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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外231 主従と信頼

「眠れ」

 戦意を喪失した連中にはスリープクラウドを用いてやる。戦意を喪失しているような状況だと魔法への抵抗もないので簡単に眠りに落ちていった。
 後は封印術を叩き込んで梱包。いつも通りだ。ただ、連中が無力化された事をしっかりと示さなければならないので、搬送中も顔は出しておく形である。ヨウカ以外の連中は作戦の内容を知らない、ということもオリエ達の糸による諜報で分かっているから、別に何を喚かれたところで問題もない。

「怪我は――大丈夫そうかな」
「はい。私達は問題ありません。武官の方々が少々の傷を負いましたが、これは遠距離からの治癒魔法でも大丈夫だったようです」

 状況を報告してくれるアシュレイに笑みを向けて頷く。
 キショウとその手勢達相手ではまあ……結果から見ても相当な戦力差がある。戦いというよりは謀反人の制圧といった方が正確だったかも知れない。

「ティールもオボロも、お疲れ様」

 そんな風に言うと、ティールは嬉しそうにフリッパーをパタパタとさせながら声を上げ、オボロもにやりと笑って尻尾をぱたぱたと振る。そんなティールとオボロの反応に、グレイス達が微笑ましそうに相好を崩す。
 模擬戦闘というのは訓練の一環として何回か行っているが……訓練ではない本当の実戦で通用してしっかり結果を出せた、というのは自信にも繋がるからな。そういう意味ではキショウは手頃な相手だったと言える。

 まあ、それはさておき……この国の国内事情から見てもキショウの一件を迅速かつ完璧に近い形で解決する、というのは重要な事だった。対ショウエンに向かっていく事を考えても、キショウが抜けた穴を補って余りある結果を示しておかなければならないからだ。

 その観点で今回の結果を見れば……全員殺さない程度に加減しつつも戦闘力は確実に奪っての生け捕りだ。これは実力差が十分になければできない。制圧も短時間で済ませることができたということで、求められる水準は満たした、と言って良いだろう。

 キショウの一件が解決したことで、実際に軍を動かすにしても横槍や小細工が無くなるだろうしな。キショウが抜けても十分な戦力があることも示せた。これで士気が向上するなら良いのだが。

 残りの連中に封印術をかけて回り、ステファニアやコルリスと手分けして土魔法で固めて梱包。封印術の紋様魔術もしっかりと刻み、搬出しやすいようにゴーレムで規則正しく積んでおく。

「抵抗や逃亡はさせない、ってわけだな」

 梱包を見たレイメイが感心したように呟く。

「目的としてはそうなりますね。仮に別働隊の仲間がいたとしても救助が難しくなりますし、蓋を被せれば荷物のようにして秘密裡に。蓋を被せず顔を出しておけば、街中で捕縛した事を周知しながら安全に運搬できる、というわけです」
「なるほど。見た目は奇妙じゃが……よく考えられておるのじゃな」

 と、ゲンライが顎髭に手をやって唸る。そんな二人の反応にこくこくと頷いているコルリスであるが。
 そうして手勢達の梱包が終わったところで屋敷の中に敵残党がいないかライフディテクションで確認。キショウの屋敷の使用人等々の非戦闘員は大人しく従っている感じだ。こちらとしても手出しするつもりはないし。

「問題なさそうだ。外壁も取っ払って大丈夫かな」
「では、氷は退かして、増水しない程度の勢いで川に流しておこう」

 と、御前が言って、早速アシュレイやラヴィーネ、ティール達と共に外壁を解体する作業に向かう。
 端から水に戻って御前の目の前で巨大な水球になっていく。水の帯が伸びて川に向かって流れ込んでいた。

 後はまあ、兵士達の手で牢屋に搬送してもらえばいい。多くの人目に晒す形になった方が事件とその解決について周知できるし。

「いやはや……すさまじいものを見せてもらった。テオドール殿の術もそうだが……奥方殿や使い魔達さえもあれほどとは――」

 安全が確保されたところで、クラウディア達、後衛に合図をするとガクスイが敷地内にやってきてそう言った。

「確かに、派手にとは仰っておりましたが、予想の遥か上を行きましたな」

 と、戦闘に参加したオウハクや隊長達も随分驚いている様子だ。

「西方の魔法と空中戦の技法……。いい勉強になります」
「ふむ。明日からの修行も身が入るというものじゃな。あれでまだまだ加減していたように見えたのじゃから底が知れんわい」
「世界ってのは広いってこったな。儂もこの歳になって血が騒ぐとはな」

