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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外244 戦いの後始末を

 螺旋衝撃波で上空まで吹っ飛び、意識を失って落ちてくるサイロウと黒旗。その双方に封印術を叩き込む。後は梱包しておけば問題ないだろう。

「こっちは大丈夫」
「はい。こちらも大きな怪我を負った方はいません。細かな負傷に関しては治療しておきます」

 手傷は負っていない、とアシュレイに合図すると、アシュレイは嬉しそうに頷いて、他のみんなの怪我の状況の確認と治療に回る。

 意識を失ったサイロウの護衛の連中はコルリスが担いで持ってきてくれた。順番に封印術を叩き込んで梱包していく。
 それから副官のリクホウだが……オリエが糸でぐるぐる巻きになったその男を連れてくる。

「良いのですか?」

 こいつの処遇は預ける、ということか。

「ふむ。こやつはキョウシを送り込んだとは言え、所詮使い走り。血の対価は血によって、というのは道理であるが……仲間達の助力を得ての勝利でもある。キョウシ達の指揮を執っていた直接の仇は黒霧谷にて既に討っているしな。眷属と霊場を預かる主として、あまり多くの穢れを負うわけにもいかん」
「我らは無礼な振る舞いをした者達を相手にした時、祟りや障りという形で改心を促す事もあるがの。こういった術に精通した輩には、それも望めぬであろうし」

 と、御前がオリエの言葉に頷きながら教えてくれる。
 ……なるほどな。ヒタカの妖怪達ならではの事情があり、それに則った方法、流儀というものがあるというわけか。副官とあのキョウシ達3体を同時に相手取るのも、確かに骨が折れる。無傷に近い形で勝てたのは仲間のお陰でもあるから、情報を搾ったりに使えるように引き渡してくれる、というわけだ。

「元より私達の国の不始末。事後処理については我々が責任を負い、汗をかくべきでしょう」

 カイ王子が静かに言って、自分の胸元に手を当てる。

「分かりました。この者達には封印術を施しましたが……術者相手にそれだけでは些か心許ないので、タームウィルズに転送して隷属魔法を用いて術の行使等々を禁じることにしましょう」
「うむ。我としては黒幕――ショウエンの思惑を叩き潰せば、それで溜飲が下る、ということにしておこうか。そういうわけで今後も頼むぞ」

 オリエがにやりと笑って手を差し出してくる。その言葉に笑みを返してから俺とオリエ、カイ王子の間で握手を交わした。というわけで、リクホウにも封印術を叩き込み、梱包しておく。

「どうやら、大丈夫なようね。では、サイロウとリクホウについては、転移魔法でタームウィルズに送っておくわ」
「うん。こっちもタームウィルズに連絡して、隷属魔法の準備を進めてもらっておく」

 諸々終わるまで封印術の維持等をしっかりとしておくとしよう。

「怪我をした方の治療も終わりました」
「うむ。良い具合だ。興が乗り過ぎて力任せになり過ぎてしまったのは猛省すべき点だが……」

 アシュレイがにっこりとした笑みを浮かべて教えてくれる。その横ではツバキが掌を握ったり開いたりしていた。イングウェイもキョウシ相手の最後の一撃を浴びていたが、そちらの治療も終わったようだ。

「いやはや、凄まじいものでしたな……。私としてはレイメイ殿とゲンライ殿が背中合わせに戦っているところをみて、感動してしまいましたが」

 シガ将軍がシリウス号の甲板から顔を出す。その言葉に、レイメイが自分の後頭部を軽く掻いたりしているが。
 シガ将軍やセイランも戦意は十分だったが、今回は相手が相手。空中戦装備の習熟が必要だったということもある。セイランは空を飛べるが、シリウス号の艦橋でユラやシガ将軍、スウタイ達の護衛役に回ってもらったという形だ。

「終わってみれば完勝に近い形ではあったけれど、やはり油断がならないわね」
「ショウエンの裏事情を知っていたわけだから、側近の一人であったのは間違いないのでしょうけれど……。それでも相当な腕前よね」

