優秀者が基本選ばれ、生徒目線で学校を良くしていく場所だ。教師目線とはまた違う為、両者の意見を踏まえて最終的な決定が下される。
 だからやっぱり、生徒会だけでは生徒を退学処分などできないはずだ。だとしたらあの時の言葉は、決定事項ではなく、脅しのようなものだろう。そもそも不良などの生活態度に問題がある生徒は、生徒会ではなく教師が注意しているので、私がもしも苛めをしていたとしても、普通は生徒会に呼ばれたりなどしない。
「……もうどっちでもいいけど」
 終わってしまったのだ。私の学校生活は。

「良くはないだろう」
「……ギャッ――むぐむぐ」
「どっちでもいいと言うのは、通えなくてもいいという意味か?」
 ベッドの上で、ゴロゴロしている所に現れたのは、何様、俺様、生徒会長様だった。明らかな不法侵入である。
 叫ぼうとしたが、先に言葉を奪う風魔法を発動されてしまったようだ。口が縫い付けられたかのように動かない。
 マジ、怖い。
 何? 家まで押しかけて、まだ何かするつもりなのだろうか? 
 冷淡な青い瞳に見下ろされ、私はベッドの上で壁際まで逃げた。次は何をされるのだろうかと生徒会長を見上げる。座っている為、余計に生徒会長が大きく見える。

「すまない。怖がらせる気はなかったんだが」
 そんな戦々恐々している私の前で、生徒会長は膝をつくと頭を下げた。
 その動作に私は最初何が起こったか、理解できなかった。
 いや、怖がらせる気はないって、この状態で怖がらない女性は居ないと思うのだけれど。でもポーズがポーズな為、真面目に反省している様にも見える。
「君からの話をまだ聞いていない状態だったのに、勝手に生徒会のメンバーが突っ走ってしまった。もう一度君を呼ぼうにも、学校に来ていないと聞き、家を訪ねたが拒否されたので、直接話す為に部屋にお邪魔させてもらった」
 まくしたてる様に言われたけれど、家を訪ねてこられたとか聞いていない。
 どう言う事?
「むぐ?」
 言葉にしようとして、まだ言葉を奪われたままだった事を思い出す。

「叫ばないと約束してくれるなら、言葉を返すが?」
 私はとりあえずは叫ばないという意志表示をする為に首を縦に振った。この後、彼がやる事によっては、盛大に叫ぼうとは思うけれど、今すぐ叫ばなければいけないわけではないと判断する。
 もしも今すぐ叫ばなければいけないような乱暴な事をされるならば、今既に行われているはずだ。
 パチンという音が鳴った瞬間、縫い付けられたように開かなかった口が開いた。
「あっ」
「乱暴な真似をしてすまなかった。叫ばれてしまったら、次に忍び込むのが難しいと思ったものだから」
「あの、まず忍び込むという発想がいかがなものかと思うのですけど……」
 屋敷に忍び込むのは、ぶっちゃけ犯罪である。
「でもまずは君の話を聞かなければいけないと思ったから」
 ……そうなんだけど。私も聞いてもらいたいのだけど。でも、いや。うん。まあ、いいか。実際にもうここに居るのだし。

 色々頭が追い付かなくなってきて、私は考える事を放棄した。
 生徒会長が家を訪ねて来た事すら知らなかったという事は、うちの親が合わせないようにしているのだろう。親の説得からとなれば、親が仕事から帰ってきてからになる。そしてその説明は色々面倒な気がした。だとしたら、今話をしてしまうべきだ。
「私の話というか……私は、皆が言っていた事に対して、全く身に覚えがありません。苛めをした事もないですし、そもそもミドリカワさんとはクラスメイトですけど、それだけなので」
 身の潔白を証明したくても、すべてにおいて全く関わっていないのだ。彼女が何をやられたのか知らなければ、どのタイミングかも分からないので、証明しようがない。そもそも、やった事に対する証明よりもやってない事に対する証明の方が難しいのだ。例えば現代魔法なら、遠く離れた場所に居たとしても、転移魔法で往復すれば犯行は可能となり、対象が魔法使いとなると、絶対不可能という答えが中々出せない。
「となると、どちらかが嘘をついているという事になるな」
 さらっと、生徒会長はそんな答えを出した。でもきっと、私が疑われているんだろうなと思う。皆、ミドリカワさんが正しいと思ったからこそ、私はあの場で断罪されたのだ。
 きっと今頃、学校では私が苛めをして退学又は停学になっているという噂が流れている事だろう。そんな針のむしろのような場所にもう一度行けるかと言われれば、答えは否だ。
 だからこそ、今も処分がどうなっているか分からないけれど、部屋の中に引きこもっているのだ。

