反撃
街で騒動が起きていた頃、瞬や蟹江も行動を起こしていた。
「外に電話が繋がらない」
「ネットもだめだ」
杉川村から外へ、連絡手段がなくなった。
誰も入れない。誰も出られないの“誰も”は、人間の事だけではないらしい。
和尚の姿も見あたらなかったが、その時は気にならなかった。
「とにかく、街の様子を見てみよう」
瞬と蟹江と綾香は、情報を入手するために外に出てみた。
街は、表面上は穏やかに見えた。
三人が、ホッとしたのも束の間、突然の悲鳴が、静寂を破る。
瞬は、すぐに反応した。
「刑事さん、綾香を頼む!」
刑事をしている身としては、少年の命令を受けるのは不服だが、瞬は既に悲鳴がした方に走っていた。
綾香を1人にもしておけず、蟹江はしぶしぶ残ることになった。
「気をつけろよ!」
瞬の背中に、せめてもの大人のアドバイスを贈る。
瞬は、片手を上げてそれに答えた。
その後ろ姿が遠ざかるのが、早い早い。
悲鳴の主は、強面のガタイのいい男だった。
悲しいくらいの必死の形相が、なんとも言えない。
息はかなり上がっていて、限界が近いように思えた。
その男を追いかけているのは、青白い顔の痩せた男だった。手には血の付いた包丁を持ち、息一つ乱さず、冷酷な表情で走っている。
彼は、すでに人間ではなくなっていた。完全に魔物に支配され、鬼と化していた。
青白い鬼は、強面に迫っていた。もう、背中に包丁を突き刺せるくらいの位置だった。
逃げる背中に、包丁を振り下ろす。
そこに助けに入ったのは、瞬ではなかった。
それは、背の高い女の人だった。
ローライズのジーンズが似合うプロポーションの良い彼女は、青白い顔が持っていた包丁を払い落とすと、手首を掴んで投げ飛ばしていた。
すぐさま地面に押し付け、後ろ手にして手錠を嵌めた。
その手際の良さは、逮捕術を学んだエキスパートを思わせる。
「真弓姉さん、来てたんだ」
騒動が収まった後に到着した瞬が、その女性に話しかけた。
「お待たせ! 瞬」
真弓は、瞬に笑いかける。
「ギリギリ杉川村に入れたよ。もう少し遅かったら、入れなかった」
「やっぱり、バットマンのゲームが始まってから、誰も入れないし、誰も出られないんだ」
「まったく、くだらない余興に付き合わされたよ」
真弓は、面倒臭そうに言った。
「ところで、手錠はどうしたの?」
瞬の質問に対する答えは、指で示した。
真弓の指先を辿って行くと、若い警官にたどり着いた。彼は、頭を怪我しているらしく、白い布を巻いていた。
「村民に襲われている所を助けたんだ」
「てっめ〜、よくもやりやがったな!」
真弓と瞬が目を離している隙に、体力と元気を回復した強面が、青白くんに蹴りを入れた。
「やめな」
真弓が、強面を羽交い締めにして引き離す。
「だってよ〜」
まだ何か言いたそうな強面に、真弓がピシャリと言った。
「こいつの手錠を外すよ!」
強面は、青白い顔の暗く不気味な目に睨まれていた。その目を見た強面は、慌てて首を振る。
「勘弁してよ、姐さん、もうしないからさ」
強面の言葉に、真弓は苦笑する。
「あんた、名前は?」
「岩尾信雄」
「じゃ、岩って呼ぶわ」
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