挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

980/1241

番外229 報告と代償と

「キショウの奴、何だか自分の屋敷に昔からの手下を集めてるみたいですよ。あちこちに声をかけて探しては呼び寄せてます」
「……なるほどな。ま、城にはいないって言うなら、こっちとしては動きやすいが」

 と、警備隊長とその部下が会話を交わす。
 イチエモンは宿屋へ。都市内部は糸の監視網内部にあるので状況がどう動いても把握できるのでカドケウスの行動にも自由が利く。というわけで姿を隠しつつ、警備隊長を陰から身辺警護する形で城へ。
 それを艦橋から見守っている、という状況だ。

「やはり隊長は信頼できる人物でしたね」
「兄上にも親切にしてくれた人なの」

 俺の言葉にリン王女がにこにこと頷く。
 キショウは現在自分の屋敷で手勢を集めている。隊長はキショウが所在を確認した上で城に向かったわけだから、奴に恩を売ろうなどと考えていないのがこの事からも分かる、というわけだ。密書をガクスイに届けようとしてくれているのは間違いないだろう。

「部下達も問題ないな。命令通りに動いている」
「隊長に人望があると部隊も規律正しくなるものだものね。これなら足止めをしたりする必要もなさそうだわ」

 オリエの教えてくれた情報にステファニアは嬉しそうに笑う。ステファニアとしてはゲオルグ達を連想するところがあるのかも知れないな。キショウ達のような連中を見た後だと、隊長達の実直な仕事ぶりと対応は見ていて小気味良いし心強くもあるし。

 その隊長はと言えば……登城すると早速ガクスイ殿に取り次いで欲しいと、城の警備兵に話をしていた。

「いきなりどうしたんだ。お前、持ち場は?」

 と、城の警備兵は隊長が持ち場を離れている事を訝しく思ったのか、そんな風に尋ねてくる。

「いや。北の街道沿いに山賊の類が出たって情報を聞いてな。ショウエンが兵を使って組織的にやらせてるって噂もあるだろ? ちょいと気になる情報を聞いたんで、報告に間違いがあっちゃいけないから直接お耳に入れておこうと思ってな」
「なるほどな……」

 城の警備兵も隊長とは面識があるし、信頼もされているようだ。隊長としては直接ガクスイに話をするために考えた方便なのだろうが……特に言い分を疑われるような事もなく、城の一室で待っているようにと言われて奥へと通されたのであった。

 隊長は案内してくれる女官に愛想良く笑ったりと、平静を装っていたが、やはり内心では気を張っていたのか、部屋に通されて1人になると密書を入れた懐を確認してから、安堵したように大きく息を吐き出していた。そうして気持ちを落ち着かせるように2度、3度深呼吸をし、自分の頬を両手で軽く叩くと、表情ももう決然としたものになっていた。

 やがて、隊長の待っている部屋に、ガクスイとオウハクが揃ってやって来る。隊長は立ち上がると、恭しく拳と掌を合わせる礼をしていた。

「おお。どうした。山賊についての情報を手に入れたと聞いたが」
「いえ……。賊……には違いないのですが、伝えたい事は違うのです。まずは……これをご覧ください」

 そう言って懐からキショウがしたためた密書を取り出す。ガクスイとオウハクは揃ってそれに目を通し――柔和な表情が揃って険しいものになっていった。

「……どこでこれを?」

 ガクスイが尋ねてくる。

「はっ。北門の警備中、旅の薬売りが街道の近くに怪我人がいると知らせてきたのです。救助したくとも、自分一人の手に余りそうな状況なので、と言っていました。私は部下を連れ、薬売りの案内を受けて現場へ向かいました」

 と、隊長は密書を見つける事になった経緯を最初から説明していく。
 現場に到着すると地下に空洞があったのか、地面が崩落していた事。馬ごとそこに誰かが落ちて気を失っていた事。その人物がヨウカだった事。
 そして、助け起こそうとした時にこの密書を見つけた事等々……。

