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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外243裏 魔獣と殭屍・後編

 ユラの神楽が周囲一帯に響いている。魔獣の群れは明らかに再生能力が落ちているようだった。
 それで危機感を抱いたのか、相手も破邪の力を使える相手に戦力を集中させようとしているようだ。つまりは――ステファニアにも。

 数の多い相手。水晶鎧で使い魔と連係している間はデコイも作り出せるが、それでも多方面から攻撃を加えられれば危険はある。仲間に背後を守ってもらうのはありがたいが、大きく負担をかけるわけにもいかない。ならば――。

「コルリス!」

 ステファニアが声を上げれば五感リンクでその考えるところを受け取ったコルリスが、自分の周りに展開する結晶をさらに大きく、広く展開する。
 その姿は球形。球形の表面に結晶の棘が飛び出して、コルリスが内部から地下を掘り進む要領で爪を引っ掛き続けることで高速回転を始める。
 そんな剣呑な物体が――飛翔した。かなりの速度で、高速回転しているにも拘らず、正確に魔獣の群れに向かってぶっ飛んでいく。

 あくまでも物理的な攻撃。だとするなら物量と力で止めてしまえば良い。肉で止めて、殻を砕き、中の術者達を叩く――!
 魔獣の群れはそう判断したのか、回転する棘玉にも臆したところなく、咆哮しながら突っ込んでくる。

 接敵しようかというその、瞬間だ。棘玉が白い光に包まれた。光魔法第6階級、ブライトネスフィールド。術者の周囲に展開させる光の防御魔法を、棘玉を触媒にして発動させた形である。
 ステファニアがレビテーションで球体を支え、光魔法によって覆う。後はコルリスが内部から爪で漕ぐようにして回しながら、ソリッドハンマーの応用術式を組み込んだ魔道具によって飛翔させる、という寸法だ。

 破邪の力によって触れた相手を引き裂き、焼き焦がし、弾き飛ばしながら巨大なスパイクボールは魔物の群れから群れへと突っ込んでいく。

 攻防一体。全方位対応の合体攻撃。高速回転している上に防御魔法で覆われているので生半可な攻撃はあっさり弾かれ、無理矢理止めようにも動き回る棘に引き裂かれ、焼けるような衝撃まであって、魔獣達は数で勝るのに手が付けられない。

 そして、大味そうな技だからと言って精密性に欠けるのかというとそんなこともない。
 集団目掛けて突っ込むことで、仲間達の存在によって回避できなくなってしまうという者はどうしても出てくる。そういう位置取りの敵を、コルリスは魔力を感知し、正確に追尾していくのだ。きっちり敵の損害、消耗を積み重ねていく。

 ベリルモールの魔力感知能力は嗅覚との共感覚。
 だからこそ、魔力を感知すると嗅覚でその微細な波長の違いを嗅ぎ分ける事が可能となる。対象が分厚い土の向こう側だろうが、水晶を通してだろうが――魔力を感知できる限りは正確に位置や動きを把握することができる。

 縦横無尽に暴れまわるコルリスとステファニアに、後ろから追い縋ってどうにか止めようとした者達は――浮遊するマジックスレイブから展開した魔力糸が阻害していた。動きを止めたところを猛烈な速度で突っ込んできたイグニスが、手にしたマクスウェルで一閃してまとめて両断する。

「目立つから背中を守る方としても不意が突けて楽だけれど……。ああいう無茶な術の使い方を提案する方もする方だけど、実現させる方も実現させる方よね」

 と、イグニスの背に掴まる形でローズマリーはステファニアとコルリスの技を見やり苦笑する。
 テオドールと話し合っていくつか使い魔との合体技、連係攻撃を開発しているステファニアであるが、今回の技の問題点を解決したのはテオドールの術式とそれを魔道具にしたアルフレッドだ。
 ソリッドハンマーの制御術式が無ければ、空中を自在に飛ばしながらの高速移動というのは難しかっただろうと思われた。



 風の渦を纏ってツバキが飛ぶ。
 凄まじい程の飛翔速度。飛び回るキョウシと空中で真っ向から激突する。
 キョウシの毒を宿した爪が迫る。人外の膂力を以って放たれるそれを、手首を掴んで止めて、猛烈な蹴りを胴体に叩き込めば――キョウシは後方に吹っ飛ぶ。

