バットマン「狗神 杉川村編」(6/29)PDFで表示縦書き表示RDF


バットマンvs真弓!闘いの行方は?
バットマン「狗神 杉川村編」
作:オリオン



バットマン4ー3


 
 あれから五年…。


 風俗の仕事は好きになれなかったが、優は頑張っていた。
 
 彼はとても優しい。


 ただし、優が黙って金を渡す限り…。


 それに、最近はあまり働いている様子が無い。それどころか、帰って来ない事も多かった。

 不安ばかりが募る中、母親に裏切られた記憶が蘇る。


 もう、あんな思いはしたくなかった。


 今の彼は、あの母親のように自分を裏切るに違いない。

 絶望が現実になる前に、優は全てから解放されたかった。
 

“バットマン”のホームページ…。
 

 最後に、彼女から人を信じる事を奪った母親に、復讐したかった。

 いや、自分の悲しみを理解させたかったのかも知れない。

 優は、手首を切った。


「お母さん、ごめんね。私も行くから…」



 睡眠薬を飲み、手首を切った優は、危うい所で一命を取り留めた。




 長い長い眠りから、優は戻って来た。


 まるで、自分のこれまでの歩みを振り返ったような気がした。

 軽い脱力感があるが、不思議と心が軽くなった気がする。


 目の前には、美人の看護士さんがいた。

 彼女は、大きな目を見開いて、優をただ見つめていた。

 優は、自分が今まで何をしていたのか思い出せなかった。

「あの…」

 看護士さんに何か聞こうとしたのだが、言葉を失ってしまう。


 何故なら、看護士さんが涙を流していたからだった。


 その理由が解らずに、優は戸惑っていた。

 だが、誰かが自分のために泣いてくれる。

 それだけで嬉しかった。

 看護士さんは、優を強く抱き締めた。


 温もりが、優には懐かしく感じていた。
 








被害者その6

 優の母親、青山富子は、細い小道を歩いていた。

 彼女は、五年前と変わらず、優と暮らしていたアパートに住んでいた。
 

 あれから、但馬には逃げられていた。

 やはり、あの男は優が目的だったようだ。

 もちろん、借金も清算している。

 富子は、三百万をサラ金で借りさせられていた。


 借金をした上に、男には逃げられ、娘は家出したきりで音信不通。


 三重苦の彼女は、それが自業自得とは言え、疲れ切った表情をしていた。


 夜の11時

 スナックを手放し、今では皿洗いの仕事をしていた。

 所々で街灯が灯る小道は、彼女の先行きを思わせるように、とても寂しく感じた。



“自分にも、他の選択肢があったはず”



 思い出したようにこう想うが、今となってはどうでもいい気もした。 

 ふと、街灯の下に人影があるのに気が付いた。


 背が高く、スタイルの良い女性だった。
 

 彼女は、ローライズのジーンズにピンクのTシャツ。

 腰には、鋲を打った太いベルトを巻いていた。

 目鼻立ちはハッキリしていて、夜目でも解るくらいの白い肌をしている。


 彼女は、左手を前に突き出した。

 すると、左手には何時の間にか、光る弓が握られていた。


 あまりに非現実的な出来事に、富子はキョトンとしていた。


 目の前の女性は、今度は右手から光る矢を発生させた。

 矢を弓につがえ、引き絞る。


 富子は、恐怖を感じていたが、あまりに突然な出来事に、体が固まってしまった。


 逃げるどころか、声すら出ない。


 矢は、富子に向かって放たれた!

 富子は、有り得ないほど怖い顔で、飛来する矢を見つめていた。


 だが、矢は富子に命中する事は無かった。


 当たる寸前で軌道を変え、富子の背後に迫っていた何者かに命中した。


「グワ〜ッ!」


 闇夜を引き裂く彷徨!

 富子の背後でバットを振り上げていた黒い影の額に、矢は突き刺さっていた。


 富子は、その場でへたり込むと、腰を抜かした。

 バットマンは、そのまま消滅した。
 
 まるで、今の出来事が夢だったかのように、夜の静寂が戻る。

 青い顔で虚空を眺めている富子に、矢を放った女性が近付いた。


「誰がバットマンに頼んだか、解るかい?」


 富子は、その問いかけに反応しなかった。


 富子の返事を待たず、背の高い女は話しかけた。


「あんたが、今までで一番輝いていたのは何時だい?
 子供の時?
 ちやほやされた若い頃?
 それとも、優ちゃんを育てていた時?」


 放心状態の富子に、その言葉が届いていたかは解らない。



 背の高い女は、富子を置いて立ち去る。
 後は、彼女自身の問題だ。



 暫く行くと、背の高い女の携帯が鳴った。


「なに?」


 いきなり要件を聞くところが、彼女らしい。

 電話の相手はそれに慣れているらしく、無駄な会話をせずに切り出した。


「真弓、杉川村に来てくれ」


次話では、いよいよ、お話は現在から過去へ……。
物語のキーワードになる展開です。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう