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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外243表 黒旗と魔術師

 詰める。離脱する隙は与えない。間合いを詰めて宝貝の黒旗と打ち合う。
 旗には異常な魔力反応。サイロウ自身の魔力も、これが道士や仙人の魔力だというのなら、あまりにもカイ王子やゲンライ達とは違い過ぎる。性質としては精霊の力に近い。精霊を目指すのが仙人であるというのなら仙気に他ならないのだろうが、不穏、不吉を宿したそれは、闇の精霊であるとか、暴走していた時のセラフィナに近い。

「何者だ……!? その馬鹿げた魔力! 見慣れぬ術式と、その発動方式……! ただの道士や仙人などという事はあるまい!」
「お前らに答える必要はない」

 旗は――本来武器ではない。だがこの黒旗は別のようだ。先端に巻きつけて槍のように刺突を繰り出してくる。杖術というよりは、刺突を通す事を目的とした槍術としての使い方――。
 ウロボロスで巻き込むように打ち払えば、互いの得物に纏った魔力が干渉し合ってスパーク光をまき散らす。
 そうした攻防の中に薄いシールドを織り交ぜ、敢えて貫かせることでその効果、攻撃力の程を推測する。

 ごく薄く展開したとはいえ、あっさりとマジックシールドに穴を穿ってくる。砕く、ではなく、穿つ。あの旗――布の部分が異常なのだ。槍のように使うのも納得できる。

「信じられん。なんだ、その杖は――」

 驚愕の度合いは向こうの方が上か。交差する瞬間に黒旗を握る手に魔力を流し込んで威力を増大させているようだが、ウロボロスがまともに打ち合って平然としているのが信じられない様子だ。
 ウロボロスがにやりと笑ったのを目にして、些かの動揺が見られた。

 その隙に合わせて無詠唱で牽制の火球を複数個放つ。威力は抑え目だが着弾すれば爆発。目暗ましにはなる。

「むっ!」

 一瞬にして柄に巻き付いていた旗が自発的に広がり、火球を包み込むように掻き消してきた。
 旗に宿った魔力が増大。そこからの打ち下ろし。サイロウの一撃は――旗の部分が形を崩し、柄よりも遥かに長い間合いで漆黒の斬撃のように降ってきた。ミラージュボディを用いて分身を展開。シールドを蹴って左右に分かれるように飛べば――。

 黒旗を大きく横に薙ぎ払う。先程叩き込んだ火球の割り増しの大きさの火球がまき散らされる。こちらが撃ち込んだ火球と正確に、同じ数。同じ性質の火球――。
 本体と分身への同時攻撃。増幅して跳ね返してきたか!

「フレイムアブソーブ!」

 闇の対抗魔法で火球を吸い込みながら最短距離を突っ切る。その瞬間だ。サイロウの袖から紫色のオーラを放つ呪符が放たれた。真っ向からウロボロスで叩き落とす。火花と共に呪符が散った。それを目暗ましに横から薙ぐような軌道の黒旗。横に回転するように避けながら、サイロウ本体目掛けて無数の石の弾丸を放つ。

 翻って風を切る黒旗に、あっさりとストーンバレットは弾き散らされていた。吸収するではなく、弾き散らして粉砕。増幅反射はこない。つまりは炎や雷撃等は吸収できるのだろうが、岩や氷といった物体、質量による攻撃は吸収できない、ということだ。問題は、黒旗を受けるのにマジックシールドは相性が悪いということ――。

 サイロウが旋回させる黒旗が四方から斬撃となって襲ってくる。その正体、性質は旗であるから、鞭のような攻撃と見るべきだ。
 下手に受けると巻き付かれる危険がある。マジックシールドを細かく蹴って、先を読ませない動きで間合いを詰めれば、再び柄に旗が巻き付いて槍のようにこちらの攻撃に応じてくる。

 距離を詰めれば巻き付いて槍のように。離れれば解けてさながら鞭のように。火炎、雷撃などは吸収して増幅反射。そういう応用の効く武器、ということになる。

 ぎりぎりを回避して更に内側へ踏み込もうとしたところで、旗の中から猛獣の爪が飛び出す。踏み込む俺の背後から。延髄の辺りを狙うような攻撃――。
 しかし無駄だ。まだ旗の中に魔獣を残している事は想定済み。キマイラコートから飛び出したカペラの角で魔獣の爪を受け止め、動きを止めたそこにネメアが飛び出して魔獣の腕を噛み砕く。

「何っ!?」

 俺の背後で起こった攻防に、サイロウは目を向く。キマイラコートを似たような性質だと思ったのか。いずれにせよ迎撃の手札は潰して、槍の間合いの更に内側へと踏み込んでいる。こちらも、ウロボロスを有効に振り回せる間合いではないが――!
 掌底。呪符による防壁。お構いなしに放った魔力衝撃波が防御を突き抜けてサイロウの脇腹を捉える。

「ぐっ!?」

 袖から呪符が連なるように伸びて――。刃のように切りつけてくる。問題ない。この手の技ならばレイメイやゲンライ達との間で予習済みだ。
 避けるか、シールドで対応すればいい。技を放ちながら後ろに飛びながら間合いを開こうとするサイロウ。
 そうはさせない。呪符の斬撃はシールドで受けとめ、下がった分だけ間合いを詰めれば、奴は離脱できないと判断したのか、歯を食いしばって体術で応じる。