 ローズマリーが目を閉じて言うと、ステファニアも同意する。

「そうだな。北西部に破壊工作を行うための人員編成と装備ではあったようだけど……」

 黒旗の宝貝にしてもキョウシ使いにしても。少人数で赴いて行ってその場に強力な軍隊を召喚できるような編成だった。護衛達は……まあ、然程でもなかったから使者達の護衛という対外的なポーズを取るための人員ではあったのだろうが。

 いずれにせよ、結界で包囲してもあっさり制圧とはいかなかった。術者当人の実力も結構なものだ。
 俺としては側近の大体のレベル、宝貝の力等々をショウエンと戦う前に実地で見る事ができて色々と参考になったところはあるが……この分だとショウエン本人の力量は相当高く見積もっておく必要があるだろうな。

「後は……今後の方針でしょうか。使者を撃退したことで状況が変わってくる、ということも考えられますし」
「ん。多少の帰還の遅れは許容範囲内だとしても、サイロウ達の帰還が遅いとそれに対応した動きを取ってくる可能性は高い」

 アシュレイとシーラが言う。それは確かに……。とはいえこちらの予定は変わらずこなすべきことをこなしていくのが良いのではないかと思う。シリウス号の機動力を活かしていくという方針までは変える必要はないというか、今の状況に寧ろ合致しているわけだし。
 使者が帰還するまでの時間を見積もり、その期間を利用して動けるだけ動く、というわけだ。

「ふむ。そうなると我らが迎えた使者については、逗留中ということにすれば時間も稼げますかな?」

 シガ将軍が提案してくれるが……。どうだろうか。

「その場合……使者が未帰還であることを理由に難癖をつけてくる可能性があります。表向きのやり取り通り、交渉が決裂して帰った、ということで良いでしょう。後の事情までは把握していない、ということで」

 郊外で秘密裡に戦闘があったとしてもそれをシガ将軍が把握している等ということには、普通はならない。

「確かにそうかも知れませんな。承知しました。帰った後の事は知らないということで通す事にしましょう」
「サイロウが戻るぐらいの時期を見計らい、我らが北西部の状況の報告をする、というのはどうでしょうか? 使者は帰ったが作戦は履行されていないということで。我らが報告に向かう事そのものが、北西部で何も起こらなかった証明にもなります。帰還中のサイロウの身に何かがあっただとか、或いはサイロウの造反をショウエン側に疑わせることも可能なのではないかと」

 と、ゴリョウが言う。

「潜入している密偵もお構いなしで破壊工作するつもりだったということになるのね……」

 イルムヒルトが眉根を寄せる。

「まあ、大事にされている等とは最初から思っていませんでしたが……」

 ゴリョウはその言葉に苦笑する。

「報告に際して、危険は?」
「直接ショウエンらに報告するわけではありませんからな。部下から上司への伝言の形になると情報が変質するということで、報告書を提出する方針ですから。その後は……仕事は果たしたということで北西部に戻ってしまった風を装えば良いのです」

 なるほど……。そちらに関しては、ゴリョウ達が危険に晒されないというのであれば、確かにありだな。作戦を進めていく上での表面上の動きは報告のネタとして使ってしまっても構わないわけだし、三正面になることは表沙汰にしてショウエンではなく敵軍の士気を削いでいく方向で考えているわけだから。

「というわけで、シーカーと水晶板を置いていきますので、今後はそれを用いて連絡を密に、ということで」
「おお。これはかたじけない」

 というわけで、シーカー達をシガ将軍達に渡す。
 シガ将軍達はシーカーを受け取ってやや扱いに困っていた印象ではあったが、ぺこりとお辞儀をするシーカー達に戸惑いながらも会釈を返したりしていた。

 サイロウ達の訪問と破壊工作未遂というアクシデントこそあったものの、これで西部との連係に関しては問題ないだろう。
 香鶴楼にゲンライの門弟達も戻ってくる予定になっているそうで。
 一旦香鶴楼に戻りつつ後は各陣営と連係しながら、ショウエンと戦う準備を進めていくことになるだろう。
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