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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外226 義務と決断

「私についても話をしておいた方がいいのかも知れないな」

 シリウス号の紹介とそれを用いての作戦伝達が終わったところで、カイ王子が声を潜めて言ってくる。

「……彼の翻意は、恐らく促せないと思いますが」
「構わない。説得のために必要な事はしておく義務がある。上手くすれば冷静さを失わせる効果が大きくなるかも知れないからね。仮に危険があるとしても、囮になることもできるだろうし」

 義務、か。カイ王子の立場としてはそうかも知れない。
 説得が不調に終わった場合でも、焦らせる効果も確かにあるかも知れないな。キショウとしてはシリウス号の情報と併せて、何としてもショウエンに伝えて点数稼ぎをしたい、と思う、かも知れない。

 ショウエンに密書で情報を伝えようとするか、それとも直接カイ王子の身柄を狙うか。キショウは今までの傾向から見るに、自分の立場を担保しておこうと保険をかけようとするので、直接カイ王子を狙うという事はしなさそうではあるが……。

「そういうことでしたら、殿下にお任せします」

 と、俺は一歩下がる。カイ王子は頷き、特殊メイクを落としてガクスイ達の所へと向かう。

「私についての事も話をしておこう」
「これは……カイ殿下」

 ガクスイとオウハクは居住まいを正し、キショウと文官の代表として会合に参加しているロコウという人物は、少し驚いたような表情を浮かべてからガクスイ達に倣う。一瞬――ガクスイとオウハクが心配そうな面持ちを浮かべたり、キショウにわずかに視線を向けたのが印象的だった。

 サトリが助言してくれなくても、今のは何となくわかる。
 察するに……合理性を前面に出した意見を述べる事の多いキショウだけに、カイ王子の存在を知った場合、それを利用しようとしないかという不安がある、ということなのだろう。

 2人ともキショウの参謀としてのスタンスについては把握しているし参謀役故に許容できる部分もあるのだろうが、それがカイ王子に絡んだ事となると……2人とも譲れない部分の方が多いために懸念の方が勝ってしまう……というところだろうか?
 できるなら、カイ王子とは引き合わせたくない相手、だったのかも知れない。

「キショウ殿とロコウ殿にはお初にお目にかかる。ショウエンに暗殺されかかったところを、ゲンライ殿に命を救われ、門弟として修行を積んでいたのだ。秘密にしていた事はご容赦願いたい。一度は命を狙われた身。停戦が成立してしまえば私もガクスイ殿の陣営に迷惑はかけられないからね」
「なるほど。そういうことでしたか。私としては気にしてはおりませんぞ。驚きはしましたが。しかし……ショウエンめ。暗殺とは……」

 と、普段は中立的な立場になるよう努めているというロコウの表情にもショウエンへの嫌悪感が浮かぶ。

「確かに、どちらに転ぶか分からない段階ではショウエンとの停戦を唱えている者には明かせないことではありましょう。しかし、私とてショウエンになど心から従うつもりなどなかった……ということは先程の会合でのお話でご理解いただけたかと」

 と、聞き分けの良い事を言っているが。サトリの読心によって伝わってくるところでは、内心でショウエンに報告して恩を売るには十分だとほくそ笑んでいたりする。
 やはり……カイ王子が正体を明かしても説得は無理、ということか。サトリからの情報では、キショウは相当に仙人の異能や不老長寿という部分に魅力を感じているらしいな。

「どうやらそのようだ」

 カイ王子はキショウの言葉に静かに頷くと、ガクスイとオウハクに向き直る。

「お二方に、相談したいことが一点あったのだ。ホウシン殿の言葉を私なりに考えたことなのだが」

 と、前置きを置いてから切り出す。

「私は今まで、自身を王たる器ではない、と考えて、表舞台に立たないように動いてきた。しかし……混乱を一日も早く治めようと思うのなら、ショウエンを打倒した後は私が即位するべきではないかと……。そうホウシン殿は言う。私が表舞台に立つと言ったならば、私についてきてくれるだろうか?」

 カイ王子は決然とした表情でガクスイ達を真っ直ぐに見やる。
 カイ王子の言葉を聞いてガクスイとオウハクの表情は、驚愕と期待が満ちたものになっていく。ロコウは事前情報が無かったから驚きの方が勝っている印象だが。

「おお……殿下……。御決断なさいましたか……。表舞台に立たないように、というのは……私達も殿下の行動から読み取っておりました。政の世界は決して清廉なものではなく、平坦なものでもない。それゆえ、我らもそれを致し方ないことと思い、殿下に意見を述べないようにして参りましたが……」
「無論、殿下がそうなさると仰られるのであれば、我らは臣としてお仕えする所存でございます」
「いきなりの話で驚いてはおりますが……私とて天子様の臣に御座います」

