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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外232 捕虜と王子

 城での宴席も控えているが、シリウス号側の事が気になる。一先ず荷物を置いたりして来るからと言ってシリウス号に向かい、そうしてオリエの捕らえてきたショウエンの密偵を確認してみることにした。
 2人組の男達だ。こう……爪先から口元に至るまで、見事に糸でぐるぐる巻きにされて艦橋に転がされていた。

 くぐもった声を上げて体をくねらせ、何とか闘気で以って脱出できないかともがいている様子だったが……どうにも糸が強靭で脱出できずにいるらしい。糸に対しては随分抵抗したのか、脂汗をかいたりして、疲労困憊の様子だ。
 まあ……そうだな。蜘蛛型の魔物にここまで仕上げられたら肉体的な力での内部からの脱出は不可能、というのは西方の冒険者達の共通認識だ。ましてや大妖怪の糸では。

「ふむ? 脱出できないと思って先程までは大人しくしていた様子だったのだがな。何故だか急に暴れ出した」
「先程の……戦いぶりを見ていた、のだろう? テオドールを、怖がっている……のではないかな……?」
「あー……」

 首を傾げるオリエに、サトリが密偵達の心中を教えてくれた。思わず気の抜けた声が漏れる。
 サトリの言葉が推測の形になっているのは連中も会話の内容が聞こえる位置にいるから、読心が可能という手札を伏せておくためだ。
 しかし、心外だ。捕虜として無力化した相手に、無意味な攻撃を加えるつもりはない。
 とは言っても、相手は俺の事などキショウとの戦いでしか知らないわけだし、こちらの胸先三寸で命がない、ともなれば怖がるのも分からないでもないが……。
 だが一旦抵抗を諦めていたのに、俺の顔を見た途端にというのは……やはり心外である。

「いや……なんだ。そういう心配はいらない。抵抗や逃亡をしようとしなければ、痛めつけたり、拷問したり、殺したりするつもりはない。そこまでは良いかな?」

 そんな風に言い含めるように伝えると、連中はこくこくと頷く。

「だけど、逃亡防止の拘束は解けないし、事情を知った以上は当分解放するつもりもない。それも分かるな?」

 仮にも密偵などという任務についているわけだし、この辺も理解してくれるだろう。

「こちらとしても、ただ捕虜にしておくのは手がかかって面倒だしな。ショウエンなんかに従う理由が、仕方がないと思えるものであるとか、聞いたことに対して正直に情報を提供してくれるのなら……こちらもその後の対応を考えるぐらいの用意はある」

 いわば取引の持ちかけ、に近いところがある。2人は俺の言いたいことを理解したのか、また首を縦に動かしていた。

「一先ず、もう少し身動きできる程度に拘束は緩めるけれど、そうするには無力化をさせてもらう必要がある。命に危害を加えるための術じゃないから心配はいらないが……術を受け入れずに抵抗するようなら当分そのままだと理解してくれ」

 そう言って、2人が了解したという仕草をしたところで、それぞれに封印術を用いる。光の鎖が巻き付いて、その能力を封じる。光魔法ライトバインドで改めて拘束をし、それからオリエに糸を外してもらう。少し驚いた、というような表情。
 こちらが口にしたことは違えずに履行することで、向こうからも正直に話してもらえるように、というわけだ。どちらにしてもサトリがいるから、隠し事は無理なのだけれど。

 さて。先程も連中に言った通り、梱包した状態で捕虜として置いておくには、食事を始めとした色んな場面で些か手がかかる。
 そこで、長期間船倉で捕虜を預かっておかなければならない状況でも手がかからないような方法が欲しい、というのが……今までの反省ということで、ちょっとした課題としてアルフレッドの間で話として出たのだが……。

「マリー。拘束用ゴーレムの魔道具を」
「ええ」

 ローズマリーが魔法の鞄から球体を取り出してくれる。魔石とゴーレム制御用のメダルが組み込まれた球体だ。
 魔石からの魔力供給だけでなく、対象者の魔力を利用して封印術の維持やゴーレムの構成維持をする作りになっているのは今までの通り。
 みぞおちの辺りに球体を触れさせ、起動術式を展開させると四肢や背骨に沿って土塊が巻き付くように伸びていく。

「な、何だ、こいつは……!?」

 要するに装着するゴーレム。用途は逆パワーアシストアーマーとでもいえばいいのか。装着者が契約魔法で組み込まれた禁止事項――破壊行為、逃亡、自傷行為等々を行おうとすると関節等を固めたりして行動不能にする、という具合だ。

 逆に食事等々は自力で問題なく行えるようになっているので捕虜にしておく側としては全く手がかからないという寸法である。封印術とのセット運用でこそ効果がある代物なので、普及等は全く考えていない。
 まあ、捕虜になる側としても全く身動きが取れないよりは多少の快適さもあるだろう。

 2人に拘束用ゴーレムを装着させると、命令を下す。

「よし。立て」

 ゴーレムが下された命令を実行する。怪我を防止するために緩慢な動きだ。2人が立ち上がる。

「こ、こいつは……」
「命令に従って動くようになっている。日常生活では、ある程度の自由も利くけれど、逃亡や破壊行為、自傷はできない。不満はあるとは思うけどな」
「少々不気味だとは思うが……まあ、枷や鉄球の類を付けられるよりは大分まし、だな。動きに逆らわなければ付けられてる感じがしないというか……」
「枷か……。あれは手首や足首が擦れて痛くてかなわんからな……」