「いいです。私は嘘をついていませんが……もう、諦めました」
「諦めた?」
「だって、皆私が犯人だと思っているんですよね? 学校は辞めます」
 この状態で本当の犯人を捜して身の潔白を証明するなんて、メンタルがゼリー並みな私にはできない。そもそも白い目を向けられた中に飛び込む勇気がない。
 どうしてこうなってしまったのだろうと、ため息ばかりだ。
「皆とは?」
「は? えっと、学校の人全員?」
 止められるか、肯定されるかのどちらかの返事が返って来ると身構えたのに、何故か全然想像していなかった部分に対しての質問が返ってきた。

「だとしたら、それは違うな。まずアンズの意見を支持しているのは、俺を除いた4人だ。教師は現在事実確認中なのでアンズの案を支持しているわけではないな」
「でも……きっと、噂が流れてますよね?」
 噂は怖い。
 嘘でも真実でもどんどん広がる上に、内容はだんだん変容してしまう。違うのだと叫んでも広がってしまったものを消すのは時間がかかる。
「いや、流れていないな。あの後、教師以外の第三者に話した者は生徒会を辞めさせると魔法使いの制約をさせたから、あの話は生徒会室で止まっているはずだ。アンズは生徒会ではないが、話したら停学にするという制約を設けた。決定事項でも、正しい案件でもない話を流せば必ず混乱が生じる」
 制約って。
 魔法使いの制約は、必ず実行されるかなり厳しい魔法の一種だ。
「あの、反発があったんじゃ?」
 被害者である方は納得できないんじゃないだろうか? あの人達は、間違いなく私だと思っているわけなので。
「いや? 話し合って決めた事なので、反発はないと思うが?」
 ……それは本当に話し合いだったのだろうか?
 何だか、この生徒会長は結構押しが強い。ここまで単独で乗り込んできた辺り、行動力もある。制約を書かせた時点で、反発があったからとも取れるけれど深く追求するのは止めておいた。何だか掘り返すと面倒な気がする。

「えっと、生徒会長はどう思われているんですか?」
 そう言えばあの時何も話さなかったし、何を考えているのだろう?
「ロセットはやっていないと言っているが、俺はロセットという人物を良く知らない」
「……そうですね」
「しかしアンズは思いこみが激しすぎる。彼女は元々自分の意見を相手に押し付けがちだからな」
 生徒会長もミドリカワさんの味方かと思えば、そうでもなさそうだ。思いこみが激しいって……いやうん。現在そんな感じではあるけれど。でも思いこみが激しいのは、生徒会メンバー全員ではないだろうか?
「教師はロセットはやっていないと考えているようだ。理由は成績の部分が大きいだろう」
 おおおっ。先生ありがとう。
 真面目に授業に出て、勉強してきて良かったと思う。まあ、成績が理由なので、なんの根拠にもならなさそうなのが辛いけれど。

「というわけで、明日から俺と行動を共にしてもらう」
「……へ?」
 行動を共に?
 明日から?
「いやいやいやいや。私、学校に行かないですし」
「ならば、毎日この部屋に通う事になるが」
「通わないで下さい。というか、何で?」
「ローズ・ロセットの人となりをまずは知る必要があると考えた為だ。予想では、今回の苛めを誰がやったかというのは分からないだろう。だとしたら、君が嘘をつく人間かそうではないかを把握する必要がある。また俺が君と共に居て、アンズが苛められる事があれば、君は犯人ではないという事だ」
 何という無茶振り。
 基本的に勉強一筋なので、あまり詳しくは知らないけれど、生徒会長は確かすごくモテたはずだ。そんな人に付きまとわれるのはごめんである。監視役なら、もっと他に居るだろうと思う。
「えーっと、生徒会長は忙しいので大変では? それに人間は嘘をつく生き物なので、私だって嘘をつく時はあります。えっと、それに、模倣犯だって考えられるので、一緒に居た時にいじめが起こったとしても、私が犯人ではないという証拠にはならないのでは?」
 意味ないんじゃないか? というのを全面に出したお断り文句を私は伝える。

