バットマン「狗神 杉川村編」(4/29)PDFで表示縦書き表示RDF


謎の美女が登場。
はたして、その正体は
バットマン「狗神 杉川村編」
作:オリオン



バットマン4



  加害者?その4


 彼女は、誰もが振り向く目立つ存在だった。

 背が高くモデルのようなプロポーションをしている。

 稟とした顔立ちは男に媚びず、かと言って身構えている風でもない。

 日本人離れした目鼻立ちは、オリエンタルな雰囲気を漂わせ、白い肌に合っていた。

 黒髪黒目だが、東欧系の美女を思わせる女性だった。


 彼女が、ナース姿で病院を歩いていた。


 背筋を伸ばし、大股で歩く。

 薄いストッキングに包まれた脚は、形が良く躍動的だった。

 ヒップも大きすぎず小さすぎず、若い桃を連想させる。


 混雑する外科の待合室を通った時、その桃をタッチした不届き者がいた。

 不届き者が手を引っ込めるより早く、真弓は犯人の手を掴んでいた。


「毛虫! また外来で遊んでんのか?」


 毛虫呼ばわりされた男は、パジャマ姿の若い男だった。

「毛虫は無いだろう! 真弓さん」

「ごめん、名前を覚えられないんだ」

「酷いな〜」

 毛虫は、ゲジゲジ眉をしていた。あだ名の由来はここからだった。 

「そんなに落ち込むなよ、毛虫。お尻を触らせたんだから。おあいこって事で」

 真弓は、掴んでいた毛虫の手を放した。

 毛虫は、腕をさすりながら呟く。

「痛っ、折れるかと思った」

「ハハ、折ってやろうか?」

 真弓が言うと冗談に聞こえないから怖い。毛虫は、慌てて否定する。

 入院患者である彼は、以前、真弓に


「君は僕をドキドキさせるよ」


 と言った事があった。

 その時の真弓の返事は


「もっとドキドキさせてあげる」


 だった。

 彼女は、毛虫の点滴の落ちる速度を速めた。

 その時は、本当の意味でドキドキした。

 あの時の悪夢が蘇る。


「ところで、毛虫さんは何で外来にいるのかな?」

 真弓は、尻を触られた怒りが収まったようだ。元来、サバサバした性格でもある。


 でも、毛虫の名前は本当に思い出せないようだ。


「入院生活は退屈だから、外来で美人探し」

「で、収穫は?」

 毛虫は、ロビーの待合室を指差した。


「あの白い服の娘かな? 手首に包帯を巻いてる」


 真弓は、毛虫の指先を追った。

 毛虫が指で示したのは、可憐な感じの若い女性だった。

 ロングヘアーの彼女は、待合室の長椅子に、ひっそりと座っていた。

 真弓は、彼女に近付いて行った。


「あなた、外科で診療を受けた方?」


 真弓に話しかけられた女性は、驚いたように顔を上げた。


「白雪姫ね…」


 真弓は、思わず呟いた。


 この瞬間から、彼女のあだ名は白雪姫に決定。 


 白雪姫は、長いまつげが憂いを帯びた、繊細な表情の女性だった。

 歳は、20代前半くらい。カスミソウを思わせる綺麗な女性だった。


「あなた、名前は?」


 真弓に質問された白雪姫は、質問される事自体に戸惑っていた。

 どうやら、彼女は人の顔色を窺う癖があるようだ。

「青山 優です……」

 小さな声で、白雪姫が答えた。

「優ちゃん、手首の傷で来たんでしょ?」

「ええ、包丁を使っていたら、弾みで切ってしまったんです」

 消え入りそうな声で、言い訳がましく白雪姫が答える。


 全く、どんな弾みで手首を切るのやら…。


 真弓に怪訝な顔で見られた優は、正直に白状した。


「実は…自殺未遂なんです」


 消え入りそうな声で話す優に、真弓は明るく話しかけた。

「優ちゃん、破傷風の予防接種をしてないでしょ?」

「必要なんですか?」

「もちろんよ! それに、今キャンペーン中だから」

 何故キャンペーン? の疑問も、白雪姫には浮かばなかった。

 声をかけられた時点で、彼女は気が動転していたからだった。

 処置室に連れて行かれた白雪姫は、ベッドの上で横になった。

「注射の前に、熱を計らせて」

 真弓は、白雪姫の額に手を当てる。


“病院なんだから普通は体温計でしょ”


 などと突っ込む事もなく、白雪姫は大人しくしていた。


 ほどなく、彼女は心地よくなって来た。体全体が温かくなり、眠気に誘われた。

 何だか、過去に戻るような、懐かしい気持ちになって来る。


 そして、意識が遠のいて行く…。


 遠く



 遠く




 遠く…。




 白雪姫こと青山優は、都心から近い埼玉県内で生まれた。

 彼女は、生まれた時から父親を知らず、母子家庭で育った。

 母親の名前は富子。生活環境とは真逆の名前だった。

 富子の仕事場は、近所のスナックだった。出勤は、夕方から夜中までで、帰らない時も多かった。
 

「優! 水もってきて!」

 寝床から、母の声が聞こえる。

 酒やけしたその声は、しわがれていて、年老いたカラスの鳴き声を思わせた。

「もう、学校へ行くところなのに…」

 玄関先で靴を履こうとしていた優は、戻って台所に向かう。

 コップを水道水で満たすと、母親の寝室の襖を開けた。

「母さん、水」

 母親は、布団の間から優を見上げた。

 その姿は、何だか可愛らしく感じた。

「すまないねぇ」

 その悪戯っぽい笑顔を見ると、優は母親を愛おしく感じた。

「どういたしまして。学校へ行くよ。母さん一人でも大丈夫でしょ」

 全く、どちらが子供か解らない。

 優に対する母親からの返事は無かった。

 彼女は、既にいびきをかいていた。


 優は、溜め息をつくと、学校へと急いだ。
   


物語は、次で急展開します












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