2000年後に魔王が復活するそうです
今から2000年前。
この世界には、魔王がいました。魔王は世界征服をしようとしましたが、後一歩で勇者に負け倒されました。
その時魔王は勇者に呪いの言葉を吐きました。
「私は何度でも蘇る。2000年後に、私は勇者の魂を持った者の前にあらわれよう」と。
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2000年後て何だよ。そんなの俺が覚えているわけないだろ。というか、前世の俺は別に今の俺とは何ら関わりないと思うんだけど。
そんな事を思いながら、フラッシュがたかれる中で俺は遠い眼差しをした。確かにこれは超迷惑な呪いだと。
「勇者様、今度こそ魔王に勝てる見込みはあるのでしょうか?」
「あー……善処します」
「ダンジョンの攻略はどの程度進んでいるのでしょうか」
「前向きに取り組んでおります」
「伝説の剣はもう取り戻しましたか?!」
「現在調査中です」
カシャカシャカシャ。
この記者達は俺の目を潰すつもりだろうか。そしてこの適当な、まるで政治家のような受け答えなのに、誰もツッコミを入れないのもいいのだろうか。
まったくもって、遺憾の意だ。
そんな事を思いながら、記者会見の時間が終わり、俺は退出した。
そしてまっすぐに家まで帰る。学生の身分なので、電車を使うのが普通なのだが、最近有名人になってしまったので、記者会見の後だけは、テレビ局のお金でタクシーを使っていた。
魔王とか勇者とかそんな古代語のような単語が飛び交っているが、ここは現代。魔王や勇者が活躍した中世の時代から、ざっと2000年経っている。だから、実のところを言うと、伝説の剣と言われてもピンとこない。
だって剣を使うより、マシンガンとか、大砲とか、ミサイルとかの方が強いと思うのだ。
でもそんな攻撃をしないのは、今の魔王復活や選ばれし勇者というのが、ただの娯楽の一貫であるからにほかならないと俺は思っている。
だって、タクシーの窓から外を見るが、とにかく平和だ。
家の前で止まったタクシーから降りた俺はそのまま隣の家に行った。
「こんにちはー」
俺は挨拶もそこそこに中へ入り2階へ向かう。
目指す場所は――。
「真緒、どうするんだよ」
俺がバンとドアを開けると、真緒は中でパソコンに向かっていた。そして俺に気が付いたようで椅子ごとクルリと振り向く。
「ああ。帰ってきたんだ。おかえり~」
「お帰りってなぁ。一応、お前、魔王だろうが」
俺はゆるーい雰囲気を醸し出す幼馴染みにがくっとくる。……一応、この幼馴染の真緒が、今世間で騒がれている魔王の生まれかわり――らしい。
らしいとなってしまうのは、真緒を見ていると、まったく恐怖も何も感じないからだ。お前、現代に馴染みすぎレベルだ。
「確かに魔王の記憶は蘇ったけどさ、元々僕は現代っ子、若干引きこもり気味、インテリ学生なんだよ。今更『ふははは、さあ勇者戦おう』なんてなるわけないじゃん。というか、喧嘩とか無理だし」
「インテリっていうか、お前はただのオタクだろうが」
そう。魔王の転生先は、パソコン完備な家だった為に、残念な事に格闘とかではなくオタクに舵を切った成長を遂げてしまっていた。2000年前の魔王もこんな風になるとは思ってもいなかっただろう。
「ふっ。馬鹿め。オタクは僕の褒め言葉だよ、JK」
「馬鹿はお前だ。どうするんだよ。俺は、お前を倒すとか、マジで嫌だからな」
とてつもない馬鹿だけど、これでも俺の幼馴染なのだ。そして、俺もまた現代っ子として生きているので、人殺しなんて御免だ。
「だから、世間が飽きるまで、簡単に倒されないように、魔王スキルでダンジョンを作っているじゃないか。しかも、結が日照権が云々とか煩いから地下に作ったんだぞ」
「当たり前だ。何が悲しくて、家の隣にできたダンジョンの所為で俺の家が日陰にならないといけないんだ。電気代は上がってるし。洗濯物が日陰とか嫌だから。それにいまどきの市民は怖いぞ。日照権巡って、大人数で路上に座り込むんだからな」
真緒は魔王に目覚めて、ダンジョンというものを作る能力を手に入れた。ダンジョンは魔物がわんさかいて、中で退治をしていくうちに格闘スキルを上げる事ができる建物だ。
でも自分家の隣にダンジョンができたら、とにかく邪魔である。
「でも、タワーとかって、絶対いい観光名物になると思うんだよね。ほら、100年後には魔王が建てたダンジョンとかいって、観光客が押し寄せて来るかも。結の子孫も魔王饅頭とか販売できるかもよ」
「いくらなんでも家の隣が観光客であふれたら邪魔だし、観光客がダンジョン廻れるわけないだろ。今でも冒険者が迷い込んで迷惑してるのに。そもそも来年の事を言っても鬼が笑うのに、100年後の事なんて語るな。気が長すぎなんだよ。大体転生するまでに2000年って、何やってたのってレベルだし」