「勿論俺は生徒会長としての仕事がある。なのでロセットに合わせてもらう事になる。生徒会の話を断っているぐらいなので申し訳ないが、そこは了承して欲しい。嘘をつくとしても、人となりは行動を共にすればおのずと分かるはずだ。模倣は可能性としてありえるが、その代わり、その間に起こった苛めはロセットではないという事になる」
 うっ。断った事も知っていたのか。
 突然部屋の中に押し入るぐらいだから無計画かと思えば、一応下調べはしているようだ。そもそも、私の家を良く知っていたなと思うし、転移でここへ来たなら私の部屋の位置も把握済みという事になる。
 ……あれ? なんか悪寒が。
「では、明日からよろしく頼む。もしも学校に来なければ、再びここへ来よう」
「ちょっ。待って」
「それと、俺の事は生徒会長ではなくアズールで構わない」
 話を聞いて――。

 しかし唐突に現れた男は、これまた唐突に帰っていった。
 生徒会は、話を聞かなすぎる。そんな事を思ったけれど、それを伝えたい相手はもうここには居なかった。



◇◆◇◆◇◆



「……やだなぁ」
 学校近くまで転移して、足取りが重いまま私は進む。
 噂は流れていないと言っていたけれど、本当だろうか? 実はそう思っているだけで、学校に入った瞬間奇異の目で見られるのではないだろうか?
 嫌な予想というものはこれでもかというぐらいあふれ出て来るもので、学校が近づけば近づくほど押しつぶされそうになる。
 今日は学校へ行くと告げた両親は、さも普通に行ってらっしゃいと送りだしてくれた。ただ私を励ますかのように今日は仕事に出かける時間を遅らせていたのを知っている。何も聞かずにずっと待っていてくれた両親がありがたくて、生徒会長に言われるままではあったけれど、学校に行くという選択をしてよかったと思う。
 やっぱり、あまり情けない姿ばかり見せて心配をかけたくはない。

 それにどうしても耐えられなければ、もう一度引きこもってしまうというのもアリだ。とにかく今日だけは頑張る。
 そんな気分で行こうと思えば、重い足もなんとか動く。
「おはよう、ロセット」
「えっ。あっ。おはようございます」
 学校へ向かう坂を上っていると、タイミングよく生徒会長と一緒になった。この人って、いつもこの時間の登校だっただろうかと思うが、登校時に特に誰が居るかなんて気にしていないし、今までは挨拶をする仲でもなかったので、良く分からない。
「ちゃんと来てくれて良かった」
「……まあ、約束でしたので」
 一方的だけどね。
 でも多少強引でなければ、もう一度登校なんてできなかっただろうと思うので良かったのだろう。
「今日は昼休みに生徒会室で仕事をしながら食事をする」
「はぁ……そうですか」
 話す内容が特にないからなのか、生徒会長は今日の予定を教えてくれた。それにしても、休み時間も仕事をしなければいけないぐらい忙しいとは、生徒会なんてやっぱりやるべきものではないなと思う。
 生徒会長の話によると、放課後も仕事があるそうだ。何か行事がある時は、更に朝早く来たり、休みの日に買い出しなどを行ったりもするそうで、ぶっちゃけ学校の雑用係ではないかと思う。
 きらびやかに見えても、実情はそうだけとは限らないようだ。

「ではまた」
「はい」
 またとは、いつのタイミングだろう?
 やっぱり放課後に生徒会室へ呼ばれるのだろうかと思うと、気分が滅入る。前回の様に一方的に責められる事はないと思うけれど、でも針の筵の中に行く事には変わりない。
「おはよう!! ローズ、風邪治ったのね!」
「お、おはよう」
 教室に行けば、いつもと変わらぬ様子で友人が声をかけてくれた。
 そうか。私の休みは、一応風邪という事になっているのか。生徒会長が言った事はウソではなかったようで、その後も私に対する噂話をひそひそしている人は居なさそうだった。
 ただミドリカワさんだけが何か言いたげではあったけれど。でもそれだけで、アクションを起こしてくる事はない。制約が効いているか、生徒会長が怖いのだろう。普通なら前者のはずだけれど、私は意外に後者も可能性が高い気がしてならない。

