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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外234 北西部へ向かって

「甘いと思われるかも知れないが……2人の拘束と術を、外してやってはもらえないか?」

 と、艦橋に2人を連れて戻ってきたカイ王子が言う。密偵の2人は自分の乗せられている乗り物が空を飛んでいるということを、水晶板から見える光景で理解したのか、随分驚いたりしている様子であるが……。
 そうだな。カイ王子が信じる、というのなら、その決断を尊重するだけだ。一度ショウエンに裏切られて命を落としかけたカイ王子だからこそ、その言葉は軽くはないだろうから。

「分かりました」

 そう言ってマジックサークルを展開。手を翳すと2人の身体に装着されていた拘束ゴーレムが外れ、光の鎖が崩れるように空中に散っていった。

「これは……」

 戻ってきた力に目を見開いて手を閉じたり握ったりしている2人である。それから感無量といった様子で跪いて掌と拳を合わせ、カイ王子や俺に礼をしてくる。

「信頼の礼はこれからの働きにて……!」
「必ずやこのご恩、お返し致します……!」

 と、そんな風に言っていた。俺とカイ王子が頷いて応じる。

「ふうむ。もうカイにもリンにも儂が教える事は無いのかも知れんのう。弟子の成長が目に見えるというのは嬉しい」

 ゲンライがカイ王子とリン王女を見て、相好を崩す。

「何を仰います。私はまだまだ自分の力不足を痛感することばかりです」
「ふふ。仙人となるための修行というのはな、己が歩むべき正しき道を見出すまでの手段、歩き続けていくための助けに過ぎんのじゃよ。無論、まだ術が必要な状況であるから伝えられることは伝えるが、それは最早いかなる奥義とて枝葉に過ぎぬ、と儂は思っておるよ。寧ろ、仙人となろうと修行を長々続けておる儂の方が愚かなのかも知れんぞ」

 そんなゲンライの言葉に、カイ王子は少し驚いたような表情をし、何かを感じ入るように目を閉じる。リン王女も真剣な面持ちでゲンライの言葉に耳を傾けていた。
 レイメイと再会した時にも、そういう話をしていたな。いずれにしてもゲンライはカイ王子達の成長が嬉しくて仕方がないという印象だ。

「人の心というのは……不思議だ。決心や決断を、する。そこだけを見るならキショウの時と同じなのに……向いている方向によって……まるで違って見える。どんな魔よりもおぞましくもあり、同時に星空よりも美しい……」

 と、サトリはカイ王子達や密偵の2人を見て呟くように言う。そうして何やら満足したようにうんうんと頷くと、今回は自分の仕事はない、というように椅子に座ってティーカップを傾けたりしていた。

「どうかな、サトリ殿。彼らの自己紹介が終わったら一局」
「……付き合おう」
「次は儂ともな」
「うむ……」

 と、鎌鼬達とチェスを差し始める準備までしていたりと、中々に上機嫌な様子だ。
 サトリからは……タームウィルズに滞在していた折、自分の読心能力を一時的に封印しておける魔道具を作って欲しいと頼まれた。
 これは封印術の応用で割と簡単に作れる類だ。サトリ以外には使用できないよう契約魔法も組み込まれている。

 これにより、能力を任意で完全なオンオフを行うことが可能となり、人ごみの中に紛れても他者の思考に煩わされることがなくなり、チェスやカードのようなゲームもみんなと一緒に楽しめるようになった、というわけだ。
 特にチェス等のゲームが楽しめるようになったのは気に入ったようで、相手の考えが分からないことを楽しく感じるとは思わなかったと、言っていたが。やはり、読心できてしまうが故の悩みというものはあるのだろう。

 さて、密偵2人もカイ王子の家臣という位置付けになったからには、これからは仲間ということになる。自己紹介やら事情の説明、現在進行中の作戦等々、話をしておく必要があるだろう。