「そんな死んだからってすぐに人型に生まれ変わるとは限らないだろ。哺乳類ならまだしも、ゴキブリとかに生まれて、『ふははは、さあ勇者戦おう』とか言っても、殺虫剤でいちころだよ? 殺虫剤が伝説の殺虫剤扱いされちゃうだけだよ。それに冒険者が紛れ込むからこそ、結の家の隣なんだって。救難信号が出たら、結なら助けに行けるし」
「だから迷惑してるての。俺は軍人でも何でもない、しがない学生なんだよ」
何が悲しくて、レベルが足りないのに、ダンジョンに来てしまったおまぬけを毎度助けに行かないといけないのか。これで定期試験で赤点だったら、本気で嫌がらせだ。
「何言ってるんだい。ワイドショーに記者会見。結は、お茶の間の勇者じゃないか。僕もさっきまで動画サイトで勇者記者会見の生放送を見ていたから。結構話すの上手くなってきたんじゃない?」
「本当に、勇者の情報が魔王に筒抜けとかどうなんだろ」
「それを言うなら、魔王の根城に勇者が毎日来ている状況もどうなんだって話だけどね」
それもそうだ。
でも真緒が隣の家に住んでいるのだから仕方がない。それに今後の事をちゃんと話して対策をたてないと、俺は真緒を倒さないといけなくなるのだ。
「だから、とにかく、俺がお前を倒さなくても済むように対策考えないといけないんだよ。ダンジョンも1フロアーづつゆっくりと回っているけどさ」
「だから、結構こだわって作ってるんだよね。この間の氷の氷像とか凄かったでしょ? やっぱり、誰かがみてくれると思うと、こうオタク魂が疼いて、細部まで丁寧な造りにしたくなるというか」
「明らかに真緒の趣味全開だもんな」
確かにダンジョンは魔物だけでなく、建物にもこだわりがあるようだった。あえて謎解きまで加えてみたりと、楽しんで作ってそうだ。いいのか、それで。
「なあ、本当に前世のお前。何で世界征服しちゃおうなんて思ったわけ?」
そんな事実がなければ平和だったのに。
「ぶっちゃけ暇だったのと、何か寂しいし、奉られたいな的な? それと世界征服って男のロマンだよな感じもあったし。最終的には、勇者が構ってくれるからやってた感じも……」
「うわっ。ウザッ。何その、寂しんぼう」
「僕の前世なんだから、言ってあげるなよ。あれで結構勇者の事気にいってたんだって。だから、また勇者の近くに生まれ変わる宣言までしちゃったわけだし。ただ、完璧中二病は患っていたけど」
そうか。2000年前も中二病は存在したのか。中学校はないけれど。
「というか、勇者と魔王が仲良くなりましたオチに持っていけば、魔王も倒されずに済んだんじゃないか?」
「来世の僕が言うのもなんだけど、結構面倒な性格してるからね。流行りのツンデレっぽいし。結の前世もにぶちんだったから、魔王のデレに気が付いた気がしないんだよね」
「魔王って友達もいなかったんだな……うわっ。可哀想」
面倒な性格だったかもしれないけれど、前世の勇者も少しは読み取ってやれよ。いや、剣を向け合っている仲で好意を読み取るのは至難の業かもしれないけれど。
「まあ、でも。今回は比較的穏やかな時代に生まれ変われたわけだし、僕もパソコンがあれば寂しくないし、ちょうど良かったんじゃない? 後はのらりくらりしてれば」
「パソコンが友達発言は寂しいから止めろ。ボールが友達とは意味が違うから」
後者はスポーツ少年で華やかなのに対し、前者はただのオタク。しかも引きこもり系でニートに片足を突っ込んでいそうで可哀想な子だ。
「そう? でも、結もこうやって頻繁に遊びに来てくれるしね。案外、今世の魔王ライフも悪くないよ」
「遊びじゃなくて、作戦会議」
本当に、もう少し心配になれよ。勇者である、俺の方が心配になるってどういう状況だよ。
「作戦会議ならさ、結が魔王を誘惑ってオチもありだと思うけど?」
「何そのエロゲーエンド」
「いや、最近ネットで結構そう言う書き込みがあるんだよね。……BLだけど」
「BL?」
何だそれ? 何か英語の単語っぽいけれど、思い浮かばない。
「結はそのまま純粋でいて欲しいかな。とりあえず、結がちゃんと女の恰好して世間に出れば、そのネタはなくなると思うよ」
「絶対ヤダ。何あの、女勇者のコスチューム。露出多すぎだし」
「後は言葉遣いも。結が俺、俺、言っているから、皆オレオレ詐欺に引っかかっちゃてるしね」
「詐欺じゃなくて、昔から俺っていってるじゃん」
今更、俺が女らしくとか無理だ。
学校も私服だからみんな勘違いしてしまっているけれど。
「ま、いいけどね。その方が安全だし」
「真緒のダンジョンでレベル上げしてるから、たぶん今の俺はかなり強いよ?」
女だとバレて、襲われても返り討ちにする自信はある。
「とにかく、もう少し様子を見よう。そうしたら、この茶番劇を終われるかもしれないし」
「本当に真緒って気が長いよな」
まあそんな真緒だから、俺も争わずに幼馴染をやってられるんだけど。
「僕もそう思う。2000年越しだしね」
そう言って、真緒は苦笑いをした。