「私が先行して穴に降り、助け起こそうとした時点で密書を発見したため……部下達には密書の内容は伏せることができました。ヨウカは意識が戻らないため、拘束した上で誰か分からないよう、頭に麻布の袋を被せて牢屋に入れておきました。救助を依頼してきた旅の薬売りに関しては……状況から見て密書への関与は薄いと判断しました。事を荒立てないために、宿泊する宿を確認した上で宿の外に見張りをつけております」
「素晴らしい。良い判断だ」
「い、いえ。恐縮です」

 オウハクの言葉に、隊長は居住まいを正す。密書が気になるのか少しだけ視線を向けたが、詮索するのは自分の仕事ではないと思ったのか、キショウが今屋敷で忠実な部下を集めているという旨を伝え、報告に関しては以上です、と言葉を締めくくる。

「全く……。何という事だ。キショウめ」
「父君は立派な武人だったというのに……」

 かぶりを振るガクスイと、ため息を吐くオウハク。そして顔を見合わせ、頷くと言った。

「これは……隊長にも話を聞いてもらった方が良いであろうな」
「確かに。事情を知った上で動けて信頼もできる、などという人員はこの状況では貴重ですからな」

 そうしてオウハクはにっこりと笑って隊長に言う。

「というわけだ、隊長。重要な報告を終えて肩の荷が下りたところで悪いが、これからまだ色々と動いてもらう事になるかも知れん。キショウを野放しにしておくわけにはいかんからな」
「はっ」
「よろしい。密書の内容等々、疑問があれば答えられる部分は答えよう」

 そう問われた隊長は、少し思案してから尋ねた。

「その……密書に記されている事は本当の事なのですか? ショウエンが邪仙であるとか、西方の術者に空飛ぶ船であるとか……」
「そう。それらは全て本当の事だ。ごく一部の者しかまだ知らされていない情報だからこそ、この密書がキショウのしたためたものに間違いないと確信している。字も……奴のものであるしな」

 筆跡に関しても馴染みがある、というわけだ。

「承知しました。私からの疑問は以上です」
「もういいのかね?」
「はい。書いてある事が本当の事であり、キショウの書いた物に間違いがないのなら、職務においてもそれらを念頭に置いた判断が下せるものと考えております」
「うむ。では、ここからの対応を考えるとしよう。キショウの身柄を押さえなければならないが……手勢を屋敷に集めているのだったな」
「恐らく、書状を出した直後なので警戒を高めているのでしょう。都市内部に潜在的な敵が集まっているとなると……軍として見た場合は、数の上では少数でも些か危険かと」
「謀反を起こし中枢を掌握して取って代わろうとする、か。追い詰められれば有り得るな」

 オウハクの言葉に、ガクスイは渋面を作る。

「……城に単身で来させる、というのはどうでしょうか?」
「警戒しているのであれば、単身で呼び出すというのは難しいな。体調不良といった理由を付けて屋敷に篭ろうとするか、或いは同盟が成立したことを理由付けとして、護衛等の名目で身辺においたまま登城しようとするか……。いずれにしてもこちらが一人で来いと言えばそれだけで不審に思う可能性はある」

 手勢との分断は難しい。しかし、悠長に捕縛のために多くの人員を集めていては気取られる危険性がある。警戒しているのなら、当然、城や街中の兵士達の動きにも注意を払うに決まっているのだから。隊長の部下は命令をきっちり守っているが、ヨウカの意識がいつ戻って喚き出すかも分からない。いつまでガクスイ達が裏切りに気付いたことを伏せておけるか分からない状況。

 そう。裏切りは発覚してもまだ状況は予断を許さない状況なのだ。

「であれば……同盟を理由に訓練の名目で人を集めるというのは?」
「或いは同盟の発表と共に家臣一同が居並ぶ前でキショウの罪を明かしてしまうという手は……」
「公の場でそうしては、抗弁された際に密書の内容についても明かさざるを得んだろう。それは難しい」
「ではやはり、正攻法ですな。訓練の名目で制圧に足り、警戒が確信に変わらない程度の人員を迅速に集め――」



 ――3人は小声で具体的な対策や人員を集めるための手順を練っているが……まあ、そういう流れになったのならこちらも動いていいだろう。
 ガクスイ達の状況を掻い摘んでみんなに伝え、これからの方針を伝える