 拍子抜けするぐらい普通に午前の授業が終わって、私は食事をする事にした。
 この分なら、休む前と同じように過ごしても問題なさそうだ。そう思い弁当を持って友人の席へ近づいた時だった。
「えっ。嘘」
「生徒会長様よ」
 突然教室中がざわめいた事で、私も彼らが見ているのと同じ廊下側を見ると、そこには朝別れた生徒会長が居た。確か昼は生徒会室で仕事をしながら食べるんじゃ――。
「アズール!! 私のクラスに来るなんて珍しいね? 私に何か用事?」
 ミドリカワさんが生徒会長の方へ寄っていく。
 生徒会長と面識が一番あるのはミドリカワさんだから、その光景は普通なのだけれど、周りの女子の顔がケッといったように歪んだ。
 そう言えば、あの人人気あるんだっけ。私の友人も生徒会長がカッコイイとかなんとか言っていたので、私も流石に生徒会長の顔ぐらいは覚えていたのだ。

「いや。今日はロセットを食事に誘う為に呼びに来た」
「えっ?」
 ミドリカワさんは、私の名前が出て来るだなんて思っても居なかったのだろう。ギョッとした顔をしている。ついでに言えば、その言葉を聞いた私もギョッとしている。
 えっ? 私も一緒に生徒会室飯ですか?
「朝も話した通り、今日は仕事をしなければいけない。早くして欲しい」
「あ、はい」
 ……マジで?
 そう思いつつも、有言実行で、私の部屋まで押し入ってしまうような相手だ。ここで断ったとしても、時間の無駄にしかならないだろう。私の人となりを観察するような事を言っていたしできれば合わせて欲しいと言っていたので、これもその一環に違いない。

 色々事を急ぐタイプなのかなと思いつつ、私はミドリカワさんをよけて廊下へ出る。
「では、いこう」
「分かりました」
 連行される犯罪者というほどの気分ではないけれど、生徒会長が目立つので、居心地は良くない。でも逃げても面倒そうだしなぁ。
 後から友人に色々聞かれそうだと思いつつも、私は生徒会長の後ろを追う。
 彼は生徒会室に着くと、ポケットから鍵を取りだして開けた。

「あの。生徒会長だけなんですか?」
「そうだが?」
 仕事だと言われたので、てっきり他の役員も居るのかと思えば、生徒会長だけらしい。生徒会長ってやっぱり大変なんだなと思いつつ、勧められた席に座って弁当を開く。
 昼休みはそれほど長いわけではないので、ちゃんと食べられるときに食べなければいけない。
 生徒会長も同じように弁当と取りだすと、サンドイッチにかぶりつきながら、書類に目を通し始めた。「もしかして、私が居るから、他の役員を呼べないんですか?」
 しばらく無言で食事をしていたけれど、ふと気になって私は尋ねた。
 あんなやり取りがあったのだから、私だけではなく相手も私の顔など見たくないだろう。もしも私の所為で一人で仕事をしなければいけなくなっているのだとしたら、本当に申し訳ない。
「いや。他の役員を呼ぶと、アンズも来るからな。そうすると、仕事の効率が下がる」
「……えっ。でも仕事ですよね?」
「あくまで、生徒会は学校ボランティアのようなものだ。仕事に対する強制力は弱いし、教師もそこまで生徒には求めていない」
「でも昼休みまで仕事をしているのは、やりすぎでは?」
 そこまで求めていは居ないというわりに、働いていると思うのは私だけだろうか? 
「これは遅れている部分を取り戻す為だ。本来ならもっと早く、クラブからの要望書に返答をしなければいけないのだが、アンズが来ると手より口が動いてしまう者が多くて仕事が滞っている。それにアンズの思いつきで、増えた仕事もあり追い付いていない状況なんだ」
「そうなんですね」
 ミドリカワさん、あの時も結構な発言力がありそうだったからなぁ。
 今思うと、あそこにいた人達は皆ミドリカワさんの味方というだけでなく、かなり強い好意を抱いていたのではないかと思う。彼女は別に理事長の関係者ではないし、生徒会のメンバーでもないので、それ以外で彼女の発言力が強くなるという事はないだろう。でも、それは公私混同ではないだろうか?

