挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
987/1178

番外236 天幕内の会議

 天幕の中に設置された円卓に腰かけ、茶を飲みながら自己紹介をしていく。染めた髪の色を術式で元に戻して西国から来たことを打ち明ける。

「テオドール=ガートナー=ウィルクラウド=フォレスタニアと言います。西方にあるヴェルドガル王国から参りました」
「何と……! 魔の森の彼方に獣人の王の国がある、などと伝え聞いておりますが……。道理で見知らぬ魔獣を連れておられるわけですな」
「西方からとは驚きですな……! まさか、魔の森を越えて、ですか?」

 流石にシガ将軍とスウタイにとっては驚きであったらしい。

「いえ。海路の難所を迂回して、ヒタカノクニ側から上陸する形です。ヴェルドガル王国は件の獣王国エインフェウスの、更に南西に位置する国ということになります」
「なるほど……」
「獣王国エインフェウスで起こった事件がきっかけとしてヒタカノクニや、この国を訪問したという部分はあります。まあ、詳しい事情の説明は皆の自己紹介が終わってからということにしましょうか。現時点では、立場としては助っ人ということで理解して頂ければと思います」
「それはまた心強いことですな!」

 といった調子で自己紹介をしていく。

「――レイメイ……大王殿ですと……ッ?」

 やはりというか何というか。シガ将軍が他の面々で強く反応したのはレイメイが自己紹介した時だった。

「そのレイメイで間違いない。昔馴染みの縁でゲンライの助っ人に来たってわけだが……」
「何と……! うむ……うむっ。やはり我が家の口伝は真実でありましたな。いや、口伝にある以上に義に厚い、武人であらせられる……!」

 シガ将軍はレイメイの言葉に、何かを感じ入るように頷き、そして跪いて拳と掌を合わせ、レイメイを真っ向から見据えて言う。

「我が父祖の命を救って下さったことを、一族とこの地に住まう者を代表して改めて感謝申し上げます。今日の我が身があるのも、我らの子らや皆が健やかなのも、ゲンライ殿とレイメイ殿がおられればこそ……! 歓迎いたしますぞ!」

 レイメイはその言葉を真剣な表情で聞いて、そして頷く。

「その言葉は……確かに受け取った」

 そうしてから、少し笑って言う。

「だがまあ……なんだ。命の恩人だとか、そういう重い貸し借りはちょいと苦手なんでな。今後はもう少し普通に接してもらえると助かる」
「おお、これは失礼を。承知致しました」

 そう言ってシガ将軍は立ち上がる。
 苦手、とは言っているが、相手の真剣な言葉をしっかり受け止めているあたりはレイメイらしいという気はするな。御前やオリエ達もそんなやり取りを静かに見守っている様子だった。
 そうしてゲンライの予言通りに少し脱線はしたものの、自己紹介とこちらの事情説明を続けていく。

「――そういったわけで僕達は遺品を届けると同時に交易を広げにきたわけですが……。どうも隣国の雲行きが怪しいので、協力を申し出て同行してきた、というわけです」
「これは……テオドール殿にも、感謝を申し上げなければいけませんな」

 シガ将軍達にも、自己紹介がてら事情を説明していくと、割とすんなり納得してもらえた。
 ゲンライやレイメイ、カイ王子達が同行しているというのが大きいのだろう。

「ショウエンを放置しておくとヒタカだけでなく、西方にも火の粉が飛んできそうですからね。そもそも貿易相手として信頼できないと言いますか……個人的にもあまり親しくなりたいとは思えないので」
「くっく、これは中々に痛快な物言いですな」
「全くですな。ショウエンの奴めにも聞かせてやりたいものです」

 と、シガ将軍とスウタイは俺の軽口に愉快そうに笑っていた。
 さて。続いては作戦説明と行きたいところだが……その前にカイ王子から大事な話がある。視線を向けると、頷いて口を開いた。

「一点、伝えておきたいことがある」

 カイ王子の真剣な面持ちと口調に、2人が何かを察したのか居住まいを正して表情を真剣なものにした。

「ショウエンとの戦いが終わった後の話だ。二人とも、どうか私に力を貸してはもらえないだろうか? 私が立つことで一日も早く混乱を収める事ができるのなら、その責務を果たすべきではないかと……そう思うのだ」