「私はゴリョウと申します」
「コウセツです」

 と、2人は名乗る。ゴリョウとコウセツね。
 ではこちらも自己紹介をしてから、色々と事情説明をしていくとしよう。



「……何と申しますか。ここ最近になって凄まじい状況変化が起きていたのですな。これまでの舞台裏で起こっていたことも驚きですが……」
「しかも姿を消して進む、空飛ぶ船……。これでは……普通の諜報活動では対応できないでしょうな。情報を伝達するまでに、状況がまるで変わってしまう」

 色々聞いた2人は少しの間言葉を失っていたようだが、やがて気を取り直すようにかぶりを振ってからそんな風に言った。

「まあ、そのあたりの優位性を前面に出していこうかなとは考えているけれど。2人の知っている情報で、何か作戦に組み込んでいけそうなものはあるかな?」

 そう俺が尋ねると、2人はしばらく考えていたようではあるが、やがてゴリョウが何かを思いついたように口を開いた。

「地図は……ありますか? 前王朝からの情報なので、古くて役に立たない可能性はありますが……」

 ……とのことなので、星球儀から改めて紙に模写した地図を用意する。色々書きこんで作戦を立てたりするのに便利な品だ。

「これはまた……随分と精密な地図に見えますが」
「正確性は高いかな。地形を把握する手段もあるから、それに合わせて描いた地図だね」
「なるほど……。ええと、私達が知っているのは輸送等の兵站に関する内容です。ショウエンがそのあたりの再編に手を付けていないなら、相手の補給路を押さえる事も可能かと存じます。我ら2人で情報を確認し合えば、精度も高くなるかなと」

 それはまた……かなりの重要情報だ。物資が敵に押さえられたら軍隊は機能しない。兵站が上手くいかないという、ただそれだけで実際に交戦しなくても士気に影響を与える事も可能だ。

「仮に再編を進めていたとしても……既に出来上がっている組織を引き継いだわけでしょう? そこから大きく形を変えるのは難しいのではないかしらね。地形や兵科を大幅に変えたりしているならともかく」

 ローズマリーが薄く笑って言う。そうだな。確かに大きく変更を加えられるような内容でもあるまい。

「特にショウエンは、敵対する諸侯を相手にするのに本腰を入れていない感じがするからな。いざとなれば自分達が前に出ていけば何とでもできると思って侮っているのか、それとも何か理由があるのか……」
「ん。ショウエンは権力闘争を勝ち抜いている。単純に情報戦を軽視している、というわけでもなさそう」

 シーラが言った。そうだな。それは同意見だ。

「確かに……宮中で上り詰めたのなら、そのあたりもやろうと思えばできるんだろうけど」

 しかし、皇帝に即位してからは、敢えてやろうとしていない。
 時間や人材が足らないからか。それとも権力を手中にしてしまった今、いざとなれば武力だけで解決できるからそちらにリソースを割くつもりがないのか。リソースというなら、始源の宝貝が眠っている墓所の封印を解くことに注力しているから、という可能性もある。

 忠誠度が低いと分かっている諜報部隊をそのまま流用したり、権力を手に入れても私腹を肥やしたり贅沢することが目的ではないだとか……。そうなると始源の宝貝を手に入れたとしても、それで何を目的として動いているのかが見えていない部分もあるな。
 諸々はっきりしない部分に対して予測を立てるだけならいくつか可能性も考えられるが、現時点ではやはり、推測の域を出ない話でしかない。

 とは言え、いずれにしてもゴリョウ達の持っている前王朝での兵站に関する情報というのは、役立てられる公算が大きそうだ。

「ところでこの船は今、どこに向かっているのです?」
「今は北西部へ向かっているところだね。ガクスイ陣営、ホウシン陣営の同盟成立の旨を伝える予定になっている。後は南西部にも向かって情報を共有、諸侯の情報連絡を密にして、ショウエンに対抗していく、と」
「なるほど……」

 北西部を治める将軍はレイメイに妖魔から助けられた人物の子孫だという話だったな。ゲンライやレイメイに対しては最初から好意的。妖魔との戦いも多いのでかなり尚武の気風が強い土地、という話らしい。
 ガクスイやホウシンの陣営と違って、既にカイ王子は協力を取り付けている相手であるからして、俺達のすることも少ない、とは思う。さて。どんな人物と会うことになることやら。
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