アルカナの使者は問う
「選ばれし者よ汝が意味を」
アルカナに選ばれし者、 答えていわく――
「ジャッジメント(審判をする者)・・・・・・世界でただ一人の審判を下す者」
「ひゃっはぁあっ!! 皆殺しだぁっ!!」
特にこれといって目立つところのない山村。
その平和を破ろうとする不穏な声が響く、 声を号令とした山賊たちが曲刀を片手に山村へと突入していく。
人里はなれた山村。 当然村人たちは突然のことに驚き、 恐ろしい事実に震えることとなった。
「賊だぁー! 皆逃げ・・・・・・ぐぁあっ!!」
村の入り口に近いところで立っていた男が皆へと呼びかけるが、 言葉半ばに山賊の一人に刺された。
悲鳴が上がり、 山賊たちは歓喜する。 醜悪に笑う山賊たちは村人を淘汰していく。
人里を離れた山村に助けはほぼ皆無だった。 村人たちはそれでも逃げ、 惑い、 走り、 家の中へ隠れ、 外へと走っていく。
しかし相手は山を専門とする男たちだ、 逃げられるはずもない、 ただ冥府の渡し守、 カロンに渡し賃を渡す時間が延びただけだった。
「マギ!!」
フードをかぶったマギを母親が引っ張っていく、 逃げ込もうとしている先は教会、 この山村で唯一のより場とされる場所へ、 あと1歩のところで小女を引っ張る手から力が抜けた。
マギは見た――。
目の前で首がなくなった母親を、 そして恐怖心に突き動かされるままに教会へと入り込む、 そこへ行けばなんとかなると信じきっての行動だった。
「どこ行くんだい、 お嬢ちゃん?」
ただ、 少女は神に気に入られなかったようだ。
先回りしていた山賊が死体という名の椅子からおりてマギの背後に回った。 目も当てられない参上にマギはフード越しに息を呑む、 山賊がマギの首に刃を軽く触れさせる。
このまま力を込めればマギはいとも簡単に殺されてしまうという暗示。
――ここにいたほかの人たちは? マギはゆっくりと教会を見渡す。 教会にいるのは息をしない村人たちに、 山賊とマギ。
恐ろしさにかたかたと震えだしたマギを見て山賊は舌なめずりする
「おとなしくしてれればお嬢ちゃんくらい助けてあげるよ、 高値で売れるだろうしなぁ?」
山賊が下卑た笑い声を立てる、 マギは言葉の意味を理解していなくとも拒絶するかのように首を振り、 耳を塞ごうとした時。 声が、 響いた。
「助けはいるか?」
声は青年くらいの男の声。 山賊とマギは声のするほうへと向く、 十字架の前に立っていた青年の端整な顔立ちはこのあたりでは珍しい漆黒の髪で飾られ、 全身に闇のごとく黒いロングコートを羽織り、 おかしなことに美貌とも称されるそれを隠すかのように唯一露出している手も黒い手袋で覆われていた。
青年はややってもう一度口を開く。
「助けはいるか?」
「なんだぁ? お前は?!」
曲刀をマギからはずし、 青年を示せば青年は、 言葉が聞こえなかったかのように軽く流した。
「さぁな、 おいそこの、 助けはいるか?」
問われた本人は再度首に当てられた刃をそろそろとよけながら軽く頷く、 それを肯定ととった青年は聞いただけで何もしない、 拍子抜けだ、 とばかりに山賊はマギの首に当てた曲刀に力を込めた。
「ひゃははっ、 何にもしねぇで何を言って・・・・・・ひぃいっ?!」
下卑た笑みを浮かべた山賊、 しかし曲刀を持つ右腕に手は、 ない。
いきなりのことで驚いているマギが何かをしたわけではない、 だからといって微動だにしない青年が何かしたわけでもなさそうに見えた。 が、 マギは青年の手に黒塗りの分厚い本が現れていることに気付いた。
あの本が何かしたのだろうか――? マギは仮定を打ち立ててみたが、 見れば見るほどただの本にしか思えず、 考えることをやめた。
また青年が口を開く。
「さて、 山賊、 何故ここに来た?」