 カイ王子の言葉をかみ砕くような間を置いて。2人は目を見開いて椅子から立ち上がる。

「――御決断なさいましたか!」
「そのお言葉! 待っておりましたぞ!」

 そして口を突いて出たのはカイ王子が皇帝になることを歓迎する言葉だった。
 姉弟子であるセイランも、カイ王子の決断には思うところがあるのか、目を閉じて頷いていた。カイ王子は……やはり緊張していたのか、少し息をついてから言った。

「その言葉に感謝する。諸侯にこの話を歓迎してもらえる、というのは嬉しいが……今の私は何も持たぬ身だ。未熟にして分不相応である事も承知している。至らぬ点があれば是正していきたい」
「何を仰います。カイ殿下を差し置いて我らが主君と認められるような御仁は、他におりませぬぞ」
「その通りです。逆賊の打倒を成した後に訪れる諸侯同士の腹の探り合いであるとか、それに付随する戦乱の世など……考えるだに憂鬱ですからな。逆賊の討伐と共に安定が訪れるというのであれば、これ以上の事を望むべくもなく、領民を抱える為政者であればこそ、歓迎しないものはおりますまい」

 そうだな。安定を目指しているのに更に戦乱に身を投じていかなければならないだとか……少し前までしっかりした王朝の下で領地をまともに治めていた人物ならば頭の痛くなるような話だ。

 戦乱を好機と捉える野心家ならまた受け止め方は別なのだろうが、政治が乱れて機能不全にまで陥れば、領主とて陣営の部下達、領民に家族達といった身近な人々の安全を守ろうと、自衛の努力をせざるを得ない。特にショウエンのように恐怖政治を敷くような輩が上に立ったならば否応もない。

 野心家でなくても……例えば陣営の家臣達に報いるためであるとか、領民の期待や不満に対応しなければならないなど、自分の意思だけではままならない事情とて生まれてくるだろう。

 だからこそ、ショウエンを打倒した後に皆から正統と認められる人物がいるのなら、そしてその人物の人柄が望ましいものであるなら、まともな人物は歓迎もするだろう。混乱が考え得る限りの早期に収まり、元の鞘に戻せる好機であると言えるのだから。何より自身の陣営の存亡を賭けた先の見えない戦いになど、身を投じなくてもいい、というわけだ。

 いずれにしてもシガ将軍とスウタイの意思が確認されたことで、諸侯の足並みは揃ったと言える。
 作戦等々の話を進めていきたいところだが、もう一点。俺からの提案がある。

「――そう言えば、西方では妖魔が多く、その被害を抑えるためにも戦力が必要とお聞きしましたが」

 だからこそ北西部は保有する戦力をまともにぶつけられないと、ショウエンが主戦力を差し向けていないという部分があると、ゲンライ達から聞いている。

「そう、ですな。都市部を守るためには対ショウエン以外の戦力も残しておかなければなりません」
「それを解決するために、我らの陣営もシガ殿と同盟を成し、物資や援軍を送った形ではあります」

 そうだな。そして、この国では魔人がいなかったために結界術が発展していない。対魔人結界ではなく、いざという時に外壁に沿った大規模障壁を展開できるよう仕込んでおけば、妖魔に対しての備えは兵力を抑え目にしても対応できる、というわけだ。そういった内容を口頭で説明する。

「何と……そのような方法が」
「今日は何と申しますか……立て続けに驚かされておりますな」
「実体を持たない弱い妖魔なら常時展開型の結界で都市内部への侵入を防げますし、強固な力を持つ個体、空を飛べる個体も、非常時用の結界を展開すれば弾き返す事が可能となります。足止めした上で消耗させ、反撃の足並みを整えた上で迎撃する、といった対応も容易になるかと」
「それは……素晴らしい」

 問題がないようなら戦力を動かしやすくなるように、都市部に結界を張らせてもらおう。後顧の憂いは出来る限り排除しておいた方が良いからな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