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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外235 北西での再会

 地図を見ながらゴリョウ達と話をしていると、外の景色も変わってくるのが分かった。
 比較的開けた街道の周辺は背の高い木々が少なめで、草原の他にも荒涼とした平野が広がっていたりする。緯度と標高が少し高めだから、というところか。
 妖魔の類も多いという事で精霊の動きも活発だ。やはりヒタカと同様、よく分からない形、種類の姿をしているものが多い。

「この国の小さな精霊は……ヒタカノクニのものとはまた少し違う感じがしますね」
「ほう。目で見えるとそういうところが分かるわけか。確かに、こっちの国で連中の力を借りようとすると、気性が荒かったり気難しく感じる部分はあるな」

 レイメイが興味深そうに言う。二国間で跨って仙術を使ったことのあるレイメイならではの意見ではあるな。

「全体的に気性が荒いというのは何となく分かる気がしますね。積極的にこちらに近付いてくるものもいますし……それから、個体としては少ないのですが、こっちを窺っているのに近づいてこようとはしないもの、というのもいます」

 そういう連中は警戒度が高い……というのともまた違うな。そう……相性や波長が合わないから俺に近付いてこないという印象だ。怖がらせるのもなんなのであまり俺からも近付かないようにはしているが。

「山海の精の中には、人が善か悪かを見る者もいる、と言われておるよ。麒麟が善行を積む者や仁君の前に姿を現すのと同じように、悪人を好む精霊や妖魔もおる、ということじゃな」

 と、ゲンライが教えてくれた。
 確かに……麒麟は話に聞いた限りでは、かなり高位の存在でありながらも人の性質をかなり直接的に見ている、という印象があるな。そうなると、逆の性質を持つ精霊、妖魔がいても不思議ではない、というわけだ。
 そもそも、精霊に近しい性質を持つ月の民の、その性質が変じたものが魔人であったりするわけだし。まあ……魔人は人の善悪といった価値観は気にしていないだろうけれど。
 そう……この場合は、どちらかというとあいつらに近いと言った方が良いのかも知れない。

「西国ではそういう精霊が力を持つと……悪魔という扱いになるでしょうか。東国ではあまり区別はしていないようですが」
「オルジウスやグラズヘイムね……。人の心の弱みに付け込んだりするけれど、契約の類は絶対に守る、といった連中だわ」

 ローズマリーが悪魔について簡単に知らない面々に説明する。

「悪魔か……。なるほどのう」

 ゲンライは目を閉じて頷く。
 そんな話をしている内に、やがて目的の都市部が見えてくる。
 ――水晶板モニターで拡大すると、何やら軍の訓練風景が目に飛び込んでくるが。
 都市部周りの平原で、騎馬兵が並んで駆けていったり、歩兵が合図に合わせて隊列を維持したままで左右に分かれたり……見たところかなりの練度だ。

「おお。あれは」

 ゲンライがその訓練風景の中に知り合いを見つけたのか、軽くモニターを操作して拡大。その人物を大写しにする。
 いかつい顔に髭を蓄えた……堂々たる風格の武将、といった印象の人物だ。他の面々より一回り体格が大きく、手にしている槍も、跨る軍馬も相当な大きさだ。

「お知り合いですか」
「うむ。シガ殿じゃな。我らが丁度会いに行こうとしていた御仁じゃ」

 なるほど。彼が北西部の猛将といわれる人物か。尚武の気風の土地柄と言い、いかにもといった雰囲気であるが。

「訓練中のようですが、どうしましょうか」
「ふむ……。シガ殿は寧ろ歓迎してくれるのではないかな?」

 ゲンライが言う。そういう事なら、近場にシリウス号を隠蔽する形で停泊させ、件の人物に会いに行ってみることにしよう。



 近場の山にシリウス号を停泊させて周囲に隠蔽結界を張ってから、カイ王子達と共に、一旦街道へと出てから都市部へと向かって歩いて行った。
 まだ訓練中であったが……兵士達の動きを監督していたらしい馬に跨った武官がこちらの姿を認めると兵士達の一団を率いて近付いてくる。
 ゲンライが大丈夫と太鼓判を押してくれるので、今回は動物組が最初から同行している形だが……。さて。

「これは――ゲンライ仙人ではありませんか」

 武官は先頭に立つゲンライに気付くと馬を降りて、丁寧に一礼してきた。

「うむ。訓練中にすまんのう。勇壮で結構なことじゃな」

 ゲンライも相好を崩して一礼を返す。

「ありがとうございます。ゲンライ仙人にそう言って頂けるとは」
「シガ殿に会いに来たのじゃが……今は大丈夫かの?」
「はっ。将軍もきっと喜ばれることでしょう。案内致します」

