最後のピース
一方、その頃、蟹江刑事は、相変わらず聞き込みのし直しをしていた。
もう、事件は15年前のことなので、進展があるわけではなかった。
だが、蟹江は、ふと気になる事に気が付いた。
複数の村人に聞いた証言が、食い違うことなく一致しているのだ。
15年も経っていれば、それぞれの記憶に食い違いが出てもおかしくない。それが、当時の証言と一致していた。
まるで、それぞれが事情聴取を読んでいるかのように矛盾点がない。
だが、それが何故なのか理由は解らなかった。
もう、杉川村に来て一週間が過ぎていた。
そろそろ東京に戻らなければならない。
明日、引き上げよう。
吉田には悪いが、何も進展がなかった。
蟹江は、そう決心していた。
最後に、郷土資料館を訪ねることにした。それは、瞬のお薦めの場所だった。
杉川駅は、小さな田舎の駅にもかかわらず、賑わいを見せていた。
やはり、バットマンの被害が無いことが有名になっているのだろう。
資料館は、駅から少し離れた場所にあり、規模としては、大きいように感じられた。
蟹江は、奥の展示ブースへ向かった。
その場所が、妙に賑わっているのだ。
蟹江は、そこに展示してある物を見て、衝撃を受けた。
そこは、杉川村の伝説の殺人鬼、澤地豊雄の資料が展示されているブースだった。
ひときわ人目を惹くように、リアルな蝋人形が置かれている。
蟹江は、その蝋人形に見入っていた。
頭が良さそうだが、神経質そうな険しい表情。冷酷そうな薄い唇は、血のように赤い。まるで生きているかのような蝋人形が、蟹江を睨みつけている。
だが、蟹江が驚いたのは、蝋人形のリアルさや、その異様な装束では無かった。
「こいつ、そっくりだ!」
蟹江は、思わず叫んでいた。
何故なら、蝋人形の澤地豊雄は、15年前に殺害された細田満男によく似ていた。
その途端、蟹江の頭の中で、ある考えが膨らんだ。
「もしかすると、細田夫妻を殺害したのは、複数の村人かもしれない…」
善良そうな彼らを見れば、いちばん有り得ない推理なのだが、細田満男が伝説の殺人鬼の子孫なら、可能性はある。
蟹江は、知り合いの刑事に電話した。
「太田か、久しぶり」
電話の相手は、眠そうな声で返事をした。
「久しぶりじゃないですよ! 蟹さんは呑気だな〜。早く戻って来てくださいよ」
「悪い悪い。それより、お前に調べて欲しいことがある」
「なんですか?」
「15年前に殺害された、細田満男の家族について調べてくれ。とくに祖父母について詳しく」
「随分と古い話ですね。データがあるかな…?」
そう言いつつも、電話の相手は調べてくれているようすだった。
蟹江は、焦る気持ちを抑えつつ、返事を待った。
「蟹さん、分かりました。細田満男の両親は、彼が小さい時に自殺しています。彼は、祖母の手で育てられました。祖母の名は細田節子です。今は他界しています」
「祖父の名前は?」
「分かりません。節子はシングルマザーと云うやつですね」
「じゃあ、細田節子の出身地は?」
「杉川村です」
「解った。ありがとう」
蟹江は、寺に戻ると、和尚に時間を作って貰った。
蟹江の真剣な表情に、和尚も覚悟を決めた。
「単刀直入に聞きます。15年前に、細田夫妻を殺害したのは、あなた達ですね」
蟹江の核心を突く言葉に、和尚は頷いた。
「なぜです。なぜあんな事を…」
「それは、怖かったからだ。あの目、あの表情…」
「それは、細田満男が澤地豊雄の孫だからですか?」
蟹江に問いつめられた和尚は、事件のことを語り始めた。
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