いつの間にか山賊の背後に回りこんでいた青年が問う、 しかし山賊はうわごとのように腕が、 腕が、 と繰り返すだけで到底青年の問いに答えられる状態ではなかった。
青年は、 山賊に聞くのは無駄だと早々に悟り、 しゃがんでマギの顔を見る、 そこでマギはやっと青年の顔をしっかりととらえることができた。
右目は血のように赤く、 左目は対照的に空のように青く澄み切った色をしている、 マギは青年の瞳に吸い込まれるかのように手を伸ばしていた。
「やめろ、 触らない方がいい」
青年はマギの手をさけ、 少し離れてから話しかけてくる。 それだけ瞳を触られるのが嫌だったようで、 マギは下手に触るまいと手を下げた。
「お前、 親は?」
マギが首を振る。 言葉を使わないマギに青年が聞く。
「話せない、 のか?」
こくりとマギが頷く、 話さない理由を理解した青年がまた質問をしようとした瞬間に聖堂の扉が乱暴に開かれる。
安心していたマギはまた山賊が入ってきたのかと思い、 怯えるが青年は聖堂に入ってきた人物が誰かと知るとすぐさま睨みつけた。
「少しは静かにしろ、 力馬鹿」
「んだと?! ふざけるなグラウディア!」
青年――グラウディアは金髪で、 白銀のハーフコートを着たとても目立つ青年を見た。
グラウディアはいきりたつ青年を見て鼻で笑い飛ばした。
「てめぇっ!!」
「黙れ、 レグ」
グラウディアと正反対にうるさいレグルスは、 黙るどころかマギの姿を見つけると近き、 目線を合わせてにかっと笑った。
そのときのレグルスにグラウディアを見るときのような怒りはない。
「始めまして、 俺の名前はレグルス、 よろしくな!」
元気溌剌と言った様子のレグルスはマギの方に手を出してきた。
どうやら握手を求めているらしいと数秒たってから理解したマギは、 おずおずと手を差し出す。 レグルスはさらに笑みを深くしてマギを抱きしめた。
いきなりのことで驚くマギをよそにレグルスは言う。
「お前、 かわいいなぁ、 そこのしかめっ面野郎とは大違いだ」
「誰がしかめっ面野郎だ、 マギその愚か者から離れろ」
手に持った分厚い本の背を手で触り、 威力を確かめるようにしてグラウディアが忠告する。
「黙れ、 マギはあんな無愛想より俺のほうがいいよな?」
グラウディアとレグルスに板ばさみにされ、 おろおろと首を振るマギだったがおかしなことに気がついた。 自分が名前を言っていないということを――。
不自然な点に気付いたマギはレグルスから離れる、 グラウディアから距離をとることも忘れない、 いきなり怯えた目で見られたレグルスは自分たちの失敗を悟ったようで、 仕方なくグラウディアの方を向いて言った。
「失敗したな、 説明よろしく」
「ふざけるな」
一刀のもとに斬って捨てられたレグルスはわざと泣くふりをしたが、 グラウディアが早くしろと言うように、 再度手に持った本の威力を試さんばかりに振るので、 マギのほうを向いく。
レグルスは、 先ほどの元気な表情ではなくどこか子供を慰めるかのような優しい顔をして話し出した。
「俺たちは君を迎えに来たんだ、 マギ、 三賢者を従えるべき者として、 俺らの組織は君の力が必要なんだ、 そのためにここに来たんだけど・・・・・・君が生きていてよかった。 と言いたいところなんだけどこの状態だと、 な? 俺たちがここの村人をしっかりと弔ってあげるから君もここにいないで俺らと一緒に来てくれないかな?」
できるだけ優しく言ってみたつもりだがマギは頷かない、 それどころかどこか考え込むような顔をする、 どうしよう、 とばかりにグラウディアのほうを向いたレグルスに、 呆れた根性だとばかりに溜め息をつくと口を開く。