 しかしツバキの身体能力を以ってしても硬い、と感じた。表皮だ。表皮が異常に硬い。鎧を蹴ったような感触が足に残っている。
 吹っ飛んでいくキョウシは、案の定堪えた様子もなく、腕に紫電を纏うと雷撃を放ってくる。

「散れ!」

 ツバキはユラの描いてくれた身代わりの呪符を放って雷撃を逸らした。
 高位のキョウシと鬼と。どちらも強靭な身体能力を武器とし、その上術まで扱うという噛み合う相手。

「爪の毒、とやらは大したことがないのだったな……」

 相手を次第にキョウシに作り替える遅効性の毒、という話だ。これは糯米や札などで割とあっさり浄化できるし、親となるキョウシを倒してしまえば問題ないという話であるから……毒というよりは呪詛の類なのだろう。
 当然呪法対策はしてきているのでツバキには通じない。格闘戦でそこを過度に心配する必要はない。

 問題は相手のキョウシが雷撃を操っていることだ。
 キョウシは時間の経過と共に、次第に強力になっていくとツバキの知識にはある。死後硬直した硬い肉体も次第にほぐれ、生前の知識、人格を取り戻し、全身が毛におおわれて自由に空を飛ぶようになる、という話だ。その次に雷を操ったりといった、神通力を得ていく。

 最終的には天仙にも匹敵するような手の付けられない存在になるのだとか。
 目の前のキョウシはそこまで至っていないにしても、だとするとどうにもちぐはぐだ。知識や人格等は感じられないし、姿形も人の姿を保っている。

「作られた、といったところか」

 そんな呟きと共に。ツバキの身体が目にも留まらない速度で突っ込んでいく。雷撃の術は効かないと見たか、キョウシもまた格闘戦でそれに応じる。
 武芸の心得があるのか、今度は爪で引き裂くような攻撃ではなく、貫手を放ってくる。上半身を逸らしてそれを避け、風の渦を纏った蹴り足でえぐるような一撃を見舞う。

 風に巻き取られるように身体を回転させながら吹き飛ぶも、やはり堪えてはいない。即座に跳ね返るように突っ込んできて、手足に雷を纏って反撃してくる。ツバキの纏う風の渦は魔力を宿しているのでそのまま術に対しての防壁ともなるが、巻き込んで吹き飛ばす効果は減衰させられてしまうようだ。

 膂力は互角。となれば体術勝負――。
 掠めるように貫手が頬のすぐ横を通り過ぎる。掌底。キョウシは避けない。最速で反撃の膝蹴りが跳ね上がる。肘を叩きつけるように迎撃。衝撃で弾かれるに身を任せて身体を回転。回し蹴りで踵を側頭部に叩きつける。

 キョウシの頭部が揺れる。直撃しても尚、無表情のまま。ツバキの足を掴もうと動く。風の渦で身体の動きを操作。腕の間をすり抜けるように回転の方向を変え、直上から蹴りを叩きつける。向き直って踏み込んだ時にはキョウシも態勢を立て直している。
 ツバキに向かってキョウシも身体ごと飛び込んできて、間合いを狂わせたところに顔面目掛けて肘打ちを叩き込んでくる。

 寸でのところで掌で受け止める。重い衝撃。風の渦の力を借りてキョウシを巻き込むように投げる。
 空中で制動をかけると反射するように突っ込んでくる。途切れない。いつまでも攻防が途切れない。身体ごと粉砕する勢いで攻撃を叩き込んでいるというのに、幾度も受けて耐えられるという頑強さがまずツバキにとっての驚きであった。

 翻って――腕力は五分でもそこまでの耐久力が自分にあるかどうか。攻撃を受ければ受けるほど戦況が不利になっていくのは否めない。自分達を越える程の頑強さを持つ相手。想像もしなかった相手だが、ツバキは心が高揚してくるのを感じる。

「いかんな……我らの悪い癖だ」

 そう言いながら。ツバキは笑いながら自ら死線に突っ込んでいく。必殺の威力を宿した拳と蹴りとを応酬し、避けて殴り飛ばし、殴られて受け止めて――。

「そこだっ!」

 雷撃の防壁をすり抜けるように――。風の渦を集中させたツバキの一本拳がキョウシの胸板を捉える。凄まじい衝撃が突き抜け、キョウシの身体が回転しながら大きく後ろに吹っ飛んだ。それでも尚キョウシは無反応。空中で動きを無理矢理止めて、即座に突っ込んでくる。
 十分な手ごたえはあったはずだが、キョウシは痛みを感じない。だから攻撃を食らっても即座に反撃してくる。動くこと。攻める事を止めない。

 力は五分。殴り合いでは耐久力と痛覚の有無から攻防に不利が生まれる。ならば、技は――?

