バットマン「狗神 杉川村編」(23/29)PDFで表示縦書き表示RDF


バットマン「狗神 杉川村編」
作:オリオン



杉川村ルール4


   鬼orネズミその3 

 幸夫は、全てのことから解放された気分だった。
 彼は、家族3人を惨殺し、見えない鎖を断ち切った。
 そして今、狩りを楽しんでいた。

 幸夫が追いかけているのは、彼を3年間も苦しめ続けていた借金取りの男だった。
 昨日まで“鬼”だと思っていた男が、幸夫が“鬼”に変身することにより、血相を変えて逃げ回っている。
 心から愉快になれた。

 深夜の街を、奇声を発し、笑いながら追いかける。
 不気味な笑い声が響く度に、借金取りの男が怯えた顔で振り返る。

 こんな事なら、もっと早く鬼になれば良かった。

 幸夫にとって、家庭は牢獄と同じだった。
 妻も子も、彼をバカにしていた。
 友人の借金を背負ってしまうと、その態度はエスカレートした。
 長女も長男も彼を軽蔑し、妻にはゴミ以下に思われていた。
 
 そんな時、“バットマンのルール(杉川村専用)”が、テレビ画面に映し出された。
 幸夫以外の家族は、それを見て不思議に思っただけだった。
 だが、幸夫は、その文字列に釘付けになった。
 その内容が、自分を救ってくれる。
 そんな考えに取り憑かれた。

「珈琲でも入れて来いよ! ジジィ!」

 長男が、幸夫に命令した。
 彼は、黙ってそれに従うと、台所で3人分の珈琲を入れた。
 彼が医者から処方されている睡眠薬を入れて……。

 

 居間にビニールシートを敷くと、幸夫は殺した家族をバラバラにし始めた。
 関節の所に鉈を当て、ハンマーで叩くと、意外と簡単に解体できた。
 憎い家族を切り刻んでいると、何故か心がスッキリして来た。
 そんな時、玄関のドアを叩く音がする。

「おい! 居るんだろ! 早く開けろ!」

 その声は、幸夫を毎月苦しめていた借金取りの声だった。

 幸夫は、包丁を隠し持ち、玄関を開ける。


 借金取りは、強面でガタイのいい男だった。大抵の事には驚かないタイプだが、いつもと違う幸夫には唖然とした。
 服が血まみれで、表情が不気味だった。
 強面の頭の中で、警戒警報が鳴る。

 その時、いきなり幸夫が包丁を振り下ろして来た。
 強面は、とっさに集金カバンで攻撃を防ぐと、訳も解らず逃げ出していた。


 そして、今に至る。

 幸夫は、借金取りを追い続けていた。

 途中、知り合いの益夫さんと出くわす。
 血の付いた包丁を持った彼は、幸夫と同じ“鬼”になったようだ。

「益夫さん、今晩は」

「幸夫さん、鬼になったんですか?」

「ええ、なってみると、気分が良いですね」

「何人殺しました?」

「まだ3人なんですよ。今、4人目を追いかけている所なんです」

「私も、妻と義理の両親の3人です。娘に逃げられちゃいまして……」

「お互いに頑張りましょう」

 益夫さんと別れた幸夫は、足取りも軽く借金取りを追いかけた。














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