 その後生徒会長は黙々と仕事を続けたので、私も無言で弁当を食べていると、いつもより早く食べ終わってしまった。休み時間はまだあるから暇なのだけれど、生徒会長一人残して教室に帰るのは少々薄情な気がしてならない。
 かといって忙しそうなのに、話に花を咲かせようとすれば仕事の邪魔だろう。それでは、昼休みを割いてまで仕事をしている生徒会長に申し訳ない。
「あの」
「何だ?」
「ファイリングとか、紙を折るとか、私にもできそうな雑務があれば手伝いますよ?」
「生徒会役員ではないだろう?」
「あ、見ちゃいけない書類とかは回さないで欲しいんですけど」
 口が軽いつもりはないけれど、私が見た後に、生徒には内緒にして置いた事みたいな内容が流れて、また犯人に疑われるのは勘弁だ。
「いや。そうではなく、何の得もないと思うが? 手伝った事で、君が苛めをしていなかったとは判断できない」
「ああ。そういう意味でもなくて、やっぱり生徒会長が働いて居る隣で、のんびりお茶をすすっているのは辛いと言いますか……。ようは手持ち無沙汰なんです。別に見返りが欲しいわけではなくて」
「……なら、この書類をクラスごとに分けて三つ折りにしてくれないだろうか?」
「分かりました」
 私は書類を受け取ると、黙々と折る。
 こういう単純作業は心が落ち着くなぁと思いつつ、きっちり折っていく。しばらくすると、昼休みが終わる十分前のチャイムが鳴った。

「よし。終りっと。生徒会長、この書類はここに置いておいていいですか?」
「ああ。構わない。……早い上に綺麗に折ってあるな」
「手先は器用な方なんです」
 褒められれば悪い気はせず、私は笑った。誉めてまたやってもらおうという算段があるかもしれないけれど、手持無沙汰でここに居るよりは、仕事がある方がまだ精神的に楽だ。
「こういう仕事なら手伝いますから、言って下さい」
「ああ。放課後もやってくれると助かる」
 やっぱり放課後も来いよという事か。身の潔白を晴らす為だ。しばらくは諦めて生徒会室に通うしかなさそうである。
 空になった弁当箱を持って廊下に出ると、生徒会長が扉に鍵をかけた。
「ロセットも生徒会に入ってくれていれば良かったのに、何故教師に言われた時に断った?」
 教室に戻る為並んで廊下を歩いていると、生徒会長がそうたずねてきた。
「いや。そういう表立っての仕事は苦手なので」
「そうではない仕事の方が多いし、慣れだと思うが?」
 そうなんだろうけど、苦手なものは苦手なのだ。
「生徒会長はそうかもしれないですけど――」
「アズールだ」
「えっと」
「俺が生徒会長であるのは、一定時期だけだからな。途中で呼び名を変えるのも大変だろう。だから、アズールでいい。俺もローズと呼ばせてもらう」
 まあ生徒会長の事を名前で呼ぶなら、私の事も名前で呼んでもらうべきか。
「はあ」
「呼び名を途中で変えるのは大変だからな」
 ロセットという名字が変わるのなんて、私が結婚する頃ぐらいだから、全然先の話だと思うのだけど。
 まあ、いいか。拒否する必要もないと思い、私は頷いた。


◇◆◇◆◇◆


 しばらく生徒会に通ったのだけれど、分かったのは、アズール以外の生徒会役員は働かないなぁという事だ。
 いや。最低限はやっていると思う。思うけれど、ミドリカワさんがやって来ると、そっちを優先する。部活を実際に確認しなければいけないという状況でも、アンズと居る時間が減るとかなんとか、可笑しな理由を振りかざし駄々をこねていた。
 しかも、役員同士の仲も微妙な関係だ。ミドリカワさんに対して、皆恋愛感情があるようで、お互い足の引っ張り合いをしている。なら当のミドリカワさんは? というと、誰かが好きとかいう事もなく、皆大好きお友達路線をひた走っていた。
 気づいてないのか、気づいてもこの関係を壊したくないからと言う理由なのかは分からないけれど、結構酷いと思う。おかげで、役員達が日に日に疲れ壊れていっている気がしてならない。
 なんらかのアクションを彼らも起こすべきだろうけれど、彼女の気持ちを思ってという、何ともヘタレな感じでなあなあになっている。
 まあ、私事なので、百歩譲ってそれで彼らの学校生活に影がでてもいいのだけど、仕事をしないのはいただけない。
 もしも、私が生徒会のメンバーだったらキレていただろう。この状況でも怒らないアズールは、気が長い方ではないけれど、懐が広いなぁと思う。