「マギ、 お前は元から俺たちの組織から目をつけられていた。 そしていつかは俺たちではない他の誰かが迎えに来るはずだった。 しかしそれはお前の覚醒を待ってからだったんだ、 しかし俺たちはここにいる、 どうしてだと思う?」
「おい、 グラウディア!!」
グラウディアの説明を聞いていたレグルスの声が咎めるように響く、 しかしグラウディアは言葉を続ける。
「それはお前が話せないことにより他の組織から“処分”されることを防ぐためだ」
「っ・・・・・・っ?!」
“処分”という言葉の意味することをなんとなくでもわかってしまったマギは、 声にならない叫びを上げてうつむく、 軽く肩が震えていることから彼女が泣いていることをわからせた。
それを見たレグルスがグラウディアの胸倉をつかむ、 だが胸倉をつかまれた本人は、 そんなこと気にしないとでも言うように冷めた瞳で彼を見下ろしてさらに現実を叩きつけるように言葉を紡ぐ。
「話せない、 ということは力も半分以下、 いや、 ほとんど皆無と言っていいだろう、 しかし俺たちの組織はお前が欲しいらしい、 来なければ野垂れ死に、 来てもまともな死に方はしないだろう」
「お前、 やめろ、 本気でキレるぞ?!」
本気で怒っているレグルスから闘気ともとれるオーラがあふれ出す。
「“力”が“審判”に勝てるとでも?」
「あぁ勝てるさ! 正しいことのための“力”ならな!!」
レグルスの手がグラウディアの首を絞めるように力を込めていく、 さすがにこれでは呼吸が苦しくなっていくはずなのだが、 グラウディアは顔色一つ、 呼吸一つ乱さずにレグルスを見てまた、 溜め息をついた。
そして何か呪文めいた言葉を唱えた。
「動くな、 止まれ」
たった二言の言葉、 それがレグルスが身動きをできなくした。
絶対に動かないと見たグラウディアは、 レグルスの手からいとも簡単に抜け出すと再度マギと顔をあわせた。
きっとグラウディアはマギに優しい言葉をかけないだろう、 それをわかっていたマギは助けを求めるような顔をせず、 真正面からグラウディアと向き合う、 決意のこもった瞳にグラウディアは軽く目を瞠る。
「強いな、 お前・・・・・・来い、 そうすれば俺たちは他の敵からお前を守ってやる、 それにお前自身ここで死ぬわけにもいかないだろう?」
グラウディアなりの言葉、 マギは外についてもあまり知らない、 世界を知らない、 ならば知りたいと思うのも若いゆえの好奇心というものだろう、 マギは先ほどのようにあまり悩まずに頷いた。
やっと肯定を示したマギにグラウディアはふっと優しい顔をした。 それが微笑んでいるのだと気づくのに時間がかかったがマギは、 その微笑がなぜかとても懐かしいような感じがして、 涙がこぼれた。
冷たい言葉をかけるかと思われたグラウディアは、 そんなマギの頭を軽くなでてやる、 マギは余計に涙をとめることができず涙が枯れてしまうのではないくらい泣いた。
そして次の日、 約束どおり村人を弔うと言ったグラウディアが村の出口から少し離れたところで分厚い本をめくる、
「寄る辺なき魂たちよ我が名において審判を下す。 すべて天へと還るがいい」
グラウディアの言葉が言い終わると同時に村人たちが淡く光だし、 そして完璧なる光になったものから天へと昇っていった。
それを眺めたマギはあまりの美しさに言葉を失い、 光がすべて消えるまでずっとそれを見ていた。
「・・・・・・・あぁ、 ご苦労様」
誰にともなく呟いたグラウディアは村を背に歩き出した。 それにマギもついて行く、 後ろにはレグルス。
一触即発の状態になるレグルスに、 黙々と歩いていながらも額には青筋が立っているグラウディアも、 それについていくことを決めたマギも、 今は振り向かず前へと歩いていく、 そして物語は始まった――。
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