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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外245 香鶴楼の秘密会合

「では、御武運を」
「我らも準備を進めて参ります」
「はい。香鶴楼に到着したら連絡しますね」

 といったやり取りをしてシガ将軍、スウタイ達に見送られる形で一旦別れ、シリウス号で香鶴楼に向かって飛ぶ。
 シーカーと水晶板モニターは、各陣営の代表者達がそれぞれ責任を持って保有する形、ということでガクスイやホウシン達にも預けてきている。

 対ショウエンを目的として同盟を組む。そこまでは良いとしても共闘する面々は実際に会って確かめておく必要があった。
 各陣営をまとめる者達が信用できる相手なのかどうか。代表は信用できてもその周辺はどうなのか。シーカー達を預けるにはそのあたりを調べておかなければならない。しかしこれで道筋がついたと言えるだろう。

「いや、まあ、私の傷は大したことはなかったよ。ほら。傷跡も残っていない」

 と、ツバキがコマチに笑って拳を見せていたりするが。

「なら良かった。傷跡が残ったら事ですから! アシュレイ様の治癒魔法は素晴らしいですね!」

 そんなコマチの反応にアシュレイが微笑み、ツバキが少し照れながら苦笑する。

「ああ、いや、私のことはいいんだ。それよりほら……黒旗の事が気になるところではあるかな」

 と、話題を違う方向に変えるツバキである。

「ううん。確かに技術者としては気になりますが、宝貝であるということやその性質を考えると、解析するにしても再利用するにしても、十分に安全を確保してからでないといけませんね」

 と、コマチは真剣な表情で梱包された黒旗に視線を向けている。初めて見る宝貝に興味はあるのだろうが、安全性にしっかり配慮をするあたりがコマチは技術者として素晴らしいところではある。
 まあ、封印術はしっかり効果が出ているようなので問題はないだろう。最後のウロボロスの一撃で壊れている可能性もあるが……まあ、それはそれとして。

「――香鶴楼に戻ったら打ち合わせをしなくてはいけませんが、その前に……お聞きしても良いでしょうか。その、少々お聞きしにくい事ではあるのですが」

 と、ゲンライに尋ねると、真剣な表情でこちらに向き直る。

「ふむ。可能なかぎり真摯に答えると約束しよう」
「ありがとうございます。出奔してショウエン側についたお弟子さんについての事、ですね」
「ジンオウについて、か」

 ゲンライは目を閉じる。

「ジンオウは……私達にとっては元兄弟子、ですね」
「私とはほとんど入れ違いになるような形で出ていったそうで面識がないのですが、術の才能は抜きんでていた、と聞いています」

 セイランが眉根を寄せ、カイ王子が言う。
 入れ違い、か。それでショウエンらにカイ王子とリン王女が助かった事が伝わっていない、というのは不幸中の幸いではあるのだろうが。

「確かに、天才と呼んで差支えの無い才能は持っておった。しかし……やや危うい面があってな。強い力を求め、他者をあまり信用しない、という傾向があった。そういう面を支え、良い方向に持って行ければ、と思っておったのじゃが、な」

 出奔する時に手紙を残していったそうだ。
 師匠と弟弟子達との穏やかな生活は……嫌いではなかったが、自分をゆっくりと鈍らせていくように感じられて煩わしくもあった、と。

「他の兄弟子達もジンオウを気にかけていたし、心を開いてくれたようにも感じたところもあったのだけれど……」

 セイランが目を閉じてかぶりを振る。
 その後は――ショウエンが禅譲されるより前に都の武官として取り立てられ、今ではかなりの地位にあるのだとか。
 得た力を立身出世のために使う。それを間違いだとは言わないが……。

「……なるほど。迷いを抱いていた時に、ショウエンと知己を得て……という可能性もありますね」
「だとしても、そうさせてしまったのは儂の不徳の致すところじゃな。弟子の不始末は師の責任。あの者については儂に任せては貰えんかの」

 そう言ってゲンライは俺やオリエを真っ直ぐ見てくる。
 そう、だな。ジンオウを経由して墓所やレイメイの所在の情報がショウエンに渡った可能性は大きいし、そのせいで黒霧谷に刺客が来たのだとするなら、そのあたりの事は問い質さなければならない部分ではあるだろう。

 しかし話を聞く限り、ゲンライ達を憎んだり、嫌って出奔したというわけではなさそうだ。情を残しているというのなら、案外義理を通してゲンライ達の情報を伝えていない、という可能性もある。
 となると、ショウエンがジンオウとは関係のないところで独自の情報網を駆使して墓所やレイメイの所在を自力で掴んだ、ということも考えられる。