「アズール、これ読み終わったならしまっておくけど?」
「悪い」
 昼休みと放課後、さらに休みの日も一緒に行動するようになり、彼の仕事も大分と分かるようになった。私がやってもいい仕事と、口出ししない方がよさそうな仕事も分かれば、自分で仕事を探すことも可能だ。
 ひとまず生徒会室の掃除などは確実に私がやってもいい仕事なので、書類の片づけがなければ、ちょこちょこ掃除をしている。
「アズール、ちょっとは休憩した方がいいと思うよ?」
 ミドリカワさんはそう言って、アズールの隣へやって来た。
 そしてさりげなく肩に手を置き、書類を覗き込む。結構顔の距離が近いが、アズールは眉ひとつ動かさない。それはそれでどうなんだろうと思うけれど、とりあえず指摘しても面倒そうなので放置している。もしかしてミドリカワさんはアズールが好きなのだろうかと思うぐらいにスキンシップが多いのだけど、その辺りアズールはどう思っているのか?
 ただ一つ私から言いたいのは、休憩は大切だけれど、アズールが休憩できなくしているのはミドリカワさん達の所為でもあるからねという事だ。かといって、彼女が居なければ居ないで、生徒会のメンバーがお通夜な状態になるので悪いのは、彼らの方かもしれない。

「いや。大丈夫だ」
「ならコーヒーぐらい入れようか?」
 でも実際、結構長時間デスクワークを続けているので、何か飲み物ぐらい飲むべきかもしれない。
「私今日変わった紅茶持ってきたから、一緒に飲もう? ね? アズールの事が心配なの」
 その言葉で、他の生徒会のメンバーの目がギラリとした気がする。ミドリカワさんは心の底から心配しているのかもしれないけれど、嫉妬している男の前では、貴方が特別なの的空気は止めた方がいいと思う。私の精神衛生の為にも。
「ローズ、すまないがコーヒーを頼む」
「了解。他に欲しい人はいる?」
「ええっ。折角持ってきたのに。何で?!」
 ミドリカワさんに、キッと睨みつけられて、私はどうしたものかと思う。何でと言われても、たぶん疲れているからこそ、眠気覚ましにコーヒーの方がアズールは飲みたいのだろう。
 実際休憩したくても、まだできないのだから。

「アンズ、俺はアンズの紅茶の方が飲みたいな」
「俺も」
「私もお願いします」
「勿論僕も」
 その他は皆、ミドリカワさんの紅茶が良いようだ。こぞって手を上げ自己主張している。
 だとすると、コーヒーは私とアズールの分だけでいいだろう。
「じゃあ、コーヒー入れて来るね」
「……ねえ。いつまで、生徒会に居るつもり?」
 嫌な空気に巻き込まれたくないので、コーヒーを入れようと動くと、いつもの可愛らしい声から、一オクターブぐらい低い声でミドリカワさんに言われた。
 いつまでと言われても……。
 私はどうしたものかと、アズールを見る。基本的に、私は私の身の潔白が証明されればそれでいいので、アズールの采配次第とも言える。

「アズールは優しいから、ロセットさんが孤立しないようにここに呼んでいるみたいだけど……私は貴方にされた事を忘れたわけじゃないの。悪いけれど、貴方が居ると気分が悪くなるわ。折角、皆で仲良くやってるのに、輪を乱さないでくれない?」
 皆で仲良くかぁ。
 確かに皆で仲良くではあるけれど……この状態はどうなんだろう。とても危うい関係に私には見える。まるで後宮のように異性をはべらかせているだけ――そんな悪口を私は最近教室で耳にしていた。その気があるのかないのか分からないけれど、実際友情以上の感情を持っているととても分かりやすい複数の男と四六時中一緒に居るなら、そういう表現をされても致し方がないようにも思う。
 でも永遠にそのままというわけにはいかないだろう。何処で落としどころを付けるのかは知らないけれど、中途半端な状態で仕事も半ば放棄し、ミドリカワさんの事を優先させ、学業もおろそかになりはじめている彼らは確実に周りから白い目で見られ始めていた。
 今まで周りの事なんて気にしてこなかった私が少し目を向けただけでそんな空気を感じとらされるのだから、結構危険なところまできているのではないだろうか? 元々生徒会は支持率も高かったはずなのに、今は結構アレな噂が多い。
「聞いているの?!」
「あ、ごめん。えっと、アズール、そういう事なんだけど、どうしよう?」
 確かに私は生徒会ではないし、ここに入り浸るのは本来間違っている。出て行けと言われたら出て行くが、それはミドリカワさんに言われたからというのは変な気がするのだ。

