バットマン「狗神 杉川村編」(21/29)PDFで表示縦書き表示RDF


バットマン「狗神 杉川村編」
作:オリオン



杉川村ルール2


 バットマンのルール(杉川村専用)の発表がされた直後、杉川村郷土資料館で異変が起きた。
 奥の展示ブースにあるショーケースが割れ、展示物が出て来てしまった。
 その展示物は、伝説の殺人鬼、澤地豊雄の蝋人形だった。
 蝋人形は、ツルリとした無機質の顔に、目だけがやけに生気に満ちていた。
 そのギャップが、妙に背筋を寒くする。
 
 蝋人形は、銃や日本刀をチェックする。
 銃も日本刀も模造品だった。
 蝋人形の目だけが、明らかに不機嫌になる。それがまた、不気味だった。

 復活した豊雄は、ガラスの破片を持って資料館を出た。
 すぐに、近くのコンビニへ向かう。
 
 

「いらっしゃ……ひっ!」

 コンビニの男子店員は、言葉を失った。

 店に入って来たのは、黒い詰め襟を着た青白い顔の男だった。
 頭の左右に懐中電灯を固定して、首からもランタンをぶら下げている。
 その異様な風体の男が、迷いもなく向かって来る。
 まばたきしない目が、異様に怖かった。

 コンビニの店員は、驚きと恐怖の表情のまま、即死した。
 目には、ガラスの破片が深々と刺さっている。

 豊雄は、すでに死体と化した物体には興味がなかった。
 彼は、乾電池を取ると、懐中電灯とランタンにセットした。
 


  鬼orネズミその1   


 杉川村在住のカップル、真司と由美は、田舎道の路肩に車を止め、星空を眺めていた。
 その時、携帯のディスプレイが突然光り出し、着信音が響いた。
 しかも、二人同時にだった。

「凄い偶然だね」

 ハシャぎ合う二人は、携帯を確認した。

 液晶画面には、不思議な文字列があった。



   バットマンのルール(杉川村専用)

 1 今から、杉川村には誰も入れません。そして、誰も出られません。

 2 狩られる者と、狩る者。どちらかを選択してください。
 狩られる者はネズミ、惨めに逃げ回ってください。
 狩る者は鬼、ネズミを退治してください。
 躊躇すれば、あなたがネズミになってしまいます。

 3 ゲーム終了は、杉川村にいる全員が鬼になった時です。
 それまでは永遠に続きます。

 4 鬼は鬼に殺されません。

 5 鬼になるのは簡単です。自分が最も愛する者を殺してください。
 それができれば、ネズミを殺し回るのも簡単です。むしろ、快楽すら感じるでしょう。


 では、ゲームをお楽しみください。


          魔界より





「なにこれ、スゴい受けるんですけど〜」

 メールの内容を読んで、二人は笑い転げた。

「誰の悪戯かな? これ、知り合い10人に回さないと呪われるとか?」

 真司がおどけて言うと、由美も感想を述べた。

「第一、愛する男性ひとを殺す位なら、自分が死にますから」

 由美の言葉に、真司も同意する。

「そうだよ、俺も、愛する女性ひとを殺す位なら、自分で死を選ぶよ」

「真司は優しいね」

「由美の事を愛しているもの」

 由美が目を瞑る。
 真司は、ドキドキしながら唇を近づけた。

 その時、二人の耳に叫び声が聴こえた。

 声がする方を見ると、誰かが誰かに追いかけられている。

 街灯の下を、逃げる人物が通過する。
 彼は、必死の形相をした中年男だった。
 かなりの距離を走っているのだろう。
 顔は青ざめ、目は飛び出さんばかりに見開いていた。

 そして、その後ろからは、黒ずくめの衣装を着た若い男が追って来ていた。
 無表情で獲物を追いかけるその男は、日本刀を振りかざしていた。
 黒い衣装は詰め襟で、学校の制服だった。そこに帯を巻き、鞘を差している。
 頭の左右に手拭いで固定された懐中電灯が、獲物の苦しげな様子を照らし出す。
 首から下げたランタンは、若い男の顔を下から照らしていた。
 まるで幽鬼のような表情は、なんの感情も読み取れなかった。


 殺人マシン


 この形容詞がぴったりな人物だった。

 一方、追いかけられている男は、日本刀を扱う店を経営していた。
 防犯ブザーの音に目を覚まし、店を覗いてみると、黒ずくめの若い男が日本刀を手にしていた。
 彼と目が合った時、店主は直感した。


 殺される!

 
 夢中で夜道を駆け出し、今に至る。

 
 真司と由美が乗った車に、悲惨なレースの競技者が迫る。

 真司は、慌てて車のエンジンをかけようとする。
 
 チュンチュンチュンチュン、チュンチュンチュンチュン

 こんな時に限って、車のエンジンがかからない。

チュンチュンチュンチュン、チュンチュンチュンチュン

「ボロ車! かかれ! かかれ!」

「ちょっと真司! 何やってんのよ」

 由美が、ヒステリックに罵声を浴びせる。

 さっきまでの甘い雰囲気は、すでに車内からは消え去っていた。
 


「ギャアアアーッ」



 車内に、二人を脅かすような悲鳴が響いた。
 フロントガラスいっぱいに、男の顔があった。
 ガラスに押し付けられ、歪んだ表情の被害者からは、怨みの念が痛いほど伝わる。
 血走り、見開かれた目は、悪夢を見るようだった。
 パクパクと、鯉のように口を開閉させる。
 二人には、それが呪いの言葉を吐き出しているかのように感じた。


「ギャアアアーッ」


 真司と由美は、体全体で叫んだ。


 フロントガラスの男は、息絶えた。

 運転席側のガラスが叩かれ、そちらに二人の注意を向ける。

 そこには、青白い顔の鬼がいた。
 冷酷な目が、二人に逃げ場が無い事を告げていた。

 真司の頭の中で、二つの呪文が囁く。

鬼は鬼に殺されない。愛する者を殺せば鬼になれる。 鬼は鬼に殺されない。愛する者を殺せば鬼になれる。 鬼は鬼に殺されない。愛する者を殺せば鬼になれる。 鬼は鬼に殺されない。愛する者を殺せば鬼になれる。


「バカ真司! 早く車を動かせよ!」

 由美の不用意な一言が、引き金になった……。

「ひっ」

 冷酷で無表情の真司に、由美は言葉を失った。

 真司の両手が由美の首へ伸び、そのまま絞めた。

 由美は爪で反撃するが、首を絞める力は衰えず、益々強くなった。

「やめ……おねが……」

 由美の懇願も、真司の心には届かなかった。

 目玉が飛び出そうなほど見開かれ、恋人の顔を瞳に映す。


 涙が一筋、頬を伝わった。


 真司は、死体と化した由美を車外に放り出し、代わりに澤地豊雄を乗せた。

 人の魂を売り渡し、鬼になることを選択した彼は、豊雄の言いなりだった。

「銃が欲しい」

 豊雄のリクエストを聞くと、真司は無言で車を走らせた。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう