バットマン「狗神 杉川村編」(3/29)PDFで表示縦書き表示RDF


 被害が拡大するバットマンの殴打事件。警察は、必死に真相を追うが……。
バットマン「狗神 杉川村編」
作:オリオン



バットマン3



  被害者その5


 警察は、もうお手上げ状態だった。

 日本全国で1日に数万件の死傷事件が起き続けていた。

 全ての事件に共通しているのは、被害者がバットによって殴打されている点だった。


 全国同時多発殴打事件


 対策本部が出来てから一週間。

 何の進展もないまま、月日が過ぎて行った。


「証拠が無いんじゃお手上げだよ! 被害者に聞いても要領を得ないし…」


 蟹江刑事は、デスクで体を伸ばした。

「先輩、お疲れです」

 後輩刑事の吉田が、蟹江の机にコーヒーを置いた。

「おっ、悪い。砂糖とミルクたっぷりか?」

 蟹江は、渋めの中年男だった。どう見てもブラックの方が似合いそうだ。

「ええ、いつも通りですよ」

 吉田が笑いながら言う。

「何か可笑しいか?」

「失礼、先輩のイメージだと真っ黒って感じだから」

 吉田は二十代後半。笑顔が似合う好青年だった。

「ふん、笑える余裕があるのは良い事だよ」

 拗ねた中年男の仕草に、吉田の笑いが止まらない。

 この所徹夜続きで、変なテンションになっているらしい。


「笑いすぎだろ…」


「ところで先輩。バットマンのホームページを知ってますか?」

「バットマン? 映画か?」

 吉田は、蟹江の机のパソコンを操作した。

 ディスプレイに、ホームページの画面が浮かび上がる。

 

   バットマンのルール!

 1 バットマンを呼び出すには、殺す相手を怨んでいなくてはならない。

 2 バットマンを呼び出すには、バットマンのホームページにアクセスしなければならない(“怨バットマン怨”で検索可)

 3 バットマンを呼び出すには、半紙と筆と墨がいる。

 4 バットマンを呼び出すには、半紙に墨で人の形(リアルでなくて良い)を書き、その形が赤く染まるまで、自らの血を流さなければならない(血で染める部位で、攻撃場所が決まる)

 5 バットマンの仕返しは、染める血の量が多ければ多い程、相手へのダメージも大きくなる。

 6 バットマンの仕返しは、呪いをかけてから24時間後の同じ時刻に行われる。

 7 なお、利用者のリスクは出血のみで、料金等は発生しない。


 ご利用ありがとうございます。



「なんだ? これは?」

 蟹江が素っ頓狂な声を上げた。 

「先輩、何か事件と関係があると思いません?」

「ただの悪戯だろ。よくある事だよ」

 蟹江は、全く取り合わなかった。

「このホームページの事を調べたんですよ」

「へぇ〜」

 吉田は、先輩の態度を気にする事なく説明を続けた。

「まず、ホームページの管理人を探しました。登録はフリーメールを使ってました。フリーメールの登録を調べると、面白い事が解ったんですよ」

「へぇ〜」

 蟹江は、相変わらず気乗りしないようだった。

「住所が、杉川村にある一軒家だったんですよ。しかも、その家は、過去に殺人事件が有った場所なんです」


「15年前だろ…知ってるよ…一軒家で夫婦が何者かによって鈍器で殴り殺された事件だ」


 蟹江が事件を知っている事に、吉田は驚いた。


 だが、次の台詞には更に驚いた。


「俺が担当したんだ」

「本当ですか!?」

「嘘ついてどうする」

「やっぱり、このホームページと事件は、何か関係があると思いませんか?」

 吉田の推測を、蟹江は否定する。

「いや、やはり悪戯だろう。杉川村の事件は新聞にも載ったからな、
 覚えていたか?
 または調べてみたか?
 どっちにしろ、誰かが悪戯でこんなホームページを作ったんだろう」

 吉田は、納得できない表情だったが、それ以上は何も言わなかった。

「それに、この事件は俺たちの手を離れるらしいぞ。
 新設された広域捜査班と公安が担当するらしい。
 エリートどもに顎で使われるわけだ」

「この事件の犯人は、誰だと想定しているんですか?」

「多分、危険な団体、もしくは外国からのテロ攻撃だと思っているんだろう。同時多発だからな」


 その日の夜、久しぶりにアパートへ帰宅した吉田は、さっそく実験を始めた。

 彼の計画は、バットマンを呼び出す事だった。

 パソコンを起動させ、ホームページを開く。

 真っ黒な画面に、例の文字列が浮かび上がる。

「この画面を表示したまま、あの儀式をすればいいのか?」

 吉田は、人の形が描いてある半紙の上で、指先を針で刺した。

 血を一滴だけ、人形の腕の部分に垂らした。

 ホームページの内容が本当なら、殺される事は無い筈だ。 

 吉田は、暗い部屋の中で取り残された感覚を味わった。

 背中に悪寒が走る。背後の空間が、異常なまでに気になっていた。


 ふと、パソコン画面に目を留める。

 画面の端に、人影が映っていた。



「嘘だろ!」



 振り返ると、吉田の目の前に人が立っていた。

 影の塊が、吉田を見下ろしていた。

「窓も玄関も確かに閉めた。密室の筈のこの場所に、コイツはどうやって侵入したのだろう?」

 そんな疑問を抱いている暇はない。

 侵入者は、バットを振り上げているのだ。
 このままでは、殴られてしまう。

 吉田は、振り降ろされるバットを受け止めた。



 ゴキッ!



 ゴギュ!
 


 生理的に嫌悪感を覚える音と共に、吉田の腕は折れてしまった。
 
 自ら依頼した制裁は、ここまでの筈だった。



「嘘だろ!」



 吉田の声は、恐怖で震えた。



 バットマンは、再びバットを振り上げていた。

 そして、二撃目を振り降ろす。

 躊躇う事なく振り降ろされるバット。

 吉田の頭は血まみれだった。
 
 薄れ行く意識の中で、彼は思い当たった。

「バットマンが依頼を叶えるのは24時間後の筈だ。だから、このバットマンは俺が依頼したバットマンではない…」

 消え行く意識の中で、吉田は自分の血でメッセージを書いた。



 たった一言だけ…。



 “信じて”



 彼は、もう痛みも感じなくなっていた。

 血の海に一人だけ取り残され、最後を迎えた。



物語はまだまだ序盤です。












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