 カイ王子の言葉にゲンライが相好を崩し、レイメイもそんな風に言って肩を震わせる。ツバキとジンもレイメイの言葉に苦笑しながらも同意するように頷いていた。

「さて、ギホウ隊長。そなたにはこれからの話をしておきたいのだが、構わぬか?」
「はっ」

 ガクスイの言葉に警備隊長――ギホウが折り目正しく返事する。

「そなたはこの喫緊の事態において忠義の心を失わず、状況を見て冷静かつ適切な対応をとった。その事を私やオウハクは、非常に高く評価している」
「も、勿体ないお言葉です」
「そなたの忠義と功績に報いるは当然として、だ。私としてはそなたを将軍格の武官として取り立てたい、とそう考えているのだが、どうかな?」
「お、俺――いや、失礼しました。私が将軍、ですか?」

 ギホウ隊長は突然の話に目を白黒させているが。
 なるほど。隊長は確かに、これまでの経緯から見ても信頼にしっかり応える人物であることは間違いないだろう。部下からも信頼されているし、事件が起きてからの判断力や対応、それに実際の武芸を見ても申し分ない。
 キショウが抜けた分の穴埋め、としては補って余りある人材だ。それに、カイ王子とも面識があるしな。後々の事を考えれば、という部分はあるだろう。

「流石に一足飛びに、とはいかぬがな。オウハクの下で軍を束ねる勉強をして、それからという話になる」
「今回の事が無くともガクスイ殿や私は、お前に期待をしていたがな。カイ殿下やゲンライ殿の事もあり、状況が落ち着くまでは警備隊を任せていた。事態が解決すればそこで取り立てられていたというのは間違いない」
「そこで今回の事件だ。そなたの取った対応は、有事の際の動き方として感心できるもので、結果を見ても重用するのに申し分ない働きだったということだ」

 と、ガクスイとオウハクが笑う。

「はっ、も、勿体ないお言葉に御座います!」

 ギホウ隊長は嬉しいというより、出世すること自体に緊張している印象が強いが……それは将軍格の武官になる事で生じる色々な状況を想定しての、責任感の現れということなのだろう。嬉しさより先に職務の事を考えるあたり、確かに期待できそうな人物だ。

「うむ。良い返事だ」
「おめでとう、ギホウ殿」
「ありがとうございます、カイ殿下」

 キショウの失脚と、ギホウ隊長の出世か。
 キショウの裏切りはガクスイの陣営の士気を下げるような悪報であったが、ギホウ隊長の取った行動やそれに伴う功績や出世というのは良いニュースだな。

「テオドール殿は、この後はどうなされるのだろうか。できることなら我が陣営の危機を救った英雄殿ということで、宴の席に顔を出して欲しいところではあるのだが」
「そうですね。少し相談してみましょう」

 そんなわけでカイ王子やゲンライと、今後の予定を話し合う。

「裏切り者を鎮圧したことを周知する、という意味なら、それも良いのではないかのう?」
「作戦の目的にも沿うものであるからね。もう日も暮れている。シリウス号での移動は速いから、今から向かっても到着する時間があちらにとって都合が悪くなってしまうのではないだろうか」

 そんな返答が帰ってくる。確かに、日が暮れた今からシリウス号で西に向かうと、夜にあちらの陣営に到着してしまうことになって、印象も良くないだろう。
 どちらにせよ2人としても問題ない、というわけだ。では――。

「日が明けてから改めて出発しようと考えています。宴席があるということでしたら、喜んで」
「おお、それは喜ばしい」

 2人と頷き合ってから、ガクスイ達に向き直ってそう告げる。ガクスイは嬉しそうに相好を崩すのであった。

 と、そこで小蜘蛛達から連絡が入る。

「ショウエンの密偵を発見」
「二人組。本国のショウエン様に今回の騒動を報告とか何とか言ってた」
「もうオリエ様が糸を飛ばして捕縛した」

 そんな風に艦橋にいるバロールに話しかけてくるカリン達である。そこに誇らしげな笑顔でオリエが艦橋に戻ってくる。糸でぐるぐる巻きになった連中を蜘蛛足で小脇に抱えての登場であった。

「ふふん。愚かな奴らよ。我の糸の結界内で迂闊な会話をすれば、見逃すはずもあるまい」

 これはまた。キショウ捕縛を派手に行ってやれば、密偵が都市内部にいた場合、それで動き出すかもと予想はしていたが。それで今回はシリウス号を作戦に参加させず、手札としては伏せていたというのもある。
 しかしこちらもしっかり仕事をしてくれたようで、密偵を炙り出して捕縛できたあたり大収穫だ。
 まあ、実働部隊である密偵がどれだけ情報を持っているか分からないが……サトリがいれば情報を引き出し放題だし、この連中についてはシリウス号側で捕虜にさせてもらうとしよう。
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