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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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92 冬の訪れ

 宵闇の森の細い道を抜けると、いきなり開けた場所に出た。
 途端多数の魔物が四方から集まってくる気配があった。奥の道近くにイービルウィロウ。茂みの影からロックベアー。アングリーマッシュ他、森の奥から多数。
 ――中々大物が多いな。BFOなら所謂モンスター部屋扱いされるレベルだ。とは言え、みんな落ち着いたものだが。

「正面のアングリーマッシュは私が」

 言うが早いか、アシュレイの手にマジックサークルの輝きが生まれる。空中に無数の水球が生まれて、その上から上へと飛び移り、時に空中を蹴ってラヴィーネが立体的な挙動で迫る。

 水球や空中を足場にしているのは……自前の能力ではない。首輪型の魔道具に仕込んだ水上歩行やシールドの魔法によるものだ。
 野生動物ならではの反射神経で、空中に作り出した水球を足場にして自在に飛び回っているわけである。使い魔とは言え、魔道具もあっさり使いこなす高い知性は流石だと言えよう。

 完全に敵の姿を見失ったアングリーマッシュに、ラヴィーネは死角から飛び掛かり、後頭部に当たる部分に咬み付くと、そのまま力任せに振り回す。振り回したその先へ――アシュレイの作り出した水球が飛来してくる。
 水球が急速に凝固し、鋭く尖った氷柱となってアングリーマッシュを串刺しにした。どこまでがアシュレイの魔法で、どこからがラヴィーネの能力なのか。感覚リンクがあるとはいえ――彼女達はかなり良い連携を見せている。

「アシュレイとラヴィーネ、やる」
「私達も負けてられないわ」

 シーラとイルムヒルトが向かったのはイービルウィロウ。柳の化物だ。飛ばしてくる刃のような木の葉をシーラがダガーで撃ち落とし、真っ直ぐに迫る。
 ウィロウが枝で迎撃しようとした所で、瞬間的にレビテーションを使って慣性を殺すと、あらぬ方向へと高速離脱していく。振り払われた枝が虚しく空を切った。
 その瞬間。正面ががら空きとなる。
 後方に控えていたイルムヒルトから、爆ぜるような音と共に矢が放たれた。槍と見紛うばかりの大きな矢だ。ウィロウの顔面を容赦なくぶち抜いて行った。

 イルムヒルトが上半身に加えて尾も使って弓を引く事で、ようやく放てる巨大弓だ。勿論特注品である。矢も特注なのでここぞと言う時に使うべき代物だが――あまり出し惜しみし過ぎていても、扱いにいつまで経っても慣れないので、ウィロウなどの大物が出た時に、何回かに1度程度の頻度で使う、と決めているわけである。

 大物と言えば、今回はもう一匹。ロックベアーもいる。そっちはマルレーンの召喚獣が相手を務める。

 マルレーンが目を閉じて細剣を空に掲げると、切っ先の所に魔法陣が浮かび上がり――異変が生じた。
 荒々しい馬の嘶き。蹄鉄の音。
 音は聞こえるが、肝心の馬の姿がどこにも見えない。音だけが宵闇の森を進んでいき、緑色の炎が空間に瞬いた。
 薄らと向こう側が透ける姿で現れた首無しの騎士が急速に実体化し、馬の突撃の勢いに任せて大剣が振り切られた。ロックベアーの首が宙を舞い、剣閃の軌跡だけが空中に残る。

 さて。大物を彼女達に任せていると言う事は、俺とグレイスがみんなのフォローに回る役割を負うわけだが――。シーラとイルムヒルトは勿論、アシュレイも相当強くなっている。見ていて危なげがない。

 なので俺の仕事としてはゴーレムを作りマルレーンの背後を守るだとかが主になる。森の奥から湧いてくる、キラープラントのような数を頼みにする増援は、今回はグレイスが押さえている。そうする事で、みんな各個撃破が容易になるわけだ。

 まあ……乱戦に対応出来ないのかと言われると、そんな事はないのだけれど。
 不利な状況に直面した時の対応は、普段からゴーレムによる空中戦訓練でみっちりこなしているからな。実戦では乱戦など、避ける方向で立ち回るに越した事はないから、そうならないようにしている、というだけだ。
 さて、大物を片付けた所で手が空いた。みんながマルレーンの護衛に戻るなら、今度は俺が暴れてこようか。



「マルレーン。今日はどうだった?」

 神殿に戻って来てから尋ねると、彼女は明るい笑みを浮かべて頷く。概ね良好、と言った所だろうか。
 彼女の召喚獣はあれから何体か増えているが、デュラハン程直接的な戦闘に向いたものは、今の所召喚出来ていない。
 ただ他の召喚獣はサポート役としては中々優秀だったりもするので役割分担を考えた場合、これはこれでいいのだろう。傾向としては――やっぱり夜や月に絡んだ物が多いような気がする。

