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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外225 説得と策謀と

 内心で余所者の俺達に悪態をついていようが、停戦に水を差されたことに文句を言っていようが……それは別に構わない。しかしただ自分のため、保身や野心といった理由で裏切りを決意されたのでは捨て置けない。
 とはいえ実際に行動を起こすまではこちらとしても泳がすしかない。曲がりなりにもガクスイの陣営の重鎮であるのだから。

 問題が起きた旨をあらかじめ決めておいた符丁で知らせる。小さく咳払い二回してから喉に手をやる、という感じだ。やや緊急性あり。早めに話をしておきたい、という内容。
 するとゲンライが、タクヒが少し外の空気を吸いたいと言っている、と機転を利かせてくれた。

「すまんの、少し気難しいところがある奴でのう」

 ゲンライの言葉にタクヒが合わせるように窓に向かって翼をはためかせ、外に行きたいというようなアピールをして演技をしてくれた。

「それでは、話も長くなるし少し休憩を入れるか。その間、こちらは要点を纏めておこう」

 と、ガクスイ。というわけで部屋を出て中庭に面した廊下へとカイ王子、ゲンライと一緒に向かう。タクヒが嬉しそうに中庭の上を飛び回るように飛んでいく。少し遊ばせ、それを見守る、といった形だ。
 人がいないことを確認してから限定的な空間で音を遮断。
 念のためにカイ王子とゲンライに翻訳の魔道具を装着してもらい、俺は逆に魔道具を外す事で、西方の言葉で話しかければ説明のための話を聞かれても問題ない、という寸法だ。

「僕の言葉の意味がわかりますか? そちらからの返答は普通に、こちらの国の言葉で聞こえてしまう事に留意して下さい」
「承知した」
「うむ」

 と、注意事項を伝えたところで色々と説明していく。タクヒが楽しそうに飛び回っているのを微笑ましく見守っているような。そんな風を装って。

「キショウは……どうやらあの話で邪仙に魅せられ、裏切りを決意したようですね。僕達が来る前の作戦の提案も、ショウエンに対抗する手段を模索しつつも、いざとなればあちらに寝返って保身を図れる余地を作ることを目的としたもののようです」

 サトリから聞かされたところを色々と話をしていく。俺達はあくまでも助っ人の立場だからな。カイ王子達の意向次第、というところはある。

「あの話でそんな結論になるとは……」
「……嘆かわしいことじゃな」

 2人も俺に合わせたのか、口にしている内容の割にはあっさりとした表情だ。内心では随分呆れているのかも知れないが。

「他の陣営の配下、しかも重鎮でもありますからね。僕としては証拠や行動を伴わない時点で排除というのは難しいかなと考えています」
「流石に、それはね。禍根になるからとこちらが先に行動したら、奴とやっている事が同じになってしまう」

 と、カイ王子が苦笑する。奴――つまりショウエンの事だろう。そうだな。それでは暗殺や謀殺の類だから。

「そんなわけで、作戦についてはこのまま説明して、その時点で翻意を促せるなら監視しつつも放置し、決意がそのままであるなら行動したところを証拠として押さえる、というのは如何でしょうか?」

 そもそもが説得のために動いているわけであるからして。裏切りをしようとしている相手に対して翻意を促せるのなら、元々の目的には沿うものである、というわけだ。
 まあ、キショウは信頼も信用も出来ないのでその場合でも作戦の蚊帳の外に置くつもりでいるが。

「ふうむ。行動を阻止できない事で生じる危険はないかの?」

 2人とも言い回しに気を使っているな。固有名詞を出さないようにしているし、具体的に何がどうなるというところには触れていない。ゲンライの言う危険というのはつまり、キショウの行動を阻止できず、ショウエンにこちらの手の内が晒される事であるが。

「問題ありません。その場合は裏の作戦を用意し、伝わってしまった表の作戦を逆手に取る方法を考えれば良いのです。そもそも表の作戦でも諸侯に伝えていない部分はありますからね」

 伝えていない部分――具体的には、始源の宝貝が眠る墓所の事である。

「なるほど……。あの船なら色々な作戦に柔軟に対応できるか」
「というような対策を考えたのですが、この方針で良ければ」
「私からは異存はない」
「儂もじゃ。行動を起こすまで、というのは致し方あるまい」

