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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外228 裏切り者の処遇

 さてさて。キショウ直筆の密書と、その使いであるヨウカ。それからその馬をシリウス号へ回収。ヨウカには暫く意識が戻らないように梱包したままで水魔法を用いて当分眠っていてもらう。

「ふむ。こんなところでござるか」

 と、変装を終えたイチエモンが言った。衣服の脛のあたりや靴に汚れを付けて、いかにも今まで藪の中で仕事をしていたといったような印象に仕上げてきたらしい。足元に布を巻いて汚れが艦橋に付かないようにしてくれているあたり、気配りが細かいというか。

「また本格的ですね」
「今回は、多少は怪しまれる事も覚悟しているでござるからな。いざとなれば逃げて行方を眩ませてしまっても問題ないわけでござるし」

 今回は都市部近郊まで来たが材料が足りなくなって薬草を採取していた薬売りの商人、というイメージらしい。
 薬売り。ヒタカで村に潜入する時もそうだったが実際に薬草採取と調合ができるイチエモンにしてみると、信頼度の高い変装であるようだ。

 営業トークから販売。専門家相手にボロの出ない会話まで可能。調合の実演に症状に合わせた治療までこなせるとなれば……これは本職であることを疑う者もいないだろう。

「分かりました。カドケウスを連れて行ってください。問題がありましたら、こちらでも離脱の補助を行いますので」
「これはかたじけない。では、少々行ってくるでござる」

 そう言ってイチエモンはカドケウスを連れて艦橋を出て行った。

「そう言えば、北門の警備隊長とは面識があると仰っていましたが、どういった経緯だったのですか?」

 ゲンライとカイ王子に尋ねる。都市部北門の警備隊長は2人とも面識がある、とのことだ。だから、今回のキショウの裏切りを告発するにあたり、その警備隊長を頼ろう、という話になったわけである。

「警備隊長はオウハク殿の同郷らしくてのう。父母がオウハク殿にも世話になっているとのことでな。仕事も性格も実直で信頼のおける人物と、ガクスイ殿から紹介を受けたのじゃ。自分のところを訪問してきた時、街で困ったことがあれば彼の名を出して頼るように、とな」
「つまり、師父や私とリンの事情も知っているということになるね」

 なるほどな。申し分ない相手のようだ。

「ということは、今まで秘密を守っていてくれたということですから、間違いなく信頼の置ける人物、ということになりますね」
「うん。隊長さん、優しい人だったよ」

 アシュレイが言うとリン王女もにこにことしたままで警備隊長の印象を教えてくれた。マルレーンやユラと顔を合わせて微笑んで頷き合う。
 そういう事だな。事実としてキショウ達はカイ王子の事を知らなかったのだから、警備隊長に関しては秘密をしっかり守ってくれていた、ということになる。

 後は――こちらが再度ガクスイのところを訪問するタイミングだな。
 忘れ物をしただとか落し物をしただとか、理由は何でもいいのだが……一旦西に向かいはしたがすぐに戻ってきたのでついでに顔を見せに来た、という流れで、城を訪問するつもりでいる。キショウを告発し、それがガクスイ達に伝わって……対応に動いているところで城に顔を出すという流れだ。

 これにより、キショウがどう行動しようが迅速に鎮圧できるようにしようと考えている。何せ……今奴はショウエンに密書を送って警戒度を上げているからな。現在進行形で屋敷に柄の悪そうな手勢を集めている上に、職業柄軍にも顔が利く……というか、将軍そのものであるからして。
 悪事の発覚で後戻りができなくなってクーデター、などと直接的で乱暴な手を使おうとする可能性もある。そういった手段はきっちり封じなければならない。

 そうこうしている内に、イチエモンも門の所へ到着する。五感リンクであちらの状況を確認。都市部に到着したのでオリエ達にも情報が伝わっているようだ。

「申し訳ない。私は薬草を調合したものを売り歩いている旅の者なのですが、近場の街道で倒れている人を見かけまして。私一人では助けるのに些か手に余りそうなので、どなたか同行……は、持ち場があるから無理でしょうか? 警備隊長のような責任者の方にお話を通していただけませんか?」

 門の見張りをしていた兵士達にそう話しかけるイチエモンである。兵士達は顔を見合わせると、少し待っていてくれと言い残し、詰所にいる警備隊長のところへ走っていった。
 ここまでは良い。怪我人救助に一人では手が足りないこと、門番達は持ち場があるから責任のある人物の許可を、という話を自分から持ち出す事で流れを誘導する、というわけだ。
 時間を空けずに詰所から警備隊長が出てくる。イチエモンに対し肩書と名を名乗るなど、丁寧に対応している様子だ。イチエモンも偽名ではあるが自己紹介を返し、簡単に自分の事と今の状況を説明する。