「わざわざ言いたくはなかったが、いい加減部外者は出て行ってもらえないだろうか? ここはお茶をする場所ではなく、生徒会の仕事をする場所だ」
「ほらっ!!」
 ミドリカワさんが勝ち誇ったかのように言ったけれど、色々今の言葉は私に向けただけにしてはおかしい気がするのだけど、彼女は気が付いていないようだ。アズールはそんなミドリカワさんを見て、ため息をついた。
「だから、アンズ。生徒会室に用もなく来る事を禁止させてもらう」
「アズールってばやっぱり――えっ?」
 ……だよね。
 部外者は私だけではなく、ミドリカワさんもだ。私は小さくため息をついた。何故、自分は特別だと思えたのか分からないけれど、生徒会メンバー以外がここで飲食をして遊んでいるというのはおかしな話なのだ。
「じゃあ私は帰るけど、明日の朝はどうしたらいい?」
 最近は、登校時間をわざわざ合わせるようにしていた。基本私の登校時間はアズールと同じなのだけど、仕事がどうしても終わらない時は早めるので、一緒に居る時間を取る為に私も合わせていた。
「いや。このままでは仕事が終わらないから、今日はここに残ってくれ。教師の方も来期の生徒会役員となる為の引継ぎをしていると伝えてある」
「は?」
「アズール、何言ってるの?!」
 本当に、何言ってるんだろう。
 私が生徒会? そんな話は聞いていない。

「勉強で忙しい事は知っているが、教師も是非にと言っていた。就職でも生徒会をやったという肩書があった方が有利になるから、悪い事ではないはずだ。それにここでしばらく一緒に仕事をしていたが、ローズでもできない内容ではなかっただろう?」
 いや。そうなんだけど。
「ロセットさんは、私を苛めた――」
「その件だが、調べた結果、ロセットではないだろうという事になった。特に階段から突き落とされたという件だが、その時間ロセットは勉強のし過ぎで体調不良となり、保健室で寝ていた事が分かっている」
「そんなの、転移すれば――」
「転移したらその場に居られないだろう。丁度その時間は保険医と担任、それに保護者が居たんだ」
 ……そうだったの?
 確かに体調不良で保健室に行った日があったなぁと思う。期末テストの勉強でちょっと無理をし過ぎたのだ。

「アンズは突き落とされたのかもしれないが、それをしたのはローズではない。その日俺も保険室を訪ねているから間違いない」
 ……ん?
 あれ? アズール、居たっけ?
 記憶にないけれど、あの日は保健室で爆睡していたので、その時に来た可能性が高い。高いけど……だったら、最初から私が犯人ではないと分かっていたんじゃ?
 人となり云々とかではなく、物理的に私が行うのは無理だと――。
「アンズは、誰がやったのか、犯人が見つけられなければ嫌か?」
「……大丈夫。犯人捜しはしたくないから」
 小さな声で、ミドリカワさんはそう言った。私としては気にならなくもないけれど、被害者がいいというなら、第三者がとやかくいう問題ではないだろう。
「ならいい。とにかく生徒会室からは出て行ってくれ」
「アズール先輩、アンズ先輩が可愛そうです」
「だったら、お前もついて行って、外でお茶をしてやれ。ただし、終わったら生徒会の仕事に戻れ。そうでなければ、生徒会から外れてもらう」
 キッパリと、アズールが言って、後輩の少年が怯んだ。
「アズール、それはないんじゃ――」
「生徒会顧問から苦言を言われているんだ。仕事をしないなら、もう一度生徒会の役員を決め直した方がいいと。歴代の生徒会役員が生徒会室を私物化していなかったわけではないが、最近の行動は目に余るという事だろう。幸い、ローズのように今回辞退した者の中に、十分生徒会の仕事をこなせる人材は居るからな」
 えっ。私?
 勝手に決めないでと思うが、既に決定事項の様に言われる。
「このままだと、生徒会が機能しなくなるのも時間の問題だ。私事を優先させるのも結構だが、その場合はちゃんと覚悟してもらいたい」
 えっ。ちょ。
 何だか、アズールにいいように使われていないだろうかと今更ながらに気が付きつつも、アズールがこのままでは可哀想だと思う程度に私は同情もしている。
 その為結局私は、アズールの思惑に流される事となったのだった。