 魔力を宿した手刀が首元に迫る。シールドで斜めにそらして関節に掌底と衝撃波を叩き込む。跳ね上がる膝蹴りを肘で迎撃。激突の瞬間に魔力衝撃波。
 攻防の一つ一つ。交差する瞬間。触れる瞬間の全てにカウンターで衝撃波をぶち込めば、その度に奴の表情が苦悶に歪む。どうやら、サイロウの耐久力は、魔人ほどではないらしい。ならばいくら体術を鍛えていようが、その研鑽は全て魔力衝撃波の前には無意味だ。

「ぐっ、おおおおっ!」

 腕を交差させて俺の攻撃を受け止めると、力尽くで振り払うかのように大きく腕を払う。袖から無数の呪符が飛び出し、周辺を包囲したかと思うと後方から降り注いでくる。

 構わない。肘を突き出すようにしてマジックシールドを円錐型に展開。魔力光推進でサイロウごと前へ前へと押し出す。背後で目標を見失った呪符同士が空中で激突。爆発を起こす。

「こ、この餓鬼――ッ!」

 今度はサイロウが背後を気にする番だった。結界の壁が高速で迫ってきている。
 そこに押し込まれるよりはましだと判断したのか。サイロウは指に挟んだ呪符を、俺にではなく、自分に押し付けるようにして爆破した。

 それより早く。後ろに飛んで爆風を回避する。一瞬遅れて、黒旗が寸前まで俺のいた空間を薙ぎ払っていた。

 サイロウは荒い息を吐きながら、爆破した胸の辺りを抑えつつ、こちらを射殺すように睨んでくる。
 広げた旗を構え、無数の呪符を身体の周囲に浮かべて――今度は間合いの内側には二度と入れさせまいといった構えを見せる。

 そうして、展開した呪符と共に突っ込んできた。魔力光推進を見せた以上は距離を取っての射撃戦は無理だと判断したからだろう。それは正しい。

 浮かぶ呪符の一つが雷撃を放つ。但し俺にではなく、黒旗に吸い込ませる形で。黒旗が奴自身の術を増幅しながら雷をまき散らす。

 魔力。魔力の反応がおかしい。黒旗の異常な魔力がサイロウ自身と融合し増大している。みんながここまでで看破した黒旗の性質を考えれば、精霊を取り込んで魔獣の形に強化したというのなら黒旗の力を借りればサイロウ自身も強化できる、と見て間違いあるまい。道士や仙人は、精霊との同質化を目指すものであるのだから。

「ソリッドハンマー!」

 岩石塊を叩き込んで雷撃を遮蔽。そのままサイロウ目掛けて打ち込む。

「邪魔だっ!」

 真っ向からソリッドハンマーを黒旗で砕く。打ち破られたかに見えたソリッドハンマーであったが。

「そこだ。やれ」

 ソリッドハンマーの大きな欠片からゴーレムの腕と脚が飛び出してサイロウの顔面を殴りつけ、鳩尾に回し蹴りが叩き込まれていた。
 ソリッドハンマーから直接ゴーレムを生成した形だ。黒旗からの魔獣の攻撃と――まあ、似たようなものだろう。

 黒旗の力を借りて身体強化をしていたようだが、不意を打たれてしまえば面食らいもする。身体をくの字に折り曲げる。ゴーレムの一撃は決定打にこそならないが、その動揺は致命的だ。間髪を容れずに俺の放った黒い弾丸が突き刺さっていたからだ。

 その瞬間。奴自身から旗に至るまで、魔力の動きがおかしくなる。闇魔法――阻害術式ベノムフォース。
 黒旗と一体になっての強化であったのなら、本体に術を叩き込めば黒旗まで術が伝播するのが道理。

 黒旗に直接ベノムフォースを打ち込むのは増幅反射の性質を考えれば慎重にならざるを得なかったが、まさか一体化した術者まで増幅反射の性質を得るなどということはないだろう。
 その目論見は当たったようで、サイロウを通して魔法的なノイズが広がっているのか。黒旗の機能も奴自身の術の制御も全く上手くいっていないらしい。無数に展開した呪符も、あらぬ方向へすっ飛んでいき、時折奴自身も空中を踏み外すようにバランスを崩す。

「き、貴様、一体――。い、一体、何をっ!?」

 戸惑いと激昂。怒りと混乱に任せて突っ込んでくるが――。
 飛行のための術式も阻害されている。隙だらけだ。振るわれる黒旗も上手く作用していない。ウロボロスを旗の柄に叩きつければ、めきりと宝貝から破滅的な音が響いた。すり抜けるように踏み込んで腕をウロボロスで殴りつけ、更に内側の間合いへと滑り込む。

 サイロウと、一瞬視線が交差する。信じられないものを見るような、驚愕の表情。屈めた身体から、全身の動きと魔力を連動させて掌底を叩き込む。

「飛べッ!」

 螺旋衝撃波――!
 魔力の渦が炸裂してサイロウの身体が遥か上空へと捻るような回転をしながら吹っ飛んでいった。
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