「その……私は薬売りなのですが、薬草を採取していましたら、怪我人が倒れておりまして。少々説明しにくいのですが、私一人では救助するのにも骨が折れそうでして……手を借していただけたらと。ええと、何と申しますか。倒れている方は帯刀していたりと、少々剣呑な雰囲気もありましたので、一人でその場にいるのは少し怖かった、というのもありますが……」

 と、申し訳なさそうに言うイチエモンである。

「そういう事でしたか。確かに、何かの事件という可能性もありますな。俺と……それから部下達を連れて行く事にしましょう。その場所まで案内していただけますか?」

 警備隊長が言う。
 そう。事件性を臭わせる事で警備隊長に自ら来てもらう、という寸法だ。イチエモンが快く承諾すると、警備隊長も相好を崩したのであった。



「……よし。あっちは問題ないらしい。こっちも準備を始めよう」
「分かりました」
「現場に足跡を残さないように気を付けてね」
「了解」

 現在、街道から少し外れた場所にシリウス号は浮かんでいる。眼下には地面に陥没したような穴が開いていた。これについてはコルリスの仕事だ。地下にあった空洞が崩れて落盤したというように自然な形で作ってもらっている。

 ここに捕虜となって眠っているヨウカだとか、奴の乗っていた馬だとかを上手い具合に配置してやる、という寸法だ。
 たまたまヨウカが馬で通りかかったら空洞が崩れて落馬。顎を強く強打して気絶。馬は斜面を滑り落ちて気絶したがとりあえずは無事、というような筋書である。

 イチエモンが戻ってくるまでの間に、空中から自然な形になるよう馬の足跡や滑り落ちた痕跡を土魔法で斜面に残したり、眠っている馬やヨウカを配置したりと、何人かで手分けして事故現場を構築する。

 地面が崩れ落ちて馬から投げ出された後に、受け身も取れずに顎を強打した、という形に見えるようにヨウカを配置。顎を伸ばしたような形でうつ伏せにその場に転がす。馬も斜面を滑り落ちた後に気絶してしまったというように、痕跡に合わせるような形で寝かせておく。
 裏の治癒魔法による強制的な昏睡状態だ。まあ、ヨウカも当分は目を覚まさないだろうし、 目が覚めたら牢屋の中、という事になるのだろう。

 そうして現場の構築が終わり、上空のシリウス号に戻って少し待っていると、イチエモンが警備隊長達と共に現場にやって来る。

「ここです。あの穴です」
「これは――」

 事故現場を見て警備隊長達が目を丸くする。大穴が開くように崩れ落ちたその底に、うつ伏せになったままで動かない男と、気絶している馬とが転がっている、という状況だ。一人では手に余る、というイチエモンの説明にも納得いく光景だろう。

「……どういう状況なんでしょうか、これは」
「あー……。地面の空洞が崩落した、ということかな? 見ろ、穴の底は掘られたものじゃなく、草花が生えている。つまり地表が崩れたんだ。馬の足跡はこう続いていて――斜面に馬の滑り落ちた跡が残されている」

 警備隊長は馬から降りると穴の縁に屈んで、状況を見ていたが……コルリスの作った穴を見てそう判断したらしい。実際に地下に空洞を作ってから落盤させているから、そうとしか見えない代物ではある。

「つまり、事故ですか。馬で通りかかったら足元が落盤して……えーと、馬から投げ出されたのかな、ありゃ。不運なこって」

 警備隊の面々も事件性はなさそうだと判断したのか少々弛緩した空気が漂う。

「気の毒な話だな。早いとこ穴の底から引き上げてやろう。だが、馬は少々手こずりそうだな。足の骨なんかを折ってなきゃ良いんだが……」
「降りて大丈夫でしょうか? 深い穴に入ると底の空気が悪くて死んでしまうなんて話を聞いたことがあるんですが」
「……見ろ。馬も人も、呼吸はしている。息があるってこった。多分大丈夫だとは思うが……そうだな。俺がまず腰に縄を付けて降りてみよう。俺がもし意識を失ったりこうやって――片手を挙げて合図をしたら、すぐに引き上げてくれ」
「承知しました」

 腰に縄を巻いて、隊長は斜面を滑るように穴の底に降りていく。

「ふむ。大丈夫そうだな。思ったほどの急斜面じゃないから、意識が戻れば自力で上がれるだろうが……馬にも縄をかけて引っ張れば底から引き上げられる、か」

 隊長は穴の底に付くと異常がないことを確認し、それから状況を分析。安全であることを穴の上の面々に伝える。

「2人残して降りて来い」
「承知しました」
「危険がなさそうなら私も降ります。薬の持ち合わせがあるので、お役に立てることもあるかと」
「ああ、協力感謝する」

 イチエモンも警備隊と一緒に穴の底に降りる。
 隊長はヨウカに声をかけたが――反応がない。うつ伏せのままでは治療もままならないから、そっと身体を仰向けにさせるが――。