 武官は一度兵士たちの方を振り返ると、声を張り上げる。

「お前達! 俺は大事なお客人を案内してくるが、このまましっかりと訓練を続けるように!」
「はっ!」

 そうして武官は馬から降りたまま手綱を引いて、訓練を続けている兵士達の間を先導して主君のところまで案内してくれた。
 ゲンライは北西部では他の地域に輪をかけて有名、ということなのか。兵士達から尊敬の眼差しを向けられたりしているようである。
 まあ、北西部だと妖魔との戦いも多いらしいし、そういう意味でもゲンライが尊敬を集めると言うのはわからなくもない。

 先程シリウス号で見た時は外で全体の指揮を執っていたシガであったが、今は簡易に作られた訓練用の陣の、天幕の中にいるらしい。

「シガ将軍に取り次いで欲しい。ゲンライ仙人がお見えになられた」
「はっ!」

 天幕の入り口の兵士はそう言って中に入っていく。そうしてすぐに天幕の中からシガ将軍が出てくる。

「おお……これはゲンライ殿! それにお二方も……! よくお出でなさった! 歓迎いたしますぞ!」

 と、天幕の中からシガ将軍本人が姿を見せる。

「元気そうで何よりじゃ」
「ご無沙汰しております」
「お久しぶりです」

 ゲンライとカイ王子、リン王女が笑みを浮かべて挨拶をすると、シガ将軍はいかつい顔に嬉しそうな笑みを浮かべる。

「どうぞ、奥へ。この時期にお出でになられたのは僥倖です」

 豪快そうな第一印象であるが、気さくでもあるようで。ゲンライやカイ王子達の同行者ということで、俺達の素性を聞くより前に、明るく笑って天幕の中に迎え入れてくれる。同行している動物組を見ても然程動じないあたり、妖魔に慣れているのか、そういう豪快な性格なのか。

 天幕の中には他にも数人の人物がいて――。

「おお。御無沙汰しております」
「これはゲンライ師父。カイとリンも一緒なのね」

 そう言って拳と掌を合わせて一礼してくる身形のよい人物と、にっこりと微笑む若い女性。

「南西部を統治しているスウタイ殿と……私の姉弟子のセイランだ。この土地に来ているとは思わなかった」

 と、カイ王子はその2人にも挨拶した後に、俺に教えてくれた。南西部のスウタイなる人物は……その腹心の重鎮がカイ王子と知己のあった、ということだったか。
 それから、セイラン。あちこちで調整や連絡役として動いている、ゲンライの門弟の一人、ということになる。

「セイラン……!」

 リン王女が嬉しそうにセイランの所へ駆けていく。それを嬉しそうに両手を広げて迎えるセイランであるが。何となくマルレーンと巫女頭のペネロープの関係を連想する光景である。リン王女も心を許している相手、ということか。

「セイラン殿が色々と我らの間を動いてくれましてな。信頼の証にと、スウタイ殿自らが物資と援軍を連れてきてくれたという次第です。合同訓練を行い、指揮系統の合図を統一しているところですな」

 シガ将軍がそう言って、現状を掻い摘んで説明してくれた。なるほど……。こちらはこちらで対ショウエンの準備を着々と進めていた、というところか。

「しかし、そちらはまた、人が随分と増えましたな。何と申しますか、頼もしそうな顔触れがご一緒の様子」
「ええと。連れているのは霊獣の類……かしら?」

 セイランが動物組を見て首を傾げる。コルリスとティールが揃って掌と拳を合わせて一礼すると、セイランは驚愕に目を見開いていたが、すぐに楽しそうに笑って一礼を返していた。

「ふむ。こちらも色々と積もる話があるのじゃが……。自己紹介を先にするとどうしても長くなるし、話が横道に逸れたりしそうじゃからのう。ガクスイ殿とホウシン殿の同盟が成立した、ということは先に伝えておくか」

 ゲンライが一瞬、レイメイをちらりと見やった。
 まあ、そうだな。俺達の紹介が終わらないとシリウス号も交えた作戦も伝えようがないし、この土地だとレイメイ大王も有名だから、どうしても話が脱線してしまうか。
 当人であるレイメイは……今後の展開を予想してか、目を閉じてがしがしと後頭部を掻いていたりする。その傍らで御前とオリエが楽しそうににやりと笑っていたり、ツバキとジンが苦笑していたりする。

「おお、それはめでたい!」
「では……いよいよあの逆賊めに一泡吹かせることができそうですな……!」

 ゲンライの言葉を受け、シガ将軍とスウタイが笑顔で言う。西部とは元々話がついていたというのもあり、腹の探り合いもないようで。中々和やかな雰囲気だ。
 では、俺達の自己紹介もしていくか。この顔触れなら作戦についても伝えられるだろうしな。
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