 繰り出される雷撃を纏った槍のような貫手を――更に一歩踏み込みながら避ける。避けてその腕を取る。相手への風による干渉は減衰されてしまう。だから、自前の体術と自分の身体を風で動かす。

 ごきりと、嫌な音と感触がツバキの腕に伝わってきた。身体ごと風の渦で飛ぶことで、キョウシの腕――関節部分を破壊したのだ。まだ腕に掴まっているツバキに、無造作に空いた手を伸ばしてくる。ぎりぎりで掴まれる事を回避して蹴り足を叩き込んで離れる。片腕をぶら下げたままで。キョウシは突っ込んでくる。

 大きく身体をしならせて折れた腕を鞭のように振り回してきた。予想外の攻撃。肩口に手刀を食らうツバキであったが―――ツバキもまたキョウシの甘くなった防御をすり抜けて、先程と同様の一本拳を寸分違わず同じ場所に叩き込んでいる。

「おおおおっ!」

 咆哮。肩口に食らった一撃を意にも介さず、ツバキは吹き飛ぶキョウシが立ち直るよりも早く、真っ直ぐに前に突っ込む。迎撃の雷撃。身代わりの呪符を前面に翳し、炸裂した爆風を突き抜けて――。

 全身にひねりを加え、闘気を纏った鬼の拳が三度キョウシの胸板を捉える。吹き飛んだ先はクラウディアの展開する結界の壁面。背中を激突させたキョウシが感電するように身体を細かく震わせる。

 それを見逃すツバキではない。迷わずに間合いを詰めて膂力と闘気に任せて拳の弾幕を叩き込む。重い衝撃が幾度もキョウシの身体を捉え――その体表に亀裂が走った。胸板から、全身に亀裂が広がっていく。
 硬い体表を叩き続けて拳から血が噴き出しても。反撃の雷撃を至近から放たれても。
 それでもツバキは笑いながら連撃を止めない。キョウシがまだ生き残っている腕を突き込んでくる。それを首を傾けるようにすり抜けて、身体に纏った風の渦と闘気を集中させた正拳を頭部に叩き込めば――。

 それでキョウシは動きを止めた。結界壁面を滑るように落ちて行き――その身体がぼろぼろと崩れていく。
 その光景を見送って――ツバキは高揚した気持ちを落ち着かせるように、深く息をつくのであった。



「貴様、名を何という?」
「リクホウだ!」

 副官――リクホウの放った無数の呪符が吹雪のように舞う。それは破邪の力を込めたもので、妖怪たるオリエが触れれば焼けるような痛みを感じる代物ではある。だが。

「小賢しいっ!」

 オリエが大きく腕を振るえば四方八方から迫っていた呪符が真っ二つになった。さながら糸鋸のような構造の蜘蛛糸を飛ばしたのだ。リクホウは目を見開く。

「これほどの妖がこの地に――いや、ヒタカから来たということか。余計なものを呼び込んでしまったようだな」

 リクホウが取り出したのは木の剣であった。何の変哲もない木剣に見えたそれが、リクホウの魔力を受けて、光り輝く剣と化す。

「桃の木剣か……!」

 オリエは寧ろ期待するように目を見開いて笑った。
 妖魔に対して非常に強い力を持つ破邪の剣。空間に展開された蜘蛛糸を切り裂きオリエ目掛けて突っ込んでくる。

 オリエの両腕から分厚い糸の束が展開する。立体的に形成され――固まって、剣の形となった。しかし剣を構えるその姿は隙だらけだ。糸を張り巡らせて立ち回る分、近接戦闘は不慣れなのかと、防御の構えを見せるオリエに切り込もうとして――。
 次の瞬間、横合いから跳ね上がった何かにリクホウは大きく吹き飛ばされていた。