「それじゃ、城を訪問しようか。危険のある状況で行動を起こす前に丁度援軍が来たとなれば、均衡が崩れて攻めも守りもやりやすくなるからね」
「分かりました」

 グレイスが静かに頷く。ここで俺達が偶々戻ってきた、という状況を作ってやるわけだ。
 出撃のための準備は……どんな状況でも対応できるようにと、とっくにできていたりする。ゲンライ、カイ王子達と共にみんなで西門から堂々と都市内部に入り、真っ直ぐに城へ。

 そうしてガクスイに取り次いでもらう旨を門番に伝える。
 一方でガクスイ達の状況もカドケウスで把握している。女官が俺達の訪問をガクスイ達に伝えに行くと、彼らは驚きの表情を浮かべる。

「この状況でカイ殿下達が戻ってこられるとは」
「……せめて解決した旨を事後報告で、という形にしたかったですな」
「身内の恥ではあるが……仕方がない。仮に首尾よく制圧したとしても、キショウが失脚したとなれば隠しておくこともできまいよ。ましてカイ殿下は我らが主君となるお方。今後の不信を招かぬためにも、この場で包み隠さず話をするのが筋であろう」

 キショウの裏切りを露見させるにしても、こういったところで気苦労をかけてしまうのは申し訳なく思う。結局どういう形で発覚してもキショウが裏切ったという事実には変わりはないから、こうした気苦労もいつどういう形でやって来るか、という違いにしかならないのかも知れないが。

 そうして女官に案内され、城の一室でガクスイ達と顔を合わせる。
 香鶴楼に置いてあるものを取ってくる必要ができたので、戻ってくるついでに顔を出したのだと、気軽な感じで伝えるもガクスイ達は恐縮した様子で……キショウがショウエンに寝返ろうとしてたということを告げてきた。そうして、次に自分達の監督不行き届きというか、裏切りに関しての事を謝られた。

「誠に申し訳ない。私の不徳で、裏切りを招いてしまったものと理解しています」
「いや、私としては……ガクスイ殿に責任があるとは思わない。将軍として高く評価してもらっているのに裏切る方がおかしい。ショウエンに与することで他にはない利益を得られると思っての事なら……私が頼りないからショウエンの方が有利と思ったからかも知れないが」
「そのような事は……! カイ殿下がおられなければ、我らとてこの戦いの行く末に希望を持てませぬ……!」
「そう言ってもらえると助かる」

 カイ王子は苦笑する。

「まあ、儂がショウエンに力及ばなかったというのは事実。そこからああいう発想に至ったのやも知れんのう」
「将足るものが風見鶏のように勝ち馬に乗ってなんとしましょうか。やはり、我らがもっと先達としてしっかり教育をするべきだったのです」

 ゲンライの言葉に、オウハクが慌てて首を横に振った。

「確か彼は……生まれついての武家の名門、でしたね。才覚と家柄で周囲が認めてくれて……高待遇であるのが当たり前で、それが恵まれた状況だったと気付かなかったのかも知れませんね」
「ああ、そういう事なら分かる気がする。私も宮廷にいた頃は自分がどれほど恵まれていたかを知らなかったからね」

 と、カイ王子は言うが。カイ王子とキショウは違うだろう。仮にカイ王子と同じ状況になったとしても、キショウが同じような心境に至るとは俺には思えないし。

「いずれにしても、ショウエンに対する戦力が足りないといった懸念は払拭するべきでしょう。キショウを制圧するのなら、僕達も手勢として参加させてもらえませんか? 援軍がキショウの抜ける穴を埋めるに足るものであると、将兵達にも伝わるのであれば一石二鳥です。どうでしょうか? いっそのこと……そう、語り草になるぐらいに派手に叩き潰してしまう、というのは」

 俺がそう提案すると、ガクスイとオウハク、それに隊長は揃って目を瞬かせるのであった。

 そうして、謀反を万が一にも成功させないよう、城にも一部戦力をガクスイの護衛として残し――。俺達とオウハク。そしてその側近の武官達、そして警備隊長という面々で、キショウの屋敷を制圧するという話になった。

 では――きっちりと、くだらない行いの代償を支払わせに行くとしようか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