◇◆◇◆◇◆



 その後、結局生徒会は入れ替えとなり、私は生徒会役員を請け負う事となった。
 生徒会長だけは残留で、アズールがそのまま引き継ぎ、他が総入れ替えだ。
 ミドリカワさんと、元生徒会役員がその後どうなったのか詮索する気もないのだけれど、結構な修羅場があったとかなかったとか噂に聞いた。でも所詮噂なので、どこまで正しいかは分からない。私としてはできれば二度と関わりたくなかったので、結局真相はどうなのか知らないまま卒業する事になった。
 まあ、あんな不安定な関係が学校卒業後も続けられるとは思わないし、壊れてしまうのは当たり前な気がする。結局、モテキが到来していたにもかかわらず、全員とお友達を貫こうとしたミドリカワさんは、現在もなお独身女性をしていると友人が楽しげに話してくれた。

 そして私は……いつの間にかアズールと付き合い、気がついたら結婚していた。人となりをみるだけのはずだったのに、もっと近くで見なければわからないとかなんとか言われているうちに、何故かこうなった。
 どうしてこうなった?
「あの日、断罪されてなかったら、こうならなかったのかしら?」
 あの断罪された日、ミドリカワさんは生徒会役員全員に心配され、愛され、一番素晴らしい状況だっただろう。ハーレム状態……いや、女性を男性が囲んでいるのだから、逆ハーレムと言う言葉が正しい状態だったのだ。そりゃ、うはうはだろう。
 そして私は人生最悪の日だった。
 でもあれがなければ、私はアズールと近づく事もなかったわけなので、その後がどうなるかなんて分からないものだ。
「あの日?」
 いつの間にか起きてきたアズールは、モーニングティーを飲む私の隣に座った。
「ほら、生徒会室で私が苛めたって疑われた日よ。それがなかったら、アズールと結婚なんてしなかっただろうなぁと。でもアズールはミドリカワさんの事、結局好きじゃなかったの?」
 私で良かったのだろうか?
 ミドリカワさんの態度を思い返すと、実はアズールが好きだったのではないかという気がしなくもない。でもちゃんと伝えなかったミドリカワさんが悪いとは思うので、この立場を今更変わる気はないけれど。

「俺が好きなのは、ずっとローズだからな」
「今はそうでしょうけど、あの断罪の日は?」
「ローズ一筋だ」
 私は適当な事を言う旦那に、ため息をつく。嬉しいは嬉しいけれど、あの時私はアズールと面識はなかったはずだ。
「ずっと、ローズだけ見ていたさ。だから、アンズが何を言ってきても惑わされなかった」
「またまた」
「まあ片思いだったから、ローズを見守るしかできなかったが」
 片思い? ……見守るって。
 いや。でも。待てよ。
 断罪の後、アズールは私の部屋へやって来た。家の住所は担任から聞けば分かると思うけれど、何故部屋の場所を知っていたのか。
 その後すぐに、朝の登校も重なったけれど、今思うと偶然だったのだろうか? 私のクラスは、まあ知っていてもおかしくないけれど……でも何故私の成績を知っていて、なおかつ生徒会に誘われていた事もどうして知っていたのか。
 あの短時間で本当に調べられるものだろうか?

「同じ生徒会で働けると思い生徒会長を引き受けたが、ローズは生徒会に入らなかったからな。あれは結構ショックだった」
「……ねえ、アズール」
「なんだ?」
 綺麗な顔をした旦那は、特におかしなことを暴露したつもりはないらしい。
 もしかして、いやまさか。でも今の話を踏まえて色々考えると、まるでストーカーされていた様な感じがしてしまうのだ。
「私が保健室に居た時に、偶然私を見かけたのよね?」
「いや、ローズが倒れたと聞いたから、様子を見に行っただけだが?」
 ……その頃、私はアズールの事を生徒会長だとしか知らなかった。
 それなのに、勝手にお見舞いに来て、特に話さず、寝顔を確認していったという事は……やっぱりガチではないだろうか。
 というか、私が犯人ではない事をやっぱり最初から知っていたのだ。わざわざ私を見に来ていたなら、アンズを突き落した犯人ではないと気がつくのが遅すぎる。
 というか、アズールって、何処から仕組んでいたのかしら?
 私はやられたと深くため息をつく。

 まあ、今が幸せならいいか。

 深く考えたって仕方がないし、なるようになったのだ。幸い特に今はストーカー被害は感じていないわけだし。
 それにあの日アズールが部屋までやって来てくれて良かったと思う。
「ありがとう」
 この時間をくれた彼に、私は感謝した。

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