バットマン「狗神 杉川村編」(7/29)PDFで表示縦書き表示RDF


過去の忌まわしい事件。全ての始まりはここからだった。
バットマン「狗神 杉川村編」
作:オリオン



鬼人走る!


杉川村
鬼人、走る


 昭和三十年頃の話だった。

 戦後復興の兆しが見え始めた頃、そんな事とは無縁の寒村に、豊雄(21)と言う若者がいた。


 彼は、村でも異質の存在だった。


 村人とすれ違っても、会話はおろか、挨拶すらしない。いや、正確には、してもらえない。

 何時もうつむいて、相手が通り過ぎるのを待っていた。


 彼が会話するのは、子供と極一部の人。 それに動物だけだった。

 土地持ちの家に生まれた彼は、働く事もせず、家の敷地内に建つ蔵で、一日中閉じこもっている事が多かった。
 

 そんな内向的な青年が、あんな事件を起こすとは、誰も予想していなかった。

 六月六日午後六時に、事件は決行された。

 豊雄は、蔵の中で、以前から用意していた道具を身に付けた。


 まず、詰め襟の学生服を着る。

 これは、黒い服が夕闇にまぎれるのに都合が良いからだった。

 その上から帯を巻いた。

 見た目は変だが仕方が無い。日本刀を差す都合が有ったから…。

 地下足袋を履き、ズボンの裾が邪魔にならないように布を巻いた。

 頭に手ぬぐいでハチマキをし、そこに懐中電灯を二本、左右に固定した。

 何だか奇抜な感じだが、そうでもない。この村の子供は、夜に牛ガエルを捕ったりする。

 懐中電灯で照らすと、カエルの目が光るから、そこをもりで突くのだ。

 その時、懐中電灯を手で持つと邪魔になるから、頭に固定する。


 今回、豊雄が獲物にするのはカエルでは無い。


 だから、首からもランタンのような明かりをぶら下げ、光量をアップした。


 下から照らされた青白い顔が、異様なほど不気味だった。


 彼は、この日のために購入しておいたM1カービン(自動式ライフル)を持つと、蔵を出た。

 豊雄は、まずは自宅に入り、居間でうたた寝をしていた祖母の首を切り落とした。

 人が首を切られると、一升もの血が溢れ出す。畳は血の海と化し、むせるような匂いが充満した。

 鮮血が飛び散り、豊雄も返り血を浴びる。

 惨殺された祖母は、眠っていたため、その顔は割と安らかだった。



 豊雄の家族は、この祖母だけだった。


 豊雄の凶行は、まだこれからだった。

 彼は、隣の家に押し入ると、いきなり銃をぶっ放した。


 隣の家は、家族四人。

 ちょうど、楽しい晩御飯の最中だった。


 当時の村では鍵をかける習慣が無かったので、侵入は簡単だった。

 まず、一家の家長、政夫(35)の胸にライフルの弾が当たった。


 政夫は、目を見開いたまま即死した。


 ちゃぶ台がひっくり返り、悲鳴が上がる。


 長男(10)は、障子を突き破って逃げようとした所を、背中から撃たれて前のめりに倒れた。



 助けてー!



 政夫の妻(30)は、声を限りに叫ぶが、隣の家までが遠い。

 多分、物音と言えば、銃声がかすかに聞こえた程度だろう。

 豊雄は、刀を抜くと、彼女を串刺しにした。
 母親の腕の中で泣いていた長女(12)も、一緒に刺し殺された。

 一家を皆殺しにした豊雄は、青白い顔で平静を保っていた。


 多少、息が上がっていたが、不気味なほど無表情だった。


 次に彼は、懐中電灯とランタンを点け、電柱に登った。
 ここから先は、わりと一軒一軒の間が近い。


 電線を切断して暗闇にして、混乱している間に村人を襲うつもりだった。


 奇怪な黒いイモムシのように、豊雄は電柱に登った。

 なぜ、一心不乱にこんな事をするのか?全く理解し難かった。


“悪霊に取り憑かれている”


 それ以外の形容詞が当てはまらない。 



この部分は、過去に実際に起きた事件、津山事件を元にしています。












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