 では、決定だな。戻る道すがら、通信機でみんなやシリウス号側に残っている面々にも連絡を入れておこう。これについては西方の文字なので見られても全く問題ない。

 作戦を伝え、シリウス号を見せても尚、裏切りという考えを改めないなら……その時は行動したところで証拠を押さえて叩き潰すことになるだろう。

『――という事になったから。西方の文字が分からない面々に伝えておいて欲しいかな』
『わかりました。シリウス号に居残っているみんなから、何かの提案が出たら僕達から返信してお伝えします』

 と、シオンからの返信が返ってくる。

『うん。よろしく』
『任せて!』
『そっちも、気を付けて』

 マルセスカとシグリッタである。
 というわけで話も纏まったので会議の場へと戻るために俺も翻訳の魔道具を改めて装着しておく。
 ゲンライが合図を送ると、庭で遊んでいたタクヒが早速戻ってくる。

「ありがとう、タクヒ。良い演技だった」

 と、そんな風に礼を言うと、タクヒは目を細めるようにして笑顔めいた表情を俺に向け、小さく声を上げて答えてくれる。梟は何というか、表情豊かな感じがするな。
 梟が目を閉じた時のそれは人から見て笑顔っぽいというだけなのだろうが、タクヒの場合はそう見える、という事を理解していて意思表示のためにやっているような気がする。

 というわけで、連れ立って会議の場へと戻る。その途中で、早速返信があった。

『我とカリン、レンゲ、ユズで、糸をこの都市に張り巡らせておこう。シーカーとハイダーであったか。あれを通しても振動音が伝わってくれば情報を集めることができるからなって、オリエが言ってたよ!』

 マルセスカからだ。オリエの言葉をそのまま文字としてこっちに送ってきた感じだが……。そうだな。オリエと小蜘蛛達の糸をシーカーやハイダーにくっつけることで、情報収集ができる。そんな連係技もマヨイガで確認済みであるらしい。
 文字通りの監視網を残しつつ自由な行動が可能、というわけである。

 キショウが実際に行動を起こそうとするその時に、仮に俺達が不在であったとしても、転移魔法で戻ってくれば即座に対応が可能、という寸法。

 まあ……説明して翻意が促せないのなら、早めにキショウが行動を起こすように仕向けてやるつもりではあるから、長引かせるつもりもないのだが。

『それじゃ、よろしく頼むって伝えておいて』
『了解した、だって。オリエとカリンちゃん達も、早速動くって言ってた。私達で、シーカーとハイダーは、動かしておく』

 今度はシグリッタからの返信である。ふむ。シグリッタのいつもの話し方については通信機の文面だと若干反映されないところがあるかな。
 さて。カイ王子、ゲンライとも話をして道筋もついた。監視の方法も決まり、早速オリエ達も動き出したようだ。

 そうなるとここから俺のするべきことは通常通りということになる。
 作戦の説明をして、シリウス号を見せる、という形だ。サトリからキショウへの読心はそのまま続けてもらうとしよう。



 そうして――都市外部にてシリウス号を見せた上で作戦の説明もしたのだが。それでもキショウの翻意は促せなかった。
 キショウとしては俺達の立てた作戦がどうやら不満、らしい。サトリが読み取った奴の主張というか思考を纏めると――

『確かに……空飛ぶ船は脅威ではあるのだろうが、人の手で作る乗り物など……宝貝を扱う仙人の手にかかれば撃ち落とせるのではないか……?』
『そもそもあの作戦では駄目だな。将兵の消耗を減らす方向で考えられているから、俺の采配で手柄を立てる事ができんではないか』
『手柄を立てられずにショウエンが打倒されてしまえば、新王朝での出世には繋がるまい』
『ならばこそ。やはりショウエンに恩を売っておくべきだ。空飛ぶ船がある事が分かっているのといないのでは全く違ってくる。ショウエンに情報を渡せば大きな貢献となるだろう』

 ……といった具合だ。
 シリウス号に対して、宝貝を手にしたショウエンがまともにぶつかった場合か。
 その見立てに関しては俺もどうなるか分からないが……少なくともそんな運用法をするつもりはないし、簡単にみすみす撃墜されるのを待っているつもりもない。
 しかし少なくともキショウの翻意は促せなかったらしい。

「ええと。僕達はこの後、北西部と南西部の諸侯に渡りを付けてきます。あちらとの交渉で少しの間不在になりますが、戻って来るまでそれほど時間はかからないかな、と」
「承知した」

 ガクスイ達が静かに頷く。俺の言葉を受けてのキショウの思考をサトリが読み取って伝えてくれる。

『空飛ぶ船か。あまり座して待ってはいられんな。早い段階で密書を送らなければ』

 密書、ね。了解了解。
 ではそれに合わせて俺達も動くとしようじゃないか。
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