 そう言って、カイ王子に臣下の礼を取る3人である。一瞬遅れてキショウも臣下の礼を取った。
 まあ、これ以上キショウの言い分や内心はあまり聞きたくない場面ではあるかな。

 ガクスイとオウハクの2人は……暗殺の経緯も、リン王女の存在も知っているし、政治の大変さもわかっている。そんな兄妹を、また政治の中枢に呼び戻す事には葛藤や抵抗があっても当然だ。
 だからこそ、カイ王子が決断してくれた事が臣として嬉しいのだろう。
 そもそもカイ王子を敬っていなければ、国内の意見が割れている時に匿ったりなどしなかっただろうしな。

「ありがとう。この国の混乱を一日でも早く終わらせられるように力を尽くそう」
「はっ!」

 カイ王子の言葉に、ガクスイとオウハクの返事が重なるのであった。



 そうして会議も終わる。同盟についての伝達も滞りなく終わり、ガクスイ達も呼応して動くということで話はまとまった。
 表向きは、の話だ。ガクスイ達は忠義の士に間違いない。しかしキショウという懸念材料を抱えている以上は、その対策を万全にしておかなければならない。

 そんなわけで、裏では色々動き出している。クラウディアは都市内部に転移拠点を作り、オリエとカリン達は都市内部に糸を張り巡らせていくといった具合だ。

「くっくっく。では始めるとしようか」

 と、バロールの補助によって光魔法で姿を隠したオリエが、街の上空で笑う。背中から更に4本の蜘蛛の足が出て――人化の術を半端に解除しているような状態。西方の人化の術とはまた違う、のかも知れない。妖怪変化としては姿を変えても力を行使できるといった具合か。
 折角なのでバロールの視点で仕事風景を見せてもらうことにしたが……オリエは上空から都市内部をぐるぐると何度か周回して地形を確認すると、2つ、3つと真っ白な球体を作り出した。

「行け――」

 それを射出する。球体が飛んでいく後ろに、白い糸が尾を引いていく。手元で操るような形で球体を操作し、都市部に糸を張り巡らせていく。街並みの、人の手の届かない高さや位置に糸を貼り付けていっているように見える。

「あれは、まだ糸となっていない素、とでもいうような代物でな。それに魔力を込めて操り、任意の場所で糸を作り出している、というわけだ」

 そんな風にバロールに向かって教えてくれるオリエである。なるほど。蜘蛛糸版のマジックスレイブみたいな術だな。
 カリン達はと言えば、それぞれで射出された球体を追いかけるように動いていた。街中を町娘のようなふりをして歩き回り、オリエの展開した糸に自分の糸を接続したり、往来の細かな部分に糸を飛ばして糸の結界を完成させていく役割を追っているらしい。

 オリエ自身にもカリン達からの糸が接続されていて、それでやり取りをしながらあちこちに糸を広げていっているようだ。カリン達はオリエの視界では届かない位置の糸玉の誘導役を担っているとのことである。
 かなりの作業量を並行してやっているようだが、大妖怪ともなるとこれぐらいの事も可能というわけだ。
 若かりし頃のレイメイや御前と喧嘩をして、勝負がつかなかった、というのも納得ではある。

 大分小さくなった糸玉であったが――最後に城郭にも飛んで行って要所要所に糸を貼り付けていく。

「……一先ず、街中はこんなところか。最早この都市は我らが庭も同然……。後はシーカーやハイダーを潜入させて、そこに糸束を接続してやれば良い」

 と、作業を終えたらしいオリエがにやりと笑う。カリン達もやがて作業を終えたのか、オリエのところへ戻ってくるようだ。

「ふむ。バロールを通して話は聞こえているのだったな。キショウとやらの屋敷を特定してもらえると助かるのだが。カリン達に聞き込みをさせてもいいのだが、そういった直接的な諜報は不慣れだから、ボロが出ないとも限らん」

 オリエの言葉を受けバロールの目蓋ごと、頷くように応える。

「うむ」

 オリエはそれを受け、楽しそうに相好を崩す。
 キショウに関しては既にカドケウスを尾行させている。一旦登城してから家に帰る、という流れのようだ。

 会議が終わったところで俺達も北西、南西の諸侯に渡りをつけるために早速行動を開始する、と通達してあるからな。キショウとしては出来るだけ急いでショウエンに接触を図り、情報提供をしなければ目論見もご破算だ。
 シリウス号は作戦の説明の後、すぐに西に飛んで行ったと見せかけて、実はUターンして戻ってきて、都市部の近くで姿を隠して停泊中だ。恐らくは、俺達が不在になったと思って、すぐにキショウは動くだろう。
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