バットマン「狗神 杉川村編」(13/29)PDFで表示縦書き表示RDF


バットマン「狗神 杉川村編」
作:オリオン



パズルのピース3


 瞬と綾香は、郷土資料館に着いた。

 建物は、それほど大きくは無く、更に凝った物でも無かった。

 入場料は200円。

 この手の施設だとしても、安い気がする。



「杉川村の事が良く解る施設だね」

 この地の特産品や、村の成り立ち、

 昔の暮らしぶりや、昔の道具、

 ショーケースの向こうに、村の歴史が詰まっていた。

 もの珍しそうに覗いている綾香に、瞬は質問した。

「姫岡は、来たこと無いんだ…」

「うん、小さな頃に此処に住んだ事があったけど、資料館は初めて」


 大きな目で興味深く見つめている綾香の横顔を、瞬は見とれていた。



「あっ、お客さん発見!」

 奥のブースが賑わっているのを見て、綾香がはしゃいだ。

 その姿が子供みたいで、瞬は苦笑いする。

「可笑しいかな?」

「大丈夫、でも、迷子にはならないで」

「手でも繋ぐ?」

 瞬の笑顔が素敵なので、綾香は思わず聞いてみた。

「そだな」

 瞬は、綾香の手を優しく包んだ。


 皮膚を通して、緊張感と想いが伝わるような気がした。


 奥のブースに入ると、綾香が瞬の手を握る力が強くなった。

 瞬は、彼女が青ざめて行くのを、心配そうに見守っていた。

 

 奥のブースに展示して在ったのは、“杉川村事件”の資料だった。



 既に伝説となっていた村人大量殺人事件。


 その残虐な犯行の犠牲者は、一晩で30人にも及んだ。

 
 その実行犯、澤地 豊雄が、綾香を見下ろすように立っていた。

 
 犯人の豊雄は、50年前の人間だし、犯行直後に自殺している。

 だから、綾香の目の前にあるのは、本人では無い。


 リアルな蝋人形だった。


 蝋人形は、犯行当時の装束のままで、そこに生きているかのように立っていた。

 色白で青ざめた顔、

 つり上がった目、

 神経質そうな表情、

 眉間に寄った皺、

 息が上がっているかのような、半開きになった真っ赤な唇など、

 蝋人形は、犯行直後の豊雄を生き写しにしたようだった。

 頭に手拭いで固定したライトの先に見ているのは、獲物だった。

 綾香に、視線が突き刺さる。

 心臓を鷲掴みにされたような感覚を、綾香は味わっていた。


 瞬の手を、強く握る。



「ごめん…、早く出よう」


 瞬は、綾香の反応に驚いて、ここに連れて来た事を後悔した。

 手を強く引っ張り、資料館から出る。


「ごめんなさい、急に気分が悪くなって…」

 綾香は瞬に謝るが、申し訳ないと思っているのは、むしろ瞬の方だった。

「こっちこそ済まない…」

 瞬の謝罪に、綾香は首を数回横に振った。

 キレイな横顔が痛々しい。


 その後、2人はタクシーを捕まえて、天限寺へと向かった。 














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