「我に異存はない。まだ確定的な事を言えぬ段階であるし、師の責任というのであれば、その言葉を信じよう」

 オリエは少しの間ゲンライを見ていたが、やがてそう静かに言った。
 俺としても……ゲンライがそう言うのならその点については任せようと思う。

「では、その人物についてはお任せします。それにレイメイさんのところに刺客がやってきた時期を考えるなら……義理を通して、古巣の情報は伝えていない、という可能性も有り得ますね」
「あまり楽観視はすまいとは考えてはおるが……。それを差し引いてもショウエンに仕えるというのはな。弟子が迷えば道を示すが師の役割なればこそ、余計に捨て置けぬよ」
「ま、気負い過ぎないこった。お前は昔から真面目過ぎるからな」

 そんな風に言うレイメイの口調は冗談めかしているが、ゲンライの事を心配しているというのは分かる。ゲンライは目を閉じて、口元に少し笑みを浮かべるとレイメイの言葉に頷いて……カイ王子やリン王女、セイランもそのやり取りに安心したような様子に見えた。

 オリエも満足そうに頷くと、小蜘蛛達の髪を結ったりといった作業に戻るのであった。



 そうして、俺達は香鶴楼に到着する。

「ご無事で何よりです」

 と、楼主のコウギョクが笑顔で出迎えてくれる。
 あちこちで活動していたゲンライの弟子達も戻ってきており、まずは互いに自己紹介をしたり、今までの経緯などを説明して情報共有を行う。

「西国からの助太刀……! それにレイメイ様の救援とは!」
「それに空飛ぶ船とは、驚きですね……!」

 弟子達は状況がかなり変動しているので最初はやや戸惑っていたが、色々と説明を受けると、かなりストレートに喜びと驚きの反応を示してくれた。

 特にレイメイに対する尊敬の眼差しなどが集中していたりして……まあ、本人にとっては居心地が悪そうで咳払いなどしていたりするが。
 俺も助太刀についてのお礼を言われたりして他人事ではないところはあるが。グレイス達ににっこりと笑みを向けられてしまったが。むう。

 まあ、そんなこんなで弟子達は人柄の良さそうな面々が多い印象だ。
 サイロウ達の反応から考えて、ショウエン側に情報が洩れていないことから見ても、信頼して良い面々と考えて間違いはないだろう。

「カイとリンも……僕達も心配していたのだけれど、もう心配なさそうだね」
「そうだな……。うん。応援するよ」
「ああ。私達に出来る事があったら何でも気軽に言ってくれ」
「ありがとうございます。そう言って頂けるのは、心強い」

 カイ王子は兄弟子達の言葉に穏やかな笑みを浮かべる。

「私も頑張る……!」

 そんなリン王女の言葉。兄弟子達はカイ王子と共に、微笑ましそうな表情で頷いていた。
 さてさて。そうして経緯を説明している間にも並行して準備を進めていたが、どうやら先方の準備も整ったようだ。

 テーブルに水晶板モニターとシーカー、ハイダー達を並べ、同盟を結んだ陣営の面々が映像と音声で顔を突き合わせての会合と打ち合わせである。

 ガクスイ、ホウシン、シガ将軍、スウタイが、それぞれのモニターに映り込み、挨拶を交わしていた。噂では知っていたが初対面というものもいれば、元々面識がある、という繋がりもあったりで、同盟の意思やカイ王子を盛り立てていこうということで話をしながら盛り上がっていたようではあるが。

『何と言いますか。離れた場所の相手と、こうして顔を合わせて話をする……というのは不思議な感覚ですな』
『うむ。しかしこれならば各陣営の連絡を緊密にして動くことができる』

 ガクスイとホウシンが言う。

「実は……こうして水晶板同士を突き合わせて複数の陣営の方々と作戦会議というのは、初めての試みだったりします。実験済みではあるので不具合はないとは思いますが、何か気付いたことがあれば遠慮なく仰ってください」

 通信機で連係というのはあったけれど、シーカーやハイダーと連動した水晶板の機能が開発されたのは最近になってのことだからな。対ヴァルロス等でもやっていなかったことだ。

『ほう。それはまた。我らのほうは問題ありませんぞ。見える風景も聞こえる音も鮮明です』
『画期的で光栄な事ですな。こちらも問題ありません』

 と、シガ将軍、スウタイが楽しそうに笑って答えてくれた。

『私も問題はありませんぞ』
『同じく。実に素晴らしい技術です』

 ガクスイ、ホウシンも問題ない、とのことで……。では――会議を始めるとしよう。
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