「何っ!?」

 術による防壁は展開されていたが、それでも衝撃は突き抜けていたらしい。
 跳ね上がったのは巨大な蜘蛛の足だ。オリエの背中の辺りから飛び出して、巨大な鞭のように真横から殴りつけたのだ。
 オリエが足場にした糸が大きくたわむ。たわんでから――解き放つかのような反動で、砲弾のような速度で飛び出したオリエが、リクホウに追随する。

 妖力が込められた糸の剣が迫る。魔力を込めた木剣で切り結ぶが、攻撃を受け止めた瞬間にその背中から蜘蛛の足が飛び出す。防御しようと構えれば、それは攻撃でなく移動のために使うもので。
 マジックシールドに引っ掛けるようにして間合いを広げながら無数の斬撃糸を放ってくる。呪符を投げつけて迎撃、迎撃。爆風を縫って柄に糸を接続された剣が大きく弧を描いて迫ってくる。

「舐めるなっ!」

 斬撃の軌道を大きく後ろに飛んでやり過ごし、更に呪符を突き刺した木剣を複数放ち、飛翔させて操る。追い縋ってくるオリエの手数に対抗するためだ。
 凄まじい程の攻撃密度と変幻自在の移動。それもそのはずだ。人間の手足に加えて蜘蛛の足が4本。周囲を舞う光の球体から展開する糸、糸、糸。それらを攻防と移動に使っているのだから。飛翔する木剣とリクホウ本体とでオリエに応戦する。

 激突。無数の爆風が炸裂する。爆風に乗って大きく後ろに飛ぶリクホウ。深追いせずにその場に留まるオリエ。

 オリエは――冷たい殺意を宿した目でリクホウを見据える。人の姿――質感がだんだんと崩れ、複数の目が見開き、蜘蛛の本性が垣間見えていた。

「貴様は……どうやらあの死体どもと共に戦ってこそ真価を発揮する性質のようだな」

 リクホウはその言葉に、横目でキョウシ達を見やる。いずれも一騎当千の強力なキョウシ達であるはずが……完璧に押さえられて、リクホウの援軍に来ることができない。にわかには信じられない光景であった。
 だというのに、オリエは油断した様子もない。戦局は――非常にリクホウにとって不利であった。

「図に乗るな、化け物めが!」

 リクホウが素早く印を結んで掌底を放つと、不可視の衝撃波が放たれる。オリエは腕を交差させてそれを受けると、反撃とばかりに斬撃の糸を飛ばす。

 飛翔する。飛翔してオリエの反撃を避けながら、懐から出した八卦鏡を突き出す。鏡面から青白い閃光が放たれていた。破邪の力を宿した閃光で薙ぐようにして、オリエが空間に展開した蜘蛛糸も焼き払う。
 オリエはマジックシールドを足場に、複雑な挙動を取って薙ぎ払うような閃光や飛翔する木剣を回避しながらリクホウを追う。距離を取っての射撃戦。糸を飛ばし、魔力の閃光や斬撃を飛ばし。幾度も魔力と妖力が炸裂して爆風が巻き起こる。

 不意に――リクホウが飛翔を止めた。

「鬼ごっこは終わりか?」

 オリエが迫る。振り返ったリクホウは――笑っていた。印を結べば四方八方に呪符が突然現れる。穏行の術。そして展開された複数の呪符が作り出すのは退魔の陣。
 オリエの動きはリクホウ目掛けて突っ込んできたところで、急激に停止させられていた。退魔の陣に囚われたのだ。
 リクホウが次々印を結べば、呪符が輝きを増して、陣の内部が赤く赤く染まっていく。

「これは――」
「吹き飛べ!」

 同様に赤熱する桃の木剣をオリエ目掛けて投げつければ。陣が大爆発を起こした。燃え上がるオリエの身体にリクホウはにやりと笑う――。

「それがお前の切り札か」

 その声は――リクホウの真後ろから聞こえた。膨大な量の糸がリクホウの身体に巻きつき――動きを封じたところで。襟元にくっ付いていた小さな蜘蛛がその正体を現す。
 小さな蜘蛛はみるみる内に正体を現し――巨大な蜘蛛となって、リクホウの背後に佇んでいた。