 マルレーンを迷宮に同行させる事については――打診して見た所、案外あっさり許可が通った。彼女がデュラハンを召喚して見せたのが効いたらしい。メルヴィン王は平時なら騎士や魔術師の指導役になって欲しい所だ、と俺に笑っていたが、それはさておき。
 許可の決め手はデュラハンだったのかも知れないが、どちらにしてもマルレーンの場合は声を出して助けを求められないので、いざという時に自衛が出来た方が良いのは間違いない。迷宮で力を蓄えておくのは場慣れという意味でも重要だしな。

「マルレーン様。疲れてはいませんか?」

 アシュレイが体力回復の魔法をかけるようかと尋ねるが、マルレーンは首を横に振って大丈夫だと意思表示する。

「そこはほら。訓練の方が大変だから」

 と、シーラが言う。

「実戦より訓練の方が厳しい方が安心だろ?」
「それは確かに」
「逆に、実戦で油断しないようにしないといけないわね」

 それは――イルムヒルトの言う事には一理あるな。あまり同じ場所に慣れ過ぎるのも良くないかも知れない。マルレーンの実力などを鑑みて、他の区画の探索にも出かけてみるか。まあ……それもこれも、冬の封印の扉が片付いてからの話だ。

「今日はこの後、ペネロープ様の所に顔をお出しになるのでしたね?」
「うん。当日の打ち合わせをしておく」

 精霊殿突入の当日についての打ち合わせだ。ペネロープに会えるとあって、マルレーンも嬉しそうにしている。
 神殿に向かうとすぐに巫女頭の控えている祭壇まで通してもらえた。ペネロープの姿を認めると、マルレーンが駆けて行く。

「ようこそいらっしゃいました。皆様、奥の部屋へ」

 マルレーンを軽く受け止めて、ペネロープが微笑む。
 奥の部屋に行き、みんなでテーブルについて話し合いとなった。

「今日は――精霊殿突入当日のお話とお伺いしていますが」
「そうです。正確にはその前日からのお話ですね。日付が変わる少し前に迷宮に突入して、扉が開くのを待つという形を考えています」

 少々の余裕を持って突入し、扉の開放待ちというのが望ましいだろう。
 その際――扉の前で魔人と戦いになる可能性も考慮しなければならないのだが……この辺どうなる事やら。
 リネットのような輩が研究を進めていた以上は、入口をすっ飛ばして迷宮に侵入される事も考慮しなくてはならないわけで。

 地上側で戦闘になった場合は――宵闇の森にメルセディアが連絡に来る手筈になっている。神殿上部には魔人は立ち入れないと言う事だし、当日はオズワルドやミルドレッドが神殿に詰めているそうなので、使い魔を使った攻撃への対策も取れていると思って良い。神官と巫女達の防御に関しては問題ないだろう。

「それでは前日になりましたら、神殿で待機という形を取るのがよろしいのでは。私どもも精一杯お持て成しをさせていただきますので」
「助かります」
「当日は神殿から祈りを送らせて頂きます。瘴気に対する備えはお任せ下さい」

 神殿総出で加護の祈りを送ると言う事になるのか。俺は元々大丈夫だが、みんなの瘴気に対しての防御面で不安が無くなると言うのは大きいな。

「それで当日、マルレーン様は――」

 マルレーンの事に話が及ぶと、彼女は自分の胸を軽く掌で叩くような仕草を見せた。

「……一緒に祈る?」

 聞くと、マルレーンは真剣な表情で頷いた。見習い扱いとは言え、巫女としての実力は確かだからな。流石に魔人を相手にするにはまだ近接戦に難があるので、当日は神殿で待機していてもらう予定だが。

「分かりました。それではマルレーン様。当日は私と一緒に、皆さまの武運と勝利を願って、祈りを捧げましょう」

 マルレーンはペネロープと笑顔を向け合っていた。何となく、仲の良い母娘みたいな雰囲気の2人である。マルレーンの母親は元々見習いの巫女だったと言う話だし、ペネロープとしてはマルレーンに対して思い入れがあるのも分かる気がする。

 その他、細かい所を詰めて――ペネロープとの打ち合わせを終えて。
 ギルドに向かって戦利品を捌いた。それからみんなで帰路に着く。馬車に乗り込もうと厩舎に向かった所で、目の前を白い物が舞い落ちてくるのが見えた。

「――雪、か」

 誕生日に貰ったマフラーを馬車の中から出して首に巻く。2人に笑みを向けると、彼女達からははにかんだような笑みを返してもらえた。
 普通の材質だし、大事な物なので迷宮には身に着けていけないが――暖かくていい感じだ。これからの季節、お世話になりそうである。
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