バットマン「狗神 杉川村編」(25/29)PDFで表示縦書き表示RDF


バットマン「狗神 杉川村編」
作:オリオン



反撃その2




 バットマン(杉川村専用)に対抗するため、6人が集まった。
 メンバーは、

 狗神 瞬

 狗神 真弓

 蟹江刑事

 姫岡 綾香

 岩尾 信雄

 榊原巡査

 まずは、状況の把握から始まった。

「“鬼”の発生は、何処からなんだろう?」

 対策本部と化した交番で、村の地図を広げた真弓が発言した。

「私が襲われたのは、杉川村北部の蛇村です」

 榊原巡査の報告に、岩尾も同意した。

「俺も、そっちの方から逃げて来た。こいつの家がそこにあるからな」

 青白い顔の男を指し示して付け加える。


「なら、鬼の発生源があるのかもな? とにかく、数が増える前になんとかしよう」

 蟹江刑事の提案で、3グループに分かれて“鬼”を拘束することに決めた。
 拘束する道具は、荷造り用のロープにした。

 組み合わせは、

 瞬と綾香ペア

 真弓と岩尾ペア

 警官ペア

 に決まった。

 蟹江から、子供同士の瞬と綾香のペアに異論が上がったが、真弓が押し通した。
 だが、蟹江も頑固な性格だ。
 瞬と綾香に無理をしない事を約束させた。

 携帯が通じないため、それぞれのペアにトランシーバーが渡され、“鬼退治”が始まった。



「姐さん、ブラしてないんですか?」

 それぞれのペアが分かれると、岩尾が真弓に質問した。

「ああ、してないよ。なんで解った?」

「姐さんに羽交い締めにされた時、乳首が背中に当たったから」

 岩尾の答えに、真弓は呆れた。

「お前は、そういう所は冷静なんだな」

「ありがとうございます」

 岩尾は、体育会系のお礼を返した。
 彼は、すっかり真弓の子分と化していた。


 夜道の散歩を思わせる和んだ雰囲気は、長くは続かなかった。
 突然の悲鳴が、二人を緊張させた。

「お前の悲鳴よりはましだな」

「もう、それは忘れてくださいよ」

 二人は、悲鳴が聞こえた方向へ走った。


 二人が駆けつけると、ジャージ姿の年配の男が額から血を流して倒れていた。
 彼は、視線を暗闇に合わせ、怯えていた。

 真弓と岩尾は、彼に寄り添い、声をかける。

「大丈夫か?」

 ジャージ男は、暗闇を指差すだけで、声も出ない。酷く青ざめた顔が、彼が受けたショックを物語っていた。

 その時、暗闇から、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、と言う、大勢の足音が聴こえた。
 
 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、


音の正体が、姿を現した。


 全員が、野球のユニホームを着た中学生だった。
 彼らは、隣町の中学の野球部に所属していて、夏の間、杉川村にある寺で合宿していた。
 総勢22名。
 今日は、練習試合で散々な結果を招き、顧問の先生から、陰湿な体罰を受けた。
 風呂も無し。
 食事も抜き。
 板の間で正座。
 試合には全力で取り組んだのに、この仕打ちは酷かった。

 そんな時、あの表示を見てしまう。

 彼らは、一斉に“鬼”になる事を選んでしまった。
 金属バットを手に取り、顧問の先生に襲いかかり、追い回した。


 無表情で、何かに取り憑かれている中学生の群れは、恐れもなく向かって来る。

 さすがの真弓も、20人以上をいっぺんに相手にするのは難しい。

「岩! ジャージを背負え!」

 真弓は、岩尾に命令した。
 岩尾は、緊急事態に素早く対応し、ジャージ先生を背負って走り出す。
 真弓も、その後に続いた。


 バットを持った野球部員たちも、走って追いかけて来る。
 全員が丸刈りなので、同じ顔に見えた。
 無縁仏のお地蔵さんが、集団でバットを持っている感じがして、かなり不気味だった。

「まったく、最近の子供は、晩飯を抜いて正座させただけで逆恨みしおって!」

 岩尾の背中で、いくぶん元気を取り戻したジャージが、吐き捨てるように言った。
 頭から血を流している聖職者の教育論に、岩尾は納得できずにいた。

「先生さんよ〜、あんたは、いつもそんな事をしているのか? それじゃ、ただの嫌がらせだろ」

 岩尾の発言に、ジャージ先生は反論する。

「失礼な! 私は、生徒を立派な社会人にするためにしているんだ」

「本当に生徒の“ため”を思っていたら、相手には伝わるはずだけどな」

 岩尾は、まるっきりチンピラみたいな容姿だが、なかなか良いことを言う。
 それに対するジャージ先生の答えは、意外なものだった。

「生徒の“ため?”そんな気はさらさら無い。社会に必要とされる人間を造るのが、教師の役目だ」

 岩尾は、その場でジャージを放り出すと、後ろを振り返った。

 そこには、金属バットを振り回す生徒をあしらう真弓がいた。

「姐さん、こんな奴は放っておいて、そっちを手伝いますぜ」

 岩尾の声にあるニュアンスを感じ取って、真弓はそれを許可した。

「ああ、好きにしな!」

 岩尾は、袖まくりをすると、正気を失っている生徒の群れに飛び込んだ。

 
 生徒を真っ向から受け止めている二人を尻目に、ジャージ先生は、ゴミ箱の陰に隠れて震えていた。



 

 













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