 理解できない。では。目の前で燃えているものは?
 糸。糸で作られた囮? 化け物の姿を中途半端に顕わしていたのは、人間の質感とは異なる姿となる事で――糸の囮であることを見破らせないため? 自分が爆発の中で陣を展開するための呪符を隠したように。どこかで入れ替わって、身体を小さく変化させて――。

「理解したところで、もう遅い」

 糸が震えて、女の声が辺りに響く。その事実に冷たいものが背中を走る。
 蜘蛛が糸を巻きつけたリクホウを大きく振り回す。それは蜘蛛の姿とは思えない器用さで――。

「う、おおおおっ!?」

 陣に囚われた囮を吹き飛ばすために練り上げた魔力を使ってしまった。脱出するためにもう一度魔力を練り上げている時間が――。
 迫ってくる結界の壁面。激突。術式で防御するも、重い衝撃が走る。お構いなしにまだまだ振り回される。回る天地。迫る地面。結界の壁。激突の方向が分からない。衝撃。衝撃。
 やがて――防御術式による抵抗も完全になくなったところで、オリエは興味を失ったようにリクホウを放り捨てると糸玉に包まってから、人の姿に戻る。そうして遠くで固唾を飲んで見守っていた小蜘蛛達に親指を立てて応じるのであった。



 カイ王子の操る銭剣が魔獣を貫く。背後から迫る魔獣を、闘気を纏ったジンが掌底で吹き飛ばし――アカネがつむじ風で切り刻む。
 明らかに魔獣達の動きが鈍り、最初よりもどんどんと弱くなっていくのが見て取れる。ヴィンクルとベリウスが揃って口から閃光と火線を放って。魔獣が爆散する。爆散してまた寄り集まるも、先程よりも小さくなっている。そこを炎の呪詛を纏ったジェイクの鋏による斬撃や、闘気を纏ったリンドブルムの尾の一撃が薙ぎ払って、立ち直る間もなく再び散らす。

 カイ王子の師匠であるゲンライに至っては、個体によっては再生させる事なく消滅までさせていた。
 いける。このまま押し切れる。カイ王子がそう思った、その時だ。魔獣達が一斉に咆哮を上げたかと思うと、不定形に溶け、光となって一ヶ所に集まっていく。

「これは――」

 数で攻めて形成が不利であるなら、戦法を変えるしかない。一ヶ所に力を集めよう、ということなのだろう。周囲を守るように魔獣達の光が舞い、破邪の力を弾くような防御を展開させている。力が集約して増大していく。その時だ。

 巨大な漆黒の砲弾が――集まっている光の中に叩き込まれていた。
 グレイスの放った闘気砲だ。光の塊に触れた瞬間に――闘気の砲弾が一層膨れ上がって威力を倍増させて、突き抜けていく。

「――濃密な闇の気配。同様に夜に属する性質同士。ならば対抗手段は聖なる力だけではありません。同化して収奪してしまえばいい」

 それが吸血鬼の性質だと。四肢から黒い雷を迸らせながら無情にグレイスが告げる。
 破邪の力を弾いたとしても同質の力は受け入れる構えだったのだ。だから当然のように、グレイスの一撃はあっさりと通してしまった。
 魔獣達にとって予想外だったのは、その効果。本来あまり意味のない攻撃であったはずなのに、同化、収奪されて一瞬にして攻撃用の力として消耗されてしまったのだ。

 集まるはずだった力をごっそりと削られても尚、魔獣は何とか形を成そうとしていた。巨大な獣の姿となり怒りに燃える目でグレイスを見やる。咆哮を上げて四肢で空間を蹴って。それを――グレイスは真っ向から迎え撃った。

 全身から黒い闘気が渦を巻いて――斧から放たれた斬撃が魔獣の繰り出した爪ごと切り裂き、威力に転化しながら力を奪っていく。あっという間に腕を切り刻まれて、理解できないというように魔獣は身をのけ反らせる。

 破邪の力以上に相性の悪い何か。彼らの知らない夜の支配者。しかも寸断されるごとに渦巻く力が増していく。

「夜の精霊達――。暫く大人しくしていなさい」

 大上段。双斧を揃えて振り被って打ち下ろせば――。見上げる程の巨大な斬撃が唸りを上げて迫る。
 魔獣の巨大な図体が頭から真っ二つにされたところで、ついに形を維持できなくなって、雑多で無害な精霊となってばらばらに四散した。
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