「よ、ヨウカ殿……? 確かに少し前に北門を出て行ったが……それに、これは……?」

 ひっくり返したところで、その相手がヨウカだと気付いたらしい。そして、上体を持ち上げたところでひらりと……密書が零れ落ちていた。その内容が嫌でも目に入ってしまうような形で。

 隊長は目に飛び込んできた文面に目を見開く。それはそうだ。キショウの裏切りの証拠が赤裸々に書かれているのだから。震える手で拾い上げ、内容に目を通していく隊長。

「まさか、そんな……。いや、奴ならば……ガクスイ様への裏切りも……有り得る、のか? それに、ここに書かれている内容……」

 そう言って驚愕の表情を浮かべたまま、思案する隊長である。どうやら言い回しからしてキショウには良い印象を抱いていないらしいな。

「隊長。どうなさいました?」

 部下が声をかけたところで隊長は我に返ったのか、はっとしたような表情で振り返る。そうして――少しの間目を閉じていたが、やがて言った。

「いや。済まなかった。この倒れている者は……ヨウカ殿だ。しかし、状況から見るに、罪を犯そうとしていた嫌疑がある。この書状は、その証拠に他ならない。我らには拘束して街へ連れ帰る必要があるだろう」

 そう言いながら、ヨウカの武器を取り上げる隊長。状況判断にしても何にしても、勇敢で有能な人物だな。部下達も驚いてはいるが、隊長の指揮が的確だからか大きく取り乱したりといったことはないようだ。

「しょ、証拠、ですか?」
「一体、何が書かれていたんですか?」
「……お前達は知らない方がいい。というか、大勢に晒せる内容じゃない。俺の責任で上には報告をしておく」

 そうだな。機密扱いの作戦内容が書かれている上に将軍が被疑者とあれば。場合によっては秘密を知っていたらキショウから口封じなんてことも有り得る。

「あ、あの。私は、どうしたら……?」

 と、不安げにイチエモンが尋ねる。イチエモンの処遇を問われ、隊長は思案するように腕組みをしながら、口を開く。

「……倒れていた人物は顎を打って気絶しているだけのように見える。治療の必要はない。それに……穴の中には私達が来るまで他の痕跡が無かった。君がこの穴に降りていないのは……間違いない、と。他言無用だ。ここであった事を誰にも言わないように約束できるか?」
「は、はい」
「よろしい。では、できるだけ君に迷惑のかからない形でこちらで全て事後処理を行う。君の証言等々は多分必要ないだろうが……念のために少しの間、街に滞在していて欲しいのだが構わないか?」
「そ、そう、ですね。元々、薬草の材料を集めたらあの街で商いをする予定でしたので」

 と、イチエモン。後はまあ状況を見て、必要なら隊長のために証言しても良いだろうし、キショウの事が片付けば大手を振って正面から出ていく事もできるだろう。
 場合によっては何だか大事そうで怖くなったから逃げるとでも書置きを残してまた変装して脱出すれば……姿を暗ました理由にもなるだろうし。

「分かった。君が泊まる宿まで一人同行させてくれ。他の者はすぐに動け。ヨウカを拘束して……あー。他の奴に見つかると面倒だ。こいつには頭に袋をかぶせておいた方が良いな。それで街へ連行し、牢屋に叩き込んでおけ。誰かに何か聞かれても全部俺の責任だと言っておけ。だが牢からは出すな。絶対に、だ」
「しょ、承知しました」
「馬はどうなさいますか? 少し見た感じ、足の骨等は無事なようですが」
「後回しだ。こいつを牢屋に叩き込んで……その後で馬を引き上げる。数人見張りをここに残しておくのが良いだろう。もし馬が目を覚まして自分で動けるようなら街まで一緒に戻ってこい」

 そうして警備の面々は慌ただしく動き出す。隊長以下の者達も責任感のあるよく訓練された者達のようで。
 当然というか、部下も含めて信頼できるようでなければガクスイが隊長をカイ王子達に紹介するはずもないか。

 ……とまあ、こういう筋書きだ。間抜けな事に、裏切ろうとしたが事故で密書をその場に落としてしまった、というわけである。

 あんな連中、策謀を読まれて負けたというような過程すらくれてやるのも勿体ない。
 間が抜けていたからまともにお使いも出来ず、間が抜けていたから受け身も取れずに落馬して気絶。そのまま発見されて陰謀が発覚してしまう。
 そんな笑い話程度で語られるような形にしてしまうぐらいで丁度良い。間抜けで不誠実な裏切り者。名誉も何も、残してやらない。

 さあ。後は、キショウが何もできないように仕上げを完璧にこなすだけだ。
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