 2人は枷を着けられた事がある、ということか。顔を見合わせてそんな風に言う。

「それじゃあ後で話を聞くから、しばらく船倉に入っていてくれ」

 そう言って第二船倉まで一緒に付き添う。食糧と水を船倉に置いておけば、後は外から扉を閉めておいても特に問題は起こるまい。静かにしてくれているなら、暇潰しにカードを差し入れたりしても良い。

「どうだった?」

 艦橋に戻ってきたところでサトリにそんな風に尋ねてみる。

「……前王朝からの諜報部隊……が、そのまま残された形……らしい。ショウエンに逆らう力もないから、従っている……ようではあるな。秘密を守るために自死……というところまでは考えていないようだ」
「……仙人や道士と、諜報部隊では求められる能力が違うものね。自前では各地の情報を集めるには人数が確保できないし替えも利かないからそのまま使っていた、というところかしら」
「それは……あまり無碍な扱いはしたくない人達ですねぇ」

 クラウディアが目を閉じて言うと、コマチも腕組みして眉根を寄せる。マルレーンやリン王女、ユラも揃って頷いていた。

「そうですね。嬉々として従っているわけではないのなら、とは思います」

 と、グレイスも真剣な表情で頷く。
 確かに。なるべく温情のある沙汰をとも思う。敵はあくまでもショウエンと、その側近達だ。末端を痛めつけても意味はない。
 ショウエンに対する忠誠が低くて報告がおざなりだとしても、キショウの捕縛のような出来事は流石に伝達しないというわけにもいかないだろうし、あのタイミングで動いたというのは、まあ、理解できる。報告するべき仕事をしていないとなれば自分達の身が危ういだろうしな。

「そういうことなら、少し危険性はあるにしても、私から身分を明かして説得してみようと思うのだが」

 カイ王子が胸に手を当てて、そんな風に言った。

「長たる者としての温情か。うむ」

 そんなカイ王子の言葉に、オリエが満足そうに頷く。

「それは……いいかも知れませんね。味方になってくれる可能性も十分にあるかと」

 そう考えるとこちらの戦力や術式等々を色々見せることができたというのは大きい。彼らとて、勝てる公算があるとか賭けるに値するとか思わなければ、ショウエンに対抗しようとは思わないだろうからな。



「――皆も知っての通りだ。我が陣営よりキショウめが、あろうことか逆賊ショウエンに寝返ろうとした。その謀反人を制圧した顛末は、そなたらが目にした通りである……!」

 城の広場に将兵達を集めたその前で、ガクスイが身振り手振りを交えて口上を述べる。

「我が陣営に志無き者がいたのは実に残念なことだ。だが……しかし、我らは共に肩を並べてショウエンと戦ってくれる、信頼できる盟友を得た! そしてギホウ――彼の者は危険を顧みずにキショウの陰謀を暴いたのだ! 忠義の志を胸に抱く、誇り高き武人が我が陣営にいる事を示してくれた!」

 湧き立つ将兵達を見回し、ガクスイは酒杯を掲げる。

「ならば、我らは最早迷うこともない! 全ては逆賊ショウエンを打倒するために! 我らが盟友やホウシン殿と力を合わせ、前に進んでいく時である! 同盟の勝利を願い、ここに宴を開こうではないか! 盟友と忠義の士との絆と誇りに! そして我らが勝利に!」
「絆と誇りに! そして我らが勝利に!」

 そう言ってガクスイと将兵達が一斉に酒杯を呷り、宴の席は始まったのであった。
 広場が見える場所で、俺達もガクスイやオウハクといった側近や、ギホウを交えて会食である。ちなみに……イチエモンもまた姿を変えてしっかりと宴席に参加していたりする。今回は色々動いてもらったからな。

「随分な盛り上がりようですね」

 と、嬉しそうに酒杯を重ねている兵士達を見てアカネが微笑む。

「将兵達としては、ショウエンを相手に厳しい戦いになるか、或いは我慢を強いられるかという……どちらかになると予想していた部分がありますからな。そこに思わぬ援軍が現れ、ホウシン殿との同盟も成ったとなれば、盛り上がろうというものです」

 オウハクがその光景を見て満足げに笑いながら言った。

「鬱屈としていたところに、というわけね」
「それは確かに、兵士達も気合が入ろうというもの。気持ちは分かりますぞ」

 ステファニアが兵士達を見て微笑み、イングウェイがうんうんと頷く。兵士達からはガクスイや俺達、それにギホウの功績を称える声が聞こえてくる。

「何というか、こうしてみんなが称賛してくれると、色々自制心を保つのに苦労しそうですな。こっちの席で食事をしているのも妙な気分ですし、慢心して失敗しないようしないといけませんな」

 と、ギホウが苦笑する。

「ふむ。そなたはキショウの失敗を見ておるし、私としてはそこまで心配しておらぬが」
「はっ。信頼を裏切らないようにしたいと思います」

 そうして料理が次々と運ばれてくる。奏でられる二胡の調べと兵士達の笑い声。動物組もそれぞれに食事中、と。中々に賑やかな雰囲気だ。

「ん。料理も美味しいけど、あの楽器も気になる」
「ああ。香鶴楼でも聞こえてきた楽器よね。私も気になってたの」
「私も! 香鶴楼だと、色々あって聞きそびれちゃったけど」

 シーラとイルムヒルト、セラフィナが二胡を演奏する女性の楽士を見て言った。

「興味がおありですか」
「ん。私達も演奏をしたりする」
「ほう。それは興味深い」

 シーラの言葉にオウハクが相好を崩す。

「城に予備もありますから、もしよろしければ楽器も差し上げますぞ」
「ありがとうございます。それでは、こちらの持ってきた楽器との交換ということで」

 これに関しては後で実演する、というのも良いだろう。そんな調子で和やかに宴の夜は